12 「行きつけのバー」


夜まで家で時間を潰し、再び家を出る。


電車で一本、地元中目黒に降りた。


中目黒も昔は小杉同様に下町だった。


高架下はごちゃごちゃしていて、今のように綺麗では無かった。


オシャレタウンになったのは、LDHがやってきた頃からだろうか。


家が中目黒というだけで女の子を釣ろうとする、地方出身の田舎モノのヤリチンが多くなった気がする。


それに釣られる女も女だが。


今は三月。


桜を見に来る人間で、駅と目黒川の道は混んでいた。


子供の頃から目黒川の桜は見ているし、花に全く興味が無い俺は、その人混みを避けて、行きつけのバーに向かった。


駅から徒歩五分。


目黒川沿いから少し外れた所にあるバー「SHIMON」。


行きつけのバーがあるなんて、生意気に聞こえるかもしれないが、実際はなんてことない、母親の店だ。


離婚した母は、父に金を貰ってお店を開いた。


その店が、父が住む家...つまり俺の実家と目と鼻の先なのだから、仲が良いのか悪いのか分からない。


半地下の扉を開けると、母がカウンターの中に入っていた。


黒いハイネックのブラウス。


髪はショートで、雰囲気はクール系。


今年49歳にしては綺麗で、自慢の母。


冷たく、気難しそうに見えるが、実際は陽気で、めんどくさがりのだらしない女。


一応母がオーナーなのだが、永遠に人手不足で、だいたいいつも店にいる。



「えぇ...? あんたが平日に来るなんて珍しくない?」



土日にしか来ない息子が来て、驚いている。



「お腹すいた」


「はあ? いつもご飯食べてから来いって言ってんのに。ここは飯屋じゃないわよ」



一応フードもメニューにあるが、母は料理が大嫌いだ。


わかっていていつも俺は注文する。

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