9 「大学時代に働いていたBAR」


お互いお腹がすいてなかったので、マリアを連れて行きつけのバーに行った。


地元中目黒にあるバー「SHIMON」。


ここは帝翔の母親の店だ。


そして大学時代4年間バイトしていたバーでもある。


ちなみに帝翔も一緒に働いたが、あいつは3日でクビになった。


3日中3日とも客と揉めたからだ。


接客業向いてなさすぎる。


SHIMONの扉を開くと、カウンターに帝翔がいた。


会社を早退した帝翔が、SHIMONに来ていても俺は怒らない。


むしろ、本当に体が悪いのではないかと心配になった。


帝翔もこのバーに飲みに来ているが、平日には絶対に来ない。


仕事が終わったら、飲みの誘いも全て断って、一刻も早く家に帰りたい男だ。


ここに飲みに来るのは、休みの日に俺と一緒に来るくらい。


もしかしたら、病気のことを母親に伝えに来たのかも。



「帝翔、体調大丈夫か?」



俺がそう聞くと、カウンターの中にいた帝翔の母親・美智子さんが驚く。


このバーは永遠に人手不足で、オーナーである美智子さんがカウンターに立つことが多い。



「体調? あんたどっか悪いの?」



母親に話したわけではないのか?


帝翔は顔が真っ青で、今にも倒れそうだ。


俺は背中をさすってあげた。


どこが悪いのかわからないので、さすっても意味ないのかもしれないが。


帝翔はマリアのことをじっと見つめていた。



「ん? ああ...彼女はマリア」


「か、彼女?!」


「え? ちげーよ。彼女っていうのは、この女性はって意味の彼女で...マリアは友達」



マリアは何度もSHIMONに連れてきているが、帝翔に会わせるのは初めてかもしれない。


彼女は平日休みだから、平日しか飲みに来ない。


もっと前から会っても良さそうな二人だが、今の今までタイミングが合わなかった。




「友達って、どういう意味で友達? 普通の友達? それともセフレ的な?」



帝翔の言葉に、俺は苛立ちを覚えた。


こいつが接客業3日でクビになる理由がこれだ。


とにかく失礼。


思ったことをすぐ口に出す。


他人の気持ちなんて考えられないのだ。

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