そのスライム、無敵につき~『永遠のLv.1』とゴミ扱いされる貧乏社畜、Sランクモンスターから人気配信者を助ける。敵?追ってきませんよ、ワンパンしたので~
第34話 Lv.1ドッキリ企画!~ブラック企業ざまぁ編~
第34話 Lv.1ドッキリ企画!~ブラック企業ざまぁ編~
「なっ……」
「なんだね、君たちは?」
入ってきたのは左右白黒髪の少女と、金髪碧眼の美少年。
明らかに社会人とは思えない格好の乱入者たちの登場に、すぐさま短剣を隠した引村は怪訝な表情を見せるが……壱郎は別の意味で驚いていた。
何故なら――突然入ってきた二人に、とても見覚えがあるのだから。
「あっ、初めまして! 私、冒険配信者をやってるエリィと申します!」
「同じく配信者の木野ユウキです!」
「え、あれ……?」
――なんで二人がここにいるんだ?
呆気にとられている社員たちに目もくれず、エリィは壱郎の元までスタスタ歩いてくると、ペコリと頭を下げてきた。
「ごめんね、壱郎くんっ。渡すネクタイピン間違えちゃった」
「……間違えた?」
「そうそう」
きょとんとしている壱郎に、彼女はポケットから全く同じネクタイピンを取り出す。
「こっちが本当に渡そうとしてたもの。そっちはねー……ネクタイピン型の小型カメラなんだ」
「……えっ?」
「……っ!」
――小型カメラ? なんで?
困惑する壱郎に構わずエリィがピンを取り替える。
が、取り替えたピンを持つと、少し眉間に皺を寄せて振り返った。
「ねぇユウキ? このピン、ちょっと熱くない?」
「あー……まあ小型カメラだから、排熱処理がね。小型ファンを取り付けられるスペースも限られているからさ、仕方ないんだよ」
などと言って「ん?」と、ユウキが不思議そうな顔をする。
「そのネクタイピン……熱いの?」
「うん、とっても」
「普通、カメラが起動しなくちゃ熱くならないんだけどなぁ……?」
「……あれ?」
「あれれ?」
お互い首を捻りあう二人。その会話は棒読み口調にも聞こえる。
確認のため、ユウキも壱郎の元へ駆け寄ると……例のネクタイピンを見て、「あーっ!」とわざとらしく声を上げた。
まるで、ここにいる全員へ聞かせるかのように。
「スイッチ――これ、スイッチ入っちゃってるよーっ!」
「え、えぇ~っ!?」
「――!!」
ユウキの言葉にオーバーリアクションで驚くエリィ。そして……本気で目を見開いている引村に向かって、笑顔で頭を下げる。
「すみませーん。動作不良かなにかで一連の流れ、録画されちゃったみたいなんですけどー」
「…………」
「まあでも、会社の朝礼で録画されちゃマズいことなんてないですよねー……あっ。もしかしてぇ――なにか不都合なものでも映ってるんですか?」
「……っ」
エリィのおどけるかのような声のトーンが、途中で低くなった。
「………………いえいえ」
エリィの言葉に一瞬顔を歪ませた引村だが、すぐに優しそうな笑みを浮かべる。
「そんなものないですよ。会社にとって不都合なことなんて、なにも」
「…………」
「ただまあ、ただの朝礼とはいえ企業機密ですからね。今すぐそのデータを消していただければ……私どもは何も言及いたしません。今回は不問にしますよ」
「……ふーん」
余裕のある態度で手を差し出してくる引村だが……エリィはその張り付いた笑顔に騙されたりしない。
「自分の社員に刃物を向けるのは不都合ではない――そう言いたいのですか?」
「――っ」
ピシリ――とこの場の空気が凍った。
「発言権がないって言ったことも、人格否定したことも? ……そもそもこれ、パワハラですよね? それでも尚、不都合がないだなんて
「……ちっ」
さっきまで余裕だった表情が一変。小さく舌打ちをすると、問い詰めるエリィの手からネクタイピンを奪い取る。
「世の中がわかってねぇな、お嬢ちゃん? そういうのはな、証拠がなかったらそっちが
「……!」
「【プレス】!」
メキャリ――と引村の手の中で嫌な音がなった。
ゆっくりと手を開くと、ネクタイピンだった残骸がバラバラと落ちていく。
「――これでデータはなくなった。お前らの詭弁なんて、誰も信じないんだよ」
「…………」
「……?」
ニヤリと笑みを浮かべる引村だが……エリィの表情は不思議と落ち着いていた。
――なぜだ? なぜ落ち着いていられる?
証拠となるデータは消えた。壱郎への悪質な態度を記録した重要な手がかりが目の前でなくなったのだ。
だというのに――彼女の表情に余裕があるのは何故か。
引村にはそれが理解できなかった。
と、エリィが不意に天井を見上げ、声を上げた。
「……ってことらしいんだけど。私とこの人、どっちを信じる? ――ねぇ、みんな」
「みんな……?」
エリィの指す『みんな』とは、一体誰のことだろうか?
この場にいる全社員? ――いいや、この場合は。
:ばっちり証拠映ってて草
:どう考えてもエリィの方が正しいやろ
:エリィ!
:エリィを信じるに決まってんじゃん
:はーい!このクソ社長が悪いと思いまーす!
:いぇーい、社長見えてるぅ~?
:山田ぁ!来てやったぞぉっ!
「――っ!?」
「……!」
エリィの呼び掛けに応じて降りてきたのは――追尾型のドローンカメラ。
そして、ドローンの上に映し出されている
「……僕たちばっか見てて、上見てなかったでしょ?」
驚きの表情を隠せない引村に向かって、ユウキが軽くウインクする。
「な、なんだこのドローンはっ……!?」
「なにって……最初に自己紹介しましたよね? 僕たち、冒険配信者だって」
「つまり――今、配信中なんです」
「な、ぁっ……!!?」
ニッコリと微笑んで断言するエリィに衝撃を受ける。
つまり……あの時カメラを壊したところでまったく意味がない。それどころか、もっと状況を悪化させてしまったのだ。
「お、お、お前らぁっ……!!」
BlackLuckの悪行は暴かれた。
ネット上に晒され、引村の拳が怒りでわなわなと震える。
「こんな真似して許されると思うなよぉっ……! 配信なんてふざけた真似を――!」
「ふざけてるのはどっちなの」
エリィが怒りのこもった声で引村を睨みつけた。
「なんの役にも立たない? 社会の最底辺? ……うちの壱郎くんをなんだと思ってるんだ」
「……っ」
「レベルが低い人には何をしたっていいの? レベル差が絶対なの? ……あなたみたいな存在が社会にとって癌そのものなんじゃないかな?」
「こ、こ、このっ! 小娘がぁっ――!」
「おっと」
エリィに煽られ、懐から取り出した短剣を突き刺そうとしてくる引村だが――一閃。
「――あがぁっ!!?」
カンッと甲高い音が鳴り響き……壱郎によって短剣は天井へ突き刺さった。
「それはダメだ社長。エリィさんを傷付けるのだけは、ダメだ」
「な、なぁっ……!? Lv.1の分際で――!」
「次やってきたら――あんたを狙うからな」
「ひっ――!?」
殺気。
壱郎の表情は変わらないものの……見えない何かに気圧されてしまう。
一歩でも動けば殺されてしまいそうな――引村はそんな気がし、自然と足が震えた。
「それと――さっき壱郎くんのことを笑った人たち」
エリィが続いて周囲を見回すと、社員たちの肩がビクリと跳ねた。
「人の目標をバカにするとか……どんだけ性根が腐ってるの? なにも行動しようとしないで、ただ他人を貶すだけ――そんな君たちは正しく社会のド底辺だよ」
その言葉に……誰も言い返すことができない。
エリィは蔑んだ瞳で
「っていうか、社長を気絶させちゃダメだよ。まだ渡すべきものを渡してないでしょ?」
「……えっ?」
「ほら、これ」
と、エリィがポーチから取り出したのは――退職届の封筒。
「念のためにコピーを取っておいてよかったよ」
「これ……どうやって――あっ」
そこまで言い、壱郎は気が付く。
今朝――エリィは壱郎の家の鍵を持っていたことを。
「細かいことは後回し! 壱郎くんは今、やるべきことがあるでしょ?」
「……あぁ、そうだな」
エリィに促され……壱郎は封筒を受け取ると、今一度引村の方へ向き直った。
「ひ、ひぃいっ!?」
さっきまでの高慢な態度とは考えられないような、とても情けない悲鳴が上がる。
「社長……」
「や、やめろ……来るな……!」
もう逃げられない。
今までの醜態は全て配信に映されてしまったし……そして何より、壱郎が僅かに見せた殺気が忘れられない。
「来るなっ……来るなぁぁぁあああああっ!」
結果……恐怖心に屈した引村は、逃げることも出来ず、ただその場で喚き散らすことしかできなくなっていた。
そんな彼の胸に壱郎は構わず退職届を押し付ける。
「――本日限りを持ちまして、退職させていただきます。残りの就業日数はすべて欠勤にしてもらって構いませんので」
「――っ」
もう引村は何もできない。
もし今、退職届を破ったら――次はどうなってしまうのか、わからないのだから。
そして……会社のブラックな部分を物的証拠で残して辞めることを、かつてエリィはこう教えてくれた。
:伝説の退職届!
:伝説の退職届きた!
:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
:伝説の退職届だぁぁぁぁぁ!
:うおおおおおおお!
:リアタイで初めて見たわw
:伝説の退職届だ!
:なんか感激した。幸せに地獄へ落ちてくれハゲ社長
:ざまあああああwwwww
一連の流れにコメント欄が盛り上がっていく。
「では皆さん、そういうことで!」
「帰るよ、壱郎くん。もうここに用なんてないんだから」
「二人とも、あとみんなも……ありがとな」
壱郎が感謝を述べると、二人は優しい笑みを浮かべてサムズアップ。
もうここにいる必要なんてない。
約10年間の呪縛から解かれた壱郎は、怯える社員たちを見向きもせずに事務所から出て行った。
――――――
ざまあ回、後半へ続きます!
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