第1話.よくある触手の話です②

一口に触手と言っても非常に多岐にわたる。


そもそも触手というものは「一般に無脊椎動物の口のまわりにあって,感覚器,捕食器,呼吸器などとしての役割をする表皮,筋肉性の細長い突起(改訂新版 世界大百科事典より引用)」を意味する。身近なもので言えばイカやイソギンチャクについてるあれだ。ちなみに勘違いされがちだがタコの場合は厳密には触手ではなく触腕と呼ぶ。無脊椎動物の先端に吸盤があれば触手であり、全長にわたって吸盤があれば腕らしい。現代日本に伝わる原初の異種姦百合触手プレイピクチャー蛸と海女は、実は異種姦百合プレイピクチャーとしては成立しうるが異種姦触手百合プレイピクチャーとしては成立しないのだ。


で、あるが。イチャラブものから純愛ファンタジーのスパイスにラッキースケベ、果ては無理矢理の快楽責めなどの廃人になりかねないドギツイシチュエーションまで幅広くカバーしてくれる触手は、ゴビロ界隈において必須の存在なのである。世はまさに大触手時代。本来の定義はどこへやら、ただの無脊椎動物の器官の一種には止まらない存在感を示しているのだ。


「と、いうのが大前提ね。ここからは一緒に触手の種類について見ていこうか」


「一ついい?」


「ん?」


「触手モノの純愛モノってこの界隈に出回るの?」


「普通にあるよ」


「見たことないんだけど」


「それはアンタの見識が狭いだけだね、パウカ。ゴビロ界隈だってハードエロリョナばっかりじゃないよ、ちゃあんと普通の純愛だって存在する。だけどさ、アンタ仮に対ゴブリンバトル濡れ場あり作品と幼馴染純愛モノならどっちに出る?」


「前者に決まってんじゃん」


「理由は?」


「後者はギャラが安い」


「でしょ?この界隈に長くいる奴らなんか私を含めて大体金目当てよ。純愛モノから入るタイプはここを踏み台にして他の作品に出ようとしてる奴らしかいないし」


「まあそれはそうか。純愛モノばっかでるタイプはここで長くやっていけないし」


そもそも体の損壊や蹂躙を何度も味わう界隈に長くいる方が異常なのである。


「じゃ、種類を見ていこうか。まずは生物型ね。……あ、マスター!このメニューなあに?」


「イソギンチャク型触手の味噌煮」


「いい匂いだねえ」


「コリコリとした食感と相性のいい味噌煮にしてみた。純米酒とよく合う」


「じゃあそのお酒もよろしく!」


「私も」


軽やかなやり取りはとてもさっき己が産んだモノ(調理済)を前にしたものとは思えなかった。まあここで異形の出産程度で心を痛めるようなメンタルの者は廃人コースに一直線であるため、ヨミとパウカの心の持ちようはある意味正しいといえる。


「今日産んだやつはイソギンチャクタイプね。繊毛を活かして擦り付けたり微細な針で発情成分を体内に注入してくるやつが多いわ」


「タコみたいなやつはまた得意分野が違うの?」


「あれはいろんなところに突っ込んだりするのが得意だよ。まあ最近は一つの生物でイソギンチャク型触手とタコ型触手持ってるやつが多いわ。イソギンチャク型で細かいところせめつつタコ型でズコバコしてオギャーだよ」


「今回のアンタもそんな感じ?」


「そんな感じ。プラスしてなんか先端に口みたいなのがついたやつもいたわ」


「想像したら気持ち悪いな…」


「ちなみに快楽漬けにしてそのまま丸呑みや苗床にしてくるのもこのパターンね」


「アンタよく逃げたね」


「年季が違うんだよ年季が」


「最悪の説得力」


イソギンチャク型触手の味噌煮をつまみながら二人はそんな会話を交わす。ヌルヌルとしたゼラチン質を思わせる歯触りの先にモツ煮込みのようなコリコリとした食感が味噌味とよく合った。郷土料理として出されればそんなに疑問を抱くことはないだろう味わいだ。


「他にも派生型のヒト型で一部だけが触手化してるやつとか触手椅子とか触手服とかもあるけど一旦パスね。とりあえずメジャーなやつから先に説明させて」


「一生知りたくはないけどギャラは魅力的だよね…」


概ね倫理観も貞操観念も死んでいるパウカの反応を気にすることなく、ヨミがぐいと酒を煽って言った。


「じゃあ次は動物型の次にメジャーな植物型の話でもしましょうか。マスター、植物型触手って入ってる?」


「ウツボカズラ型ならいくつか」


「じゃあ次はそのメニューでお願い」


「待ってもしかして触手料理縛りなの?」


「食べることは……生きることだから?」


「多分それは今使うべき言葉じゃない」

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