恐怖

 反射的にギュッと目を瞑り、身をかがめる。


(絶対痛い・・・!!)


"ゴッ、ボトッ、ドサッ"


「・・・?」


 痛く・・・、ない。


 頭を守っていた腕をどかそうとすると、押さえつけられているようで身動きが取れない。


 段ボールが落ちて来たから?


 ―――――いや、それにしては全く痛くなかったし。


(じゃあ・・・?)


 思わず強く締め付け過ぎたからか、腕の感覚が薄い。


 少し経つと感覚が戻ってきて、体温を感じた。


 ―――――自分じゃない、誰かの体温を。


"ヒュッッ"


 『誰かの体温を感じている』と認識した瞬間、自分の意識とは関係なく喉が鳴る。


 一気に喉が渇く。心拍数が一気に上がり、体温も一気に上昇する。


 夏場で体温が上がって暑いはずなのに、体が思いっきりガタガタと震えだす。


 大丈夫。違う、"この人"は私を落ちて来た段ボールから守ってくれている状況で・・・。怖がる必要は無い。"この人"は、悪くない。


 頭ではしっかりと理解が出来ても、体の神経が私の操作範囲外に飛んでいく。


 混乱して、頭が真っ白になる。つい、爪が腕の肉に食い込む程強く握ってしまう。次第に、視界が歪んできた。


「っぅ・・・」


 私を庇ってくれた"この人"は、痛そうな声を漏らす。


 『大丈夫ですか?』『庇ってくれてありがとうございます』『救護班の人呼んできますね』


 かけるはずの言葉、かけるべき言葉なんていくらでもあった。


 "この人"の体温が、肌の感触が離れていくのを感じて内心ホッとする。


「だ・・・、ぶ・・・」


 "この人"の心配する声が、微かに聞こえる。


 ぼんやりとしてほぼ色しか見えないような視界の中、また肌色の物がこちらに伸びて来るのが分かった。


"パシッ"


 ほとんど力が入らなかったのに、勝手に腕が動いた。


 もう何も見えない。


 けれど、どこかで何かが何かを弾く音が聞こえた。




* * *




「んぅ・・・」


 手の甲で、目をこする。


(あれ・・・、ここ・・・)


"ガバッ"


「「あ・・・」」


 私が起き上がると、扉の方にいた男子生徒と目が合い、お互いに驚きの声を発した。


「あ・・・、ど、どうも」


 とりあえず、なぜここにいるかは不明だが挨拶をしておく。


 その男子生徒は、"私が告白を目撃してしまった"時の男子生徒だった。


「ああ」


 彼は、そっぽ向くと流れるような動作で扉の取っ手に手を掛けた。


「あっ、待って!!」


「―――――ん?」


 彼はこちらを向かずに、たっぷり間を開けた後に返事をした。


「あの・・・、私をここに・・・、その、運んで、くれた?」


「・・・」


 しばしの沈黙。


 誤解しないでいただきたいのは、決して『触れられたのが気持ち悪い』という訳では無い。


 (私が重くて)手間をかけさせてしまったし、もし先程の"この人"が彼ならずいぶんと失礼な事をしてしまった。


「・・・違う」


「えっ」


"ガシャン"


 私が問いかける前に、彼は出てしまった。


 止めようとして伸ばしかけた手が、行き場を失う。


「違うって・・・」


(そんな訳なくない?)


 彼は怪我をしている様子がなかったから、用が無くてここにいるのはおかしい。


「後で、聞いてみるか・・・」


"パーン"


 グラウンドの方から、鋭い銃声が響いた。


「あっ!!??」


 バトンと旗!!あと、片付け!!!

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