108短歌で厄祓い

先斗ひろり

108短歌で厄祓い2023

将来は一緒に住もうと言ったのを今でも信じ続けているが


背が伸びて随分凛々しくなったのね笑った顔は変わらないのね


ほんとうは寂しくっても死なないの一緒にいたい口実にする


擦りすぎて赤くなっている瞳は前世が兎だった証だ


リビングで転がり伸びて眠っては海老だった頃を思い出してる


お決まりのエビングハウスの法則で加速度的にきみを忘れる


先生は先生だから優しくてそうじゃ無くてもすきと言わない


脱がすまでシュレディンガーの性別なきみの手首が妙に細いな


滝壺に死体が転がっていたならそれは前世のわたしたちかも


滝の隙間から秘密基地に入れるよ奥には長老が座ってるの



アルコール十度のワインはほぼジュース(ほぼジュースってだけで酒だが)


先生と交際クラブで出くわして十八歳ってわたし書いたよ


加湿器で栄養剤を撒いたなら息するだけで良かったりする?


先生を恨んでたかも社会的抹殺するは少女の権利


死にたく無い具体的な死のプロセスを想起できないだから消えたい


遅くない細い手首をへし折って花瓶に生けて眺めてみよう


髪の毛と烏賊のするめの食べ方がよく似ついてて味がしないな


寒い中こたつでみかんを食べすぎた顔を鏡台だけが見ている


冷えた手をあたためるには眠ることそれでもだめならわたしを呼んで


母親がこんな時代にしもやけを患っていて食洗機かぁ



手元には無いと思っていた酒がうっかり飲めるだけのしあわせ


間に合えよ確かに十五歳のとき深夜に爪を切ったけれども


口笛で蛇を呼ぼうよ生きたまま酒に漬けたらどっちが勝つの?


そんなことで捕まりゃしないとわかっててる職場のペンはわたしを睨む


がたがたのピアスホールを埋め立てる液体だけを舐め取っていく


清廉に並ぶ綺麗なピアス穴まとめてゼロにしてしまえるか


ゼロ・ゲージ イカれたサイズの穴に向け欲を放たせほくそ笑むひと


クラスではビジネス親友してたよなだってハグすらできねえんだもん


三つ巴と勝手に言っているだけであの子の方は意識してない


炎症を起こして爛れた耳たぶを触るこれでもかと触ってる



一度だけ恋人のふりをしてくれる? もしくは恋人になってくれる?


軟骨にアンテナピアスをぶちあけて枕と喧嘩しながら眠る


舌先にピアスをあけてお口での奉仕がもれなくできなくなった


同時期に舌ピをあけたことだしさキスの痛みでチキンレースだ


春ならば売り尽くしたよ青苦い味にもとうに慣れちゃったよね


いつまでも同族と思われるのがつらくて着拒をしたともだち


新聞に一生載らないでいようね訃報もだめね不死身でいてね


ご当地のニュースできみが笑ってる写真が欲しくて欲しくて欲しくて


新聞のつまらん社説の題材になるくらいならここで死にます


歌舞伎町を眺めながら酒を飲んだストロー直は危ないんでしょ



裏アカの裏アカの裏アカの裏アカにしか無い裸の写真


凍ってるタオルを取り込みぱりぱりといわせるときに見える幻覚


あの空は光を失くしたばかりなのかわいそうだと言ってあげてよ


盛夏には真冬が恋しくなるけれど真冬には盛夏が恋しくて


陽炎の向こう側だけに広がる秘密基地とかで遊んでたい


娘なのに(それとも娘だからかな?)父の下着を畳んで仕舞う


きょうだいはわたしの下着に触らない罪悪感でもあるのだろうか


腐っても鯛で腐っても人間なのだしそんな卑下しなくても


後輩に初めてあんたといわれた日ちょっと世界が傾いたんだ


父親がいない年末年始だけ出てくるタイプの料理があった



「お父さん今日は仕事でいないから、ご飯適当で良いかしらん」


かわいいといくら褒められたところで埋まらないこの空白はなに


コーヒーにどぼり注いだブランデーの味がだんだんわからなくなる


クリスマスに貰ったお菓子を食べながら知らない地域のニュースを見てる


靴裏が赤いヒールで踏まれたらキル・ミー・クイーン合図は一度


永遠に断絶は埋まらないかも(ていうか埋める気すら無いかも)


昼食に食べきれなかった寿司たちを年越しそばと流し込んでる


もう酒とコーヒーどっちが美味いのかよくわからないし会計いくら?


夕方に爪が伸びすぎだと気づくそういや親はもう死んでたわ


六時前やっと電話が繋がって多忙なだけなら良いよ年の瀬



退院はおめでたいのか清潔で白い空間はいけないのか


咳きこんだその吐息だけ収集し小瓶に詰めてたまに吸入


腹上死しても良いけど後追いをしてくれないと赤子孕むぞ


爆速で巡る言葉を書き起こし解読不能にしないでよねぇ


十代の恋愛はすべて遊戯だと悪口を言う大人もいるし


人生は二十歳から始まるんだと信じてないと報われない日


月曜は燃えるゴミの日のくせして燃えないゴムのごみばかり出す


この世界のどこに使用済みコンドームをプラごみに捨てる馬鹿がいんだよ


休日を無限に連らせていると働きたくなるってのは嘘


祟りには所以があるが呪いにはそういう因果が一切も無い



音楽を聴くべきか生活音に耳を澄ませておくべきか、冬


朝八時鶯谷からタクシーに乗りたい女は全員同業


誰のために顔を仕立てているんだろう朝六時から開いてる風呂屋


どうせならレトロブームに便乗しクリームソーダに毒を混ぜよう


三億円を華麗に盗んできたのなら結婚しても良いかもしれない


千円で映画が観れる日にだけは観たくなかった映画があった


母親が実家と話してるときだけ聞けるあの語尾がすきだったの


猛獣が相互監視をするみたいSNSを見張りあうのは


家にある六十センチの水槽で泳ぐ魚がよく起こす事故


さようならもう二度と会うことは無いし思い出すことも絶対無いよ



九の段を言い切ったときほんとうにこれで良いのか疑っている


まぁどうせ二十年とか生きたって大人になんてなれないもんな


一向に風呂から上がってこないからとっくに溶けたかと思ってた


紅白の饅頭をミキサーにかけ薄ピンクにしてやっても良いが?


ひとりだと意外と笑うことも無いしスタバのフラペも飲みたくならない


ストップウォッチ 面会時間は十五分(病室までの往復込みです)


カルシウム入りのウエハースを齧る不味い栄養不味い栄養


服だって誰かに纏われたかったし捨てられたくも無かったろうに


ふりかけをご飯にかけるほかほかの白い部分が無くなっていく


ほうじ茶をやかんで煮出す間だけ読んで良いことにしてある本



わたしより長い髪の毛を結いて机に向かう横顔の向き


前髪が少し遅れてやってきて鼻の頭にはさりとかかる


長すぎる髪を切ろうよ長すぎて切れないのなら燃やせば良いよ


お姫様みたいに扱われてるとゴミ出しの日を忘れてしまう


愛してた証のアムカ跡たちがこのたびやっと消えてくれたよ


裏切った奴はこうしてこうしてこう!(放送倫理に反しています)


頭から離れない言葉があって綴りを指で宙に書いてる


ゴミ箱の近くにふと打ち捨てられたままの写真を今日こそシュート


言い訳をさせてほしいよ平手打ちってのは愛情の表現だ


DVは愛だと高らかに宣うお前を背後からそっと撫でる



愛してないどのくらいかといわれると殴ることすらしないくらいに


猫のような声で泣いている姿をよそにココアを一杯淹れる


ぜんぶ無視お前もお前もぜんぶ無視というか視界に入ってこない


パパの前では財布なんて出さないし逆に財布を買ってもらうか


脱衣所で脱衣をせずにじゃあなにをするっていうのなんて宣う


約束は破るためにあるんだからきみと結婚しなきゃいけない


どうしても手を繋ぎたいならまずは行き先だけでも教えてくれる?


煩悩の数だけつくられた話たちの行方を誰も知らない

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108短歌で厄祓い 先斗ひろり @heroryp

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