保護した少女を守護ってます

電さん

第1話 プロローグ

 僕がその少女に出会ったのは4月の下旬、例年に比べて随分と寒い日の事であった。


 高卒である僕がやっとの思いで入った会社から帰ってきた頃だった。5時帰宅なのにも関わらず慣れない仕事で随分と疲れてヘロヘロになっていた時に僕の家の玄関前に佇んでいる人影を見かけたのだ。


疲れていた僕は空き巣か? と一瞬思って顔を強張らせたがよくよく見ると少女であった。少女が空き巣をしないとも限らないがきっと大丈夫だろう。


少女はまだあまり暖かく無い季節のはずなのに着ているものは薄くてボロボロ。見るからに空き巣とは別のベクトルで不審である。


「どうしたんだ? 家出少女か?」


 きっと僕は訳が分からなくて半笑いであるはずだ。他人から守れば少し怖いかも知れない。現に目の前の少女は少し怯えている。


「助けて下さい……」


 蚊の鳴く様な声で少女は僕が想像していた通りの言葉を返す。


 それもそのはず袖から見えている肌は青く変色している。考えるまでも無く殴られた跡だ。それがどう言う事かは誰でもわかるだろう。


「ずっと外で話すのもなんだ……中に入れ」


 とりあえず俺もずっと外にいるのは寒いし周囲の目も気になるので少女を家の中に招き入れた。少女も僕を悪い人じゃないと判断したのか後ろについて来てくれた。


 その足にはすら靴も履かれていないがそんな事は気にしないで家にいれる。汚れなんてあとで掃除すれば良いだけだ。今はこの少女が優先だ。


 そして居間まで行き机の反対側に少女を座らせた。


「……何かあったのか?」


 この様相から何も無かったと言う考えは一切無い。むしろ相当の事まで僕は覚悟していた。


「ネグレクトって知ってますか?」


俯きながら口を動かす少女の表情は暗く辛そうだ。


「あぁ……育児放棄か……それを受けてたのか?」


「はい……あと少し虐待も。それで逃げてきました。高校の為のお金もパチンコなどで使われてしまって……」


 俺は黙り込んでしまう。予想通りと言えどニュースでしか聞かない存在と思っていた者がここにいるのだ困惑したり戸惑ったりしてしまうのも無理はない。


「こんな僕で信用できるのか?」


家に入れておいてこの言葉はないなと自分でも感じるが気づけばもう言葉を紡いでいた。自分で言うのなんだが僕は意外と人から怖がられる。それは大概が184cmという高長身の所為である。


「はい……調べたらあなたが一番家が近かった親戚でしたので。かなりの遠縁ですけど……」


「ごめん……僕は君を知らないし、君の親を知らない」


「うちの親、一切親戚付き合いしてませんでしたから」


 僕はネグレクトするくらいだからそんなもんかと相槌を入れる。

少し親の話をするだけでも少女は辛い記憶が蘇るのか顔を歪める。


「私は夏桜なつざくら結衣ゆいです。今、16歳で高校には通ってません。どうかお願いします! ここに居候させて下さい」


 頭を机に打ちつける勢いで頭を下げる少女にもちろん僕は断るなどと言った鬼もドン引きな所業などしない。元より困っている人は助ける主義だ。

笑顔で言葉を返す。別に家が狭い訳でもないから少女1人余裕で引き取れる。


「良いよ。ここ部屋余ってるし。僕は山村やまむら翔生しょうせい。今、18歳の社会人一年目」


 僕がそう言うと少女は笑みを浮かべた。随分と痩せている少女を見ていると少し悲しくなる。


「あと一つ聞いて良い? 君の親が君を探す為に警察に連絡したりしない? そうなると僕、色々と面倒な事になっちゃうから」


警察に僕が誘拐したとか吹き込まれたらたまったもんじゃ無い。それだけが僕の心配事だ。


「それは大丈夫ですよ。あの人達は警察が嫌いなので」


僕は安心できる様な安心出来ない様な気持ちを抑えながら相槌を打つ。この少女は最早親と呼ばない。


「すみません……お風呂貸してもらっても良いですか?ちょっと寒くて……」


「あぁ、良いよ。廊下出て左。もう沸いてるから大丈夫だよ。服は男物しかないけど許してね」


「すみません……ありがとうございます」


 少女は優しい笑みを浮かべて廊下に出た。僕は料理の準備を始めた。


 ここから僕たちの同居は始まった。



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