がちがち

秋犬

がちがち

 本当にいいの、とボクが問いかけるとキミは首をわずかに動かす。いいんだ。ベッドの柵に手錠で拘束されて、口を塞がれて、シャツをはだけさせて、そんな無様な格好になっているのにキミは大人しくしているね。これから何をされるか知っているかい? もう一度教えてあげようか?


 キミはこれからボクの印を体に刻むんだ。わかってると思うけど、キミはボクのものだからね。持ち物には名前をつけなきゃ。そして目印をつけなきゃ。よく見てみてよ、これが今からキミに取り付ける目印。金色でバーベルみたいでかわいいだろう? キミのために一生懸命選んだんだ。感謝してほしいな。


 さて、今からこれを取り付けよう。まずはキミの身体をきれいにしよう。これは大事なことだよ。大丈夫、キミはボクのものなんだから安心して。まずは消毒液でキミの胸にある突起を丁寧に拭く。事前にムダ毛は処理してきたのかな? ︎︎キミは一体何を期待していたんだい?


 さあ、消毒液を染み込ませた脱脂綿で汚らしいキミを清めよう。ふふふ、そんなにびくびくしちゃって冷たいかい? ああ、キミは返事が出来なかったね。全く使えない生ゴミみたいな存在だ。そんなキミをボクがキレイにしてあげるんだ、有り難く思えよ。


 さて、この冷たい作業が終わったらいよいよこいつの出番だ。見えるかい? こんな鋭い針が、今から君の胸のこの柔らかい部分を貫くんだ。怖いかい? 大丈夫、ボクもニップル貫通の経験だけなら積んでるから。ふふ、そう、いろんな人でね。大丈夫、今はキミだけを見ているから。ボクだってキミに情くらいあるんだよ。


 大体、ピアッシングだって初めてってわけじゃないだろう? 耳には左右で合わせて6個、なんてはしたないんだろうね。キミを産んだお母さんは泣いてるよ、そんな自分の身体を傷つける子を産んだ覚えはないですよって。え、そのうちの2つはボクが開けただろうって? そうだったっけ?


 ほら、無駄話している間に今針が君の胸の上に来た。おっと勝手に動いたらダメだよ、その拍子に針が変なところに刺さっちゃうかもしれないからね。間違って心臓に刺さっちゃったら大変だろう? キミはただボクに体を委ねればいい。針が触ったよ、絶対動かないでね。ちょっと集中するから……動かないで。


 がちがち


 大丈夫、一番痛いのはもう終わり。痛かった? ちょっとだけ鏡で見せてあげる。ほら、これが今の君の胸の様子。ここにボクの印が入った。もう取り返しがつかないよ。これでキミは一生ボクのもの。キミの身体に3つも穴を開けたんだ。そしてこれから4つ目も開けてあげようとしている。何度も何度も貫かれて、うれしいの? そう、うれしいんだ。


 そういうボクは楽しいのかって? そりゃあ楽しいよ。キミだって雪が降った後の真っ白な地面に一番先に足跡を残したいだろう? その感覚に近いんじゃないかな。キミという真っ白な身体にボクの爪痕を残す。キスマークや引っかき傷くらいならすぐ治っちゃうからさ、それならどーんと穴を開けたいじゃない。たとえ塞がったとしても、キミは一生ボクにこうやって貫かれたことを忘れることはできない。この痛みを思い出すたび、キミは無力で無抵抗で役立たずの存在だって思い知るんだ。


 はは、やめろって? キミは目で話すことが上手だね。わかった、傷口はそっとしといてやるよ。それじゃあもう片方も作業しようか。2回目だから、慣れたもんだよね。ニップルはそんなに痛くないって人もいるんだけど、すごく痛いって人もいるんだって。キミはどっち? さっきの感じだと、とっても痛かったのかな?


 じゃあ、もう片方もやろうか。あれ? ちょっと不安そうな目をしているね。さっきのがよっぽど痛かったんだね。それじゃあもう片方も頑張って我慢出来たら、ご褒美にとびっきりのキスをしてあげる。どこにしようか? 唇? 首筋? それとも、もっと下?


 何を考えているんだい? ボクは何も言ってないよ、キミが勝手に変な想像をしたんだろう。縛られて動けないようにされて、ピアス穴開けられて、キミはそれで充分なんじゃないのかい? 残念、キスはお預けになっちゃった。


 ああ、がっかりした顔もかわいいね。いいね、その顔でさっきみたいにがちがち手錠を鳴らしてよ。本当は大して痛くないんだろう? でも、キミの顔を見ていると痛みよりも別の何かを感じているのはわかったんだ。そしたらもっと手錠を鳴らしてよ。惨めったらしく囚われて拷問にかけられたお姫様にでもなったつもりでさあ! 


 ボクの気に入るように振る舞ってくれよ。キミならどんなことでもできるだろう? そしたらキスでもフェラでもなんだってしてやるよ。もしキミがボクの期待通りに動いてくれたらね。


 じゃあ、もう1回やるからね。これでキミは2回も永遠を手に入れるんだ。さあ、ちょっと冷たいよ。もう動かないでね。ああ、またがちがちやってるんだ。そうか、そんなに気持ちよかったんだ。じゃあ今日はこの後キスだけはしてあげる。よかったねえ、よく頑張った。


 ボクはキミの頭を撫でる。キミは子猫のようにうっとりとする。縛られて、貫かれて、どうしてそんな顔ができるんだろうね。ああ好き、やっぱりキミが大好きだ。ずーっとずっと、ボクのものでいておくれよ。ボクはキミが大好きだよ。


<了>

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がちがち 秋犬 @Anoni

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