第2話 先輩とお昼ごはん

あれから約一週間が経った。屋上にまた行ってみたいという気持ちがあるものの、自習の時間は無かった。まあ別に、授業をサボってもいいのだけれど。うちの学校は、意外とそこら辺が甘い。人数が多いからだろうか。朝のホームルームで出席していれば、早退しない限り、1日授業に出たことになる。私が言うのもなんだけど、このシステム、もうちょっと考えた直した方がいい気がする。本当に、どの口が言っているのやらだけど。


ぼーっとしながら授業を受ける。ふと、黒板と先生から視線を外して、クラス全体を見る。私の席は一番後ろだから、前の人たちを眺めることができる。姿勢よく授業を受けている人、寝ている人、内職している人、ぼーっとしながら先生の話を聞いてる人、隣の席の人と手紙でやり取りしてる人、多種多様だ。先輩は、どんな風に授業を受けているのだろう。すごく真面目そうだから、やっぱりピシッとしているのだろうか。

いや、まて、よく考えたら、あの人ピッキングとかいう犯罪スレスレのことしてるし、この前会ったときもサボりだったわけで、真面目ではないな。うん。ただまあ、私と似ているのなら、私と同じなのなら、授業を受ける時は、ちゃんと受けてるんだろうなぁ。

そんなことを考えていると、

「キーンコーンカーンコーン」

と、チャイムが鳴った。


これで4時限目も終わり。ようやく昼ごはんの時間だ。入学当初は、クラスの友達とご飯を一緒に食べることが多かった。その子たちとは、今も仲良しだし、うちのクラスの女子たちは基本的にみんな仲良しって感じだから、一緒に食べようと誘えば、一緒に食べてくれる。ただ、私は自分から言いに行くことはあまりないので、最近はわりとぼっち飯であることが多い。


今日の昼ごはんは、たしか菓子パンだった気がするのだけど、何を持ってきたっけ?バックをガサゴソと探し、お弁当を入れたバックを見つける。食べようとした時、ふと、先輩って誰かと食べたりしてるのかな?、それとも一人で黙々と食べてるのかな?、と思った。思ったその時、ある一つの回答の候補が浮かんだ。

私は取り出した菓子パンをバックに入れ直して、教室をあとにした。



「カチャ」

やはりドアは開いている。ということは、

「ん、こんにちは」

「先輩、、こんにちは」

やっぱりここだった。もしかして昼休みに屋上でご飯を食べてるのでは?と思った私を褒め称えたい。

「あの、自分もここで昼ごはん食べてもいいですか?」

「ええ、どうぞ、好きなだけ食べて。」


そうして、前の時みたいに、ドアを挟んで反対側の日陰に座る。私はバックから菓子パンを出して食べ始める。先輩は何を食べているのだろうと、チラッと見ると、チョコチップメロンパンを食べていた。しかも、2個同時に。

「先輩、質問してもいいですか。」

「いいよ、好きなだけどうぞ。」

「あの、何で両手に1個ずつパンを持って食べてるんですか?」

「ん?ああ、これね。」

そういうと先輩は私の方に姿勢を向き直して、お姉さん座りになって、

「こっちのチョコチップメロンパンは約束された味、理想のチョコチップメロンパンで、こっちのチョコチップメロンパンは新製品、挑戦者のチョコチップメロンパン。食べ比べしてるの。」

手を上げ下げして、説明してくれている。顔は相変わらず仏頂面なのに、なんだろう、この感じは、小動物を見ているような、何だろうか。とにかく不思議な気持ちだ。

「チョコチップメロンパン、、好きなんですか?」

「ん、生きてる理由の一つになるくらい。」

「ああ、本当に好きなんですね。」

「うん、好き。貴女も食べる?美味しいよ?」

「え、ああ、じゃあ、少しだけ、、」

と、そこまで言ったところで気付いた。この先輩の話のペースに乗せられて、何も考えずに、言ってしまった。同性だけれど、これじゃ間接キスになって、、、、、

「はい、じゃあ、このミニマムチョコチップメロンパンあげる。」

「え、、ああ、ありがとう、、ございます。」

先輩はどこからともなく、手のひらサイズのチョコチップメロンパンを取り出して、渡してくれた。それを貰って食べた。二口で。

「どう?美味しかった?」

先輩は覗き込むようにして、聞いてくる。

「はい、美味しかったです。」

「そう、良かった。」

おそらく、今、顔が真っ赤になっている。

勘違いをした恥ずかしさでだ。

「ねえ、顔、赤いけど大丈夫?」

「はい大丈夫です気にしないでください。」

思わず早口になってしまう。

「ん、もしかして、私が今食べてるやつを渡すと思ってた、、とか?」

「あ、、はい、そうです。てっきりそれを渡されるのかと思ったら、違うのが出てきて、思わず恥ずかしくなってしまったといいますか、、、」

「ふふ、なるほどね。」

ふふ、と笑っている先輩は、仏頂面から、うっすら口角が上がっている仏頂面(?)になっていた。ほんの数ミリしか変わってないが、少し柔らかい印象になった気がする。ちょっと面白い。


そうして、そのあと、ふふふ、と言いながら先輩は元の定位置に戻るや否や、チョコチップメロンパンの食べ比べを始めたので、私も昼ごはんを再び食べ始めた。



昼ごはんを食べ終えて、私と先輩はのんびりと座っていた。色々話してみたいことがあったものの、今、先輩と話すのは、何だか少し違う気がして、ぼーっとしたり、体を伸ばしたりしていた。

屋上だから、風が吹くのだが、それがとても心地よい。


先輩の方に視線を向ける。憂い気な顔をしているが、とても幸せそうな雰囲気に見える。整った髪の毛が整列を乱さないように風になびいていた。

本当に綺麗だった。整った顔立ちに、綺麗な髪。一瞬、頭に何かがよぎったような気がしたが、それが何だかは、分からなかった。

「ん、どうしたの?」

先輩は私の方に顔を向けてくれた。

今日、ここに来て、一つ分かったことがある。

私はどうやら、先輩と仲良くなりたいようだ。

一緒に屋上で過ごすこの時間が、結構気に入ったらしい。だから、その一歩として、

「先輩、お名前、教えていただけませんか?」

と聞いてみることにした。

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