もしも子供に戻れたら

一ノ瀬 夜月

祖父と孫


 「おじいちゃん、ひさしぶりだね。......会いに来たよ。」


 チャイムの音に引き寄せられるように玄関を開けると、孫のあんずが一人で立っていた。


 確かに、小学三年生という年齢を考慮すれば、電車で数駅の距離にある、わしらの家まで一人来ることは、なんら不思議ではない。


 けれど、気配りのできる杏が連絡もよこさずに来たことが、少し引っかかる。


 ......色々考えていても仕方がない。折角来てくれたのだから、家でくつろいで貰うとしよう。


 「あぁ、久しぶり。わしも杏に会えてうれしいよ。


 それと、立ちっぱなしだと疲れるだろう?早く家に上がりな。居間にばあさんもいるはずだ。」



 「うん、おばあちゃんにもあいさつしてくるね。」


 

 杏は洗面所で手洗いを済ませた後、ばあさんの元へ挨拶に向かった。



***


 

 「杏ちゃん、久しぶりねぇ。元気そうで、おばあちゃんもうれしいわ。


 ......あっ、そういえば今日はこどもの日よね?今から柏餅かしわもちを買ってくるから、おじいちゃんと待っててくれる?」



 「杏のために、かしわもちを買ってくれるの?

 

 すっごくうれしいけど、おばあちゃんが大変なら、無理しないでね。杏は、飲み物だけあればじゅう分だよ。」



 「今日はこどもの日なんだから、杏ちゃんは甘えていいのよぉ。近くのスーパーに行くだけだから、すぐに帰ってくるわ。」



 杏を溺愛しているばあさんが押し勝ち、柏餅を用意する方針になったらしい。


 わしはどちらでもいいが、ばあさんがいない間、杏と何を話そうか?

 

 お茶を用意しながら、そうわしが思案していると、杏がふと、質問を投げかけて来た。


 

 「おじいちゃんは、もし子供に戻れたら、何をしたいの?」



       「はぇ?」


 予想外の質問を投げかけられたため、すっとんきょうな声を出してしまった。


 すると、杏もわしの驚いた様子を見て申し訳なく思ったのか、あたふたと弁明する。


 「えっと、今日はこどもの日だけど、杏もいつかは大人になる日が来るでしょ?


 その時までに、何をしておけばいいのか、杏よりずっと長く生きてるおじいちゃんを参考にしたくて......」


 なるほど、つまり杏は、将来に不安がある訳か。けれど、わしを参考にとは、よく言ったものだ。


 わしは、杏にとってお手本になるような人ではない。むしろ、反面教師にすべき存在なんだ。 


 そんなわしが、杏に言えることは......



 「わしがもし子供に戻れるなら、知らないこと、わからないことに挑戦したかったな。」



 「えっ?何かフワフワした答えだね。もっと、これをやるべきってことはないの?」



 「杏の年齢なら、可能性は無限に広がっているから、何をやっても力になる。


 むしろ、何でもいいんだ。自分の知らない、やったことないもの挑戦すること自体に価値があると、わしは思う。」


 わしは、挑戦も努力もせず、のうのうと生きてきただけ。今になって人生を振り返ると、つまらないことばかりだった。


 だから杏は、わしみたいになってはいけないんだ。もっと起伏のある人生を生きて、最後は、幸せの絶頂に辿り着いて欲しい。


 この想いを少しでも汲み取って貰えると、いいのだが......


 

 「う〜ん、やったことないのだと、ぬいぐるみ作りに興味があるよ。あとは、お料理もやってみたい。


 それと、外国へ行きたくて......」



 良かった。あまりアクティブな子ではないにしろ、杏の中には、たくさんのがあるのか。


 それなら、心配は要らない。きっとわしより素晴らしい人に成長してくれるだろう。



***


 「ただいま帰りましたぁ。杏ちゃん、ほら、柏餅食べなよ。」



 「おばあちゃん、ありがとう。」


 杏は、ばあさんから柏餅を受け取ると、一口かじった。そしてーーー



  「甘くておいし〜」と喜ぶのだった。


                 

                  完



あとがき



 どうも、こんばんは。皆様はGWをどのようにお過ごしですか?


 私は、予定に追われてあまり休めていません。(半分嘘です。2〜3日暇な日があったのですが、マンガを一気読みしてしまい、気がついた時には夜でした。だらけるのが癖になりそうで怖いです💦)


 さて、今後の投稿に関してですが、次回はおそらく「短歌・俳句コンテスト」に応募する作品を投稿するはずです。


 最近、参加出来そうなイベントがなかったため、少し楽しみです。


 では、本日はここまでとさせて頂きます。最後までご愛読頂きまして、ありがとうございました。


 


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