14 「洋楽が胸に刺さる」


「俺には元カノがいたって設定にするから...聖也は余計なことを言わないでくれ!」



帝翔は俺の手を握って懇願する。



「いいけど...でもこんな近くで、そんな大声で話してたら、多分マリアに丸聞こえだぜ」



俺はずっと気になっていたことを言った。


店に俺達以外の客はいない。


バックストリートボーイズの「I want it that way」が流れているが、それ以外は静かだ。


カウンターの方を見ると、俯きながらグラスを拭いている美智子さんが笑いを堪えている。


そして同じく俯きながらスナック菓子を食べているマリア。


絶対に聞こえてたはずなのに、気付かないフリをしてこちらを見ない。



「マリアさん、今の話聞いてました...?」



帝翔が聞くと、マリアは大袈裟に首を横に振った。



「いえっ、全然! 何も!」



演技下手かよ。


だが純粋な帝翔は信じてしまった。


頭良いんだか悪いんだか。


俺達は席に戻った。



「聖也には黙ってましたけど、実は昔彼女がいて。だから童貞ではないんですよ」



わざわざ否定するのがもう童貞っぽい。


俺は呆れながら、煙草に火をつける。



「へえー、どんな子だったんですか?」



マリアも悪い。


ニヤニヤしながら質問している。


狼狽える帝翔を見て楽しんでいた。


帝翔はわかりやすく目が泳いで、助けを求めるように俺を見た。



「えっと...髪は明るくて肩までの長さで...睫毛が長くて、顔は濃い方かな...水商売やってそうな格好いつもしてて...」



それって俺か?


よりによってモデルは俺かよ。


普段女に囲まれて仕事してるのに。



「名前は聖子ちゃん」



やっぱり俺だった。


マリアは笑う。


とりあえず、帝翔が無害だとわかればそれでいいか。

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