10 「ゼウスではない」


「お前、くそ失礼だぞ」



俺は帝翔に注意する。



「ごめんな、マリア。こいつは俺の幼馴染の帝翔。デリカシー無いから、失礼なこと平気で言う奴なんだけど、根は悪い奴じゃないから許してやってくれ」



そうだ、根は悪い奴じゃない。


帝翔は他人に興味がないから、気をつかうことは出来ないが、心開いた人間は大切にする。


こいつの不器用な優しさに助けられたことは何度もある。



「ごめんね、うちの息子なんだけど、ほんとアホで...マリアちゃん遠慮せず、たくさん飲んでね。息子が払うから」



美智子さんは申し訳なさそうに言う。


帝翔は不満そうな顔で俺を見た。


こいつの言いたいことはわかる。


帝翔は童貞を守っているだけあって、性に厳しい。


相手の女性にも、自分と同じ価値観を求めている。


処女でなくては嫌だ、とまでは言わなくなったが(学生時代は言っていたが、二十代後半で諦めたようだ)、性にだらしない女は嫌いだ。


つまり、マリアが俺のセフレだとしたら、話もしたくないし、ましてや奢りたくもない...そう目で訴えている。



「俺達、全然そういうのじゃねーから。マリアは俺の妹の友達で」



実際、そんな関係ではなかった。


見た目は派手だが、マリアは付き合っている彼氏としかヤらない、真面目な女だ。


遊んでる女には俺も遊ぶが、真面目な女にはちゃんとした対応をする。


帝翔は俺をゼウスみたいだと言うが、共通点は「雷」というだけで、俺はそこまで酷い男ではない。


女を泣かすより、むしろ泣かされてきた男だ。



「高2の時に聖也さんの妹...聖奈ちゃんとクラスが一緒で。それからずっと聖奈ちゃんと仲良しなんです」


「妹と一緒に三人で遊ぶことが多くて...って言っても、俺は二人の金ヅルか、運転係にされてただけだけど」



今日みたいに二人きりで遊ぶことも少なく無いが、マリアから見れば「行きたい所に連れて行ってくれる」「お金も払ってくれる」「体の関係を求めてこない」...いわゆる都合の良い男だ。


俺は俺で、変なキャバ嬢に貢ぐよりマシだと思っている。

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