優しい・・・?

「はぁぁぁぁ~・・・」


「まぁーまぁー、元気出して!!」


 絢夏は、お昼ご飯を食べながら私を慰めてくれる。


 結局あの後、男子生徒が誰なのかが分からず。(学年も分からなかった)


 私を助けてくれたのは、十中八九彼なのにぃ・・・。


 お礼もお詫びも言えてない・・・。


「あれ、次担当だっけ?」


「うん、増やしてもらった・・・」


 保健室から出て慌てて本部に行ったら、彼がバトンと旗を渡してくれたみたいだったし・・・。


 5種目目の片付けも、他の人にやってもらっちゃって・・・。


 申し訳なくて、他の仕事を回してもらった。


「本当に皆さん、ごめんなさぁいいい!!!」


「あー、葛藤しとる葛藤しとる。でも、次の担当引き受けちゃったんだから、早く食べなよ?」


「うん・・・」


 お母さんが作ってくれたお弁当を頬に詰め込み、一気に飲み込む。


 お茶を飲もうとして、水筒の蓋を開けた。


 ―――――次の瞬間。


「おい、こっち来んなって!!」


"ドンッ"


"ビシャッ"


「あっ」


 水筒の水が一気に零れて、ビシャビシャになってしまった。


 ぶつかったのは、1年生の男子生徒のようで顔を真っ青にしている。


「ごっ、ごめんなさい!!」


「ちょっと、あんた達!!今は昼休憩でお弁当食べてる人もいるんだから、大人しく」


「絢夏、良いよ。私は大丈夫だから。君は?怪我とかないよね??」


 ご立腹の絢夏をなだめ、1年生に問いかけた。


 1年生男子は、半泣き状態で頷いた。


 謝りまくって来る1年生男子もなだめ、保健室に避難する。


「あーあ、これ着替えないとだね」


「そうだね。あ、先行ってて良いよ。次、応援でしょ?」


 3年生は、全員必須で最低2種目は出なきゃいけない。

①応援orダンス

②二人三脚or借り人

+代表者のみリレー


 私はダンスだから、応援の次の次。


 だけど、応援は昼休憩直後だ。


「そうだけど・・・」


「私、保険委員だから。あと、実行委員の皆に」


「次の準備ね。OK言っとく」


「ありがとぉ・・・」


 本当に、実行委員の皆さんには申し訳ないな・・・。


 絢夏には先に戻ってもらい、体操服を探す。


「あ、あった」


 服を着替え、濡れた方は水につけておく。


 さすがに、下着までは変えられないからそのまま。


「あっ」


 そういえば、水筒なくなっちゃったんだった。


 後で、買いに行かないと・・・。


 間に合うかな?


 ダンスは、後でチアみたいな衣装に着替えるからなぁ。


 時間あると良いな。


「あ、やばい。時間!!」


 絢夏の応援、見たい!!


"ガチャ"


「うおっ」「わっ」


 急いで扉を開けると、視界一杯に体操服と応援団の法被が・・・!?


「ご、ごめ」


 慌てて離れる。


 絢夏?心配してきてくれた、とか・・・??


 いや、でもこんなに背が大きくは・・・。それに、法被の色ちが・・・。


「・・・だいじょぶ?」


「!!!???」


 そこには、例(告白事件)の男子生徒が右腕に水のペットボトル、左腕にチアの衣装を持っていた。


(えっ、何で!?)


 頭の中では、本当に混乱状態でワタワタと焦る。


「え、ええと!?き、着替えに来たの!?」


「えっ・・・、いや、違う」


「じゃ、じゃあ、どしたの!?」


(着替えに来たわけないじゃん!!何で、応援団の法被着てんのに着替えんのよ!?)


 自分の中で、自分の言葉にツッコミを入れながら視線を斜め右にずらす。


 か、顔が良過ぎる・・・!!


 改めて見ると、イケメンだわ・・・!!!


 眩しい・・・。


「さっき水筒の水こぼしてたから」


「え」


 し、ってるんだ。


 彼が渡してくれたペットボトルを見て、ポカンとする。


 あっ、冷たいのだ。


「あと、そこで福本?さんが」


 そう言って、チアの衣装を渡してくれる。


 い、至れり尽くせり・・・。


「じゃあ、次だから」


「あっ・・・!!!」


 やばい、行っちゃう!!


 でも、言いたい事あり過ぎて時間ない・・・!!


「ちょ、ちょっと待って!!」


"クンッ"


 彼が着ている法被の裾を掴んで、引き留める。


「えっ」


「あ、あの、色々と話したい事あるから、体育祭時間あるかな!?」


 早口で言うと圧が強すぎたのか、彼は引き気味に頷いた。


「ま、まぁ・・・」


「良かった!!じゃあ、体育祭後に屋上で!!!」


 それだけ言って、会釈する。


 そして、全速力でチアの衣装着替え場所に直行した。


"ガチャン"


「あっ、渡野さん。さっき、福本さんから」


「うん、衣装もらったよ!!ありがとね~」


「ううん、良かった。見つからなかったから」


「ええと・・・、水筒の水こぼしちゃって」


 笑ってそそくさと着替えを始める。


(・・・っああ、大丈夫だったかな!?)


 『失礼じゃなかったか』『強引じゃなかったか』など、今更考えても遅い事をグルグルと考える。


 結局は、"もうしょうがない"になったが。


「あれ、渡野さん?髪どうするの??」


「あっ、ポニーテールで良いかなって」


 高めに1つに結び、シュシュもつける。


「どう?」


「可愛いじゃん!!」


「あ、ありがと///」


 クラスメイトから褒められ、ちょっと照れる。


"ガララッ"


「はーい、3年女子出番ー!!」


「あっ、はーい!!」


 ペットボトルを掴み、教室を出る。


 容器の端から、雫が1滴だけ垂れた。

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