第38話 Lv.1に新たな能力

 秩父ダンジョン攻略。

 まずは一番近いフロアにある、Dランクモンスターのキラーアントの巣の掃討へ向かった。


「――【インパクト】!」


 一番近くにいた巨大アリにエリィが一撃。キラーアントの頭部を吹っ飛ばす。



「ユウキ!」

「おっけ!」


 巣から出てきたアリたちの集団に向かって、ユウキがロッドを構える。


「【ウォーターカッター】!」


 水の刃が次々とキラーアントへ襲い掛かり、足を切断していった。

 それでも尚藻掻こうとする巨大アリだが――すでにタネは仕込まれている。


「【フリーズ】!」


 パキリッ!


 ユウキが放った水魔法でできた水溜まりが一瞬で凍り付き、キラーアントたちの足を固めたのだ。


 ――今!


 相手が拘束されたと同時に、エリィと壱郎が動いた。


「よいしょ、よいしょ、よいしょ」


 青いエネルギー体(という設定のただのスライム)を拳に纏わせた壱郎の一撃一撃が、次々とキラーアントの身体をふっ飛ばしていく。


 ――私も!


「出力10%――【インパクト・1分モード】!」


 エリィがスキルと共に加速する。

 1分モードとは、インパクト状態を1分間の間常時発動するモードのこと。出力パーセンテージが低いほど時間が伸びていき、インパクトの連撃が可能なのだ。


 そして――キラーアント相手なら、この10%で倒しきれる。


「――はぁぁぁああっ!」


 エリィの大剣がキラーアントの身体に沈み込んだ……のだが。



「――!?」



 ――た、倒しきれてない……!?


 相手はDランクモンスター。エリィの攻撃力なら、この一撃でいつも倒せるはずなのに……キラーアントはまだ動いていた。


 ――出力変更!


「20%――【インパクト・30秒モード】!」


 考えてる暇などなかった。

 すぐに出力を引き上げ、二回目の斬撃を繰り出す。


 今度はキラーアントの身体を引き裂くことができた。


「よしっ――次!」



 わずか1分。


「……ふぅ。まずは1つ目、だな」


 全てのキラーアントを駆除し終え、壱郎は一息つく。


:ナイス~

:はっや

:はぇえw

:強すぎワロタ

:キラーアントくんって、こんな簡単に勝てるの?

:絶対無理だゾ

:前衛二人が脳筋すぎるだから…


「いや、今のはユウキの氷魔法のおかげだよ。足止めしてくれてたから、ここまで早く狩れたんだ」

「んぇ? えっへへ~……そんなそんなっ」


 壱郎から褒められ、ユウキが照れくさそうに頭をかく。


「でも……確かに通常種より強かったね。キラーアントなら10%程度で倒せるはずなんだ」


 エリィは先程20%に引き上げたことを思い出す。



「全体的なレベルが上がってるってことか?」

「うーん……でも、見た目は普通のキラーアントだったよね? どこか別の特徴なんてなかったし」


 突然変異で上位種モンスターに進化することは偶にあるのだが――今さっきのキラーアントは見た目は何も変わってなかった。


 まるで――パワーだけがそのまま引き上げられているかのような、そんな状態。



「もうちょっとだけ調べてみよう。他のモンスターも強くなってるかも」


 というエリィの案に、壱郎は「あぁ」と声をあげた。


「それなら今、丁度いい相手が来たよ」

「……?」


 エリィが壱郎の指さした方を見ると――20m先に見える、ぼんやりとした影。


「コボルトの集団5体……確かあいつらもクエスト対象だったよな?」

「え、見えるんだ? 光源なしで、あの距離見えちゃうんだ?」


 シルエットのみしか見えないエリィに対し、相手の数まで言い当てた壱郎にドン引きする。


「……よし。エリィさん、ここは俺に任せてくれ。本当に強くなってるかどうか、確かめてくる」

「あ、うん。了解っ」


 とりあえず壱郎はやる気満々のようで、エリィは頷く。


「じゃあ――あいつら、倒してくるな。手を出される前に」


 赤ネクタイを左へ流し、戦闘モードへ切り替えた壱郎が動いた。


 走ってきた彼に気が付いた影たちも、一斉に接近してくる。

 壱郎が言った通り、Dランクモンスターのコボルトの集団だった。


「おっと」


 コボルトの爪が壱郎に振りかぶられるが、それを難なく止めて、カウンターの蹴りを繰り出す。


 ――ドパンッ!


「……あれ?」


 そのひと蹴りで……コボルトの身体が弾け飛んでしまい、壱郎は首を捻った。


「おかしいな……今の、牽制のつもりだったんだけどな……」


 ――牽制であの一撃とか……どんだけパワーがあるんだ、あの人。


「壱郎! 今だよ!」


 と、攻撃を受け止めたのを確認したユウキが叫ぶ。


「今ので! 顕現をイメージしてみて!」

「ん、了解」


 そう……『ジャバウォックの涙』と『反転の秘宝』を組み合わせて能力無効化できるのなら――反対はその逆。

 能力コピーである。


「……おぉ。本当に出た」


 試しに念じてみると、壱郎の拳の先からコボルトの爪に似たものが青白いエネルギー体として顕現された。



「よし、やってみよう」


 そう言うと、残りのコボルトに向かって駆け出す。


「ほいっ、ほいっ、ほいっ」


 左右の爪を振るうと、コボルトたちは次々と引き裂かれていった。


「おぉーっ……これはなかなか便利だな」


 最後の一匹を倒し終え、壱郎が嬉しそうにエネルギー体の爪を眺めるが、ふっと爪は消えてしまった。


「スキルの持続時間は約30秒……ってとこかなっ!」


 とユウキが嬉しそうに壱郎の元へ駆け寄ってくる。


「うんうん、正常に動いてるねっ」

「すげぇなユウキ。お前の武器、めっちゃいいよ」

「壱郎の実力があってこそだよ。いぇーい!」

「おう、いぇいいぇーい」


 テンション高めな二人はそのままハイタッチ。


「…………」


 その様子を黙って見ていたエリィはポツリと呟いた。


「ま、魔王に……魔王にエクスカリバーを与えてしまった……!」


:草

:ワロタ

:たとえが秀逸で草

:アカン(アカン)


 ただでさえ無敵の壱郎に、付与されたコピー能力。秒数制限があるとはいえ、これほど凶悪なコンボはないだろう。


 まさに『鬼に金棒』、『虎に翼』、『壱郎にコピー能力』である。


 ――で、だ。


「ところで、壱郎くん」

「ん? どうした?」

「コボルトはどうだった? 強かったかな?」

「……えっ?」


 エリィの問いに壱郎はきょとんとし、腕を組み……やがてポツリと答えた。


「……よくわかんなかった」

「あっ、だろうね! わかるはずないよね!」


 壱郎に任せたエリィがバカだった。

 どんな強敵をもワンパンするような男に、相手の強弱などわかるはずなどないのだ。


「……壱郎くん、しばらく援護。主な戦闘は私とユウキに任せてくれないかな?」

「えっ? うーん、それは構わないが……俺も何か役に立ちたいんだが」

「違うんだ、立ちすぎてるんだ。役に立ちすぎてて、むしろ調査できないんだ」

「そうか……そうかぁ……」


 決して否定されたわけじゃない。それどころかめちゃくちゃ評価されたのだが……エリィのお願いに壱郎は少しだけ肩を落とした。

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