第25話 不穏な雰囲気です

「あの、それは…」

「どの道クリスには関係のないことでしょ?そんなの気にすることないよ。まさか、君を殺そうとした女が可哀そうだとか思っているの?」

「いえ、そこまでは思ってません」

「それなら、この話はここまでかな。この先の話をしたいんだけどいい?3か月後に卒業記念舞踏会がある。私は出席するんだけど、クリスも一緒に出て欲しいんだ」

「でも、1年生は参加できないはずでは?」

 卒業記念舞踏会は学園の大広間を使って開催されるのだが、流石に全生徒は参加する広さはないので、卒業する6年生と婚約者や家族、それと送り出す5年生の生徒が主となって開催される。学年に関係なく王族がいれば参加することもあるらしい。

「私のパートナーだからね。特別枠だよ。それに、今年は兄上も卒業だからね。まあ今のままでは無事卒業できるのか心配だけど」

 ミリアンナ様が隣国に留学したことを、ギルフォード殿下は行った後で知ったらしく、かなり怒っておられたそうだ。それでも、友人の一人が留学するのにギルフォード殿下に許可を取る必要があるか、と聞かれたらそれはないだろう。それから最近まで、殿下も大人しくされていたのだが…

「最近は転校してきた娘に入れ込んで、益々婚約者殿をないがしろにしているそうだね…」

「そのようです。ジョセフィーヌ様は静観されていますが、ギルフォード殿下はその方のことを気に入っている、いえ、最近では恋人のようで、皆さま困惑されています…」

 この時期に転校生が来ることが珍しいこともあり、その転校してきた男爵令嬢は一定の貴族令嬢のいじめの対象になってしまっていた。そのいじめの現場に偶然通りかかったギルフォード殿下が助けたことがきっかけで、親密な関係になったと噂されていた。助けただけなら美談で済んでいたのに残念だ。

 ギルフォード殿下はいじめを指示したのは、ジョセフィーヌ様だと思い込んでいるらしく、顔を合わせれば口論になるから困っているとジョセフィーヌ様は言っていた。勿論事実無根で、ジョセフィーヌ様がいじめた事実はない。でも…

「殿下はああいう可愛らしいご令嬢がお好きでしょう?早く婚約破棄していただけるとこちらも助かるのに…」

 最近、ジョセフィーヌ様とお茶会で一緒になった時、そんな意味深な発言をしていたのをふと思い出した。貴族令嬢が王族に婚約破棄なんてされてしまったら、いくら自分が悪くなくても醜聞はついて回る。その後に新しい婚約者を見つけるとしても、かなり困窮することが多いと思うのに…

 婚約が決まった時から、どこか他人事のように微笑んでいたジョセフィーヌ様。彼女にも何か事情が有るの?

「まあ、兄上も卒業の一年後に結婚する予定だから、その娘のことも終わるだろう。終わらなければ、その時は仕方ない…これは最後の機会だと思う」

「あ、の…」

「今は詳しくは言えないけど、3か月後の卒業記念舞踏会まではクリスにも静観していて欲しい」

「はい…わかりました…」

「ごめんね、本当は全部何もかも言いたいんだけど、君には嫌われたくないんだ…」

「え…?」

 アルバート様は、私の髪をひと房掬い上げてキスを落とすと、戸惑う私に微笑んでから、公務があると言って王宮に帰ってしまった。

「今のは、なに??」

 ドキドキと高鳴る胸を押さえて、私は立ち尽くすしかなかった。

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