第18話 婚約者設定が違っていませんか

「はい、成人する歳は特別ですから、嬉しいです。それにその日は、約束の期日ですから…」

「…約束の、ね。そうだ、私の生誕記念舞踏会が夏にあるんだ。今年は16歳で成人するから、いつもより盛大なものになる。勿論婚約者として、特別にクリスにはパートナーを務めて欲しい。今回はドレスも私から贈らせて欲しい。成人した王族としての初めての行事になるから、君にも少し負担をかけてしまうのだが…」

「はい、社交には慣れていませんが、精一杯務めさせていただきます。あと2年ですが、よろしくお願いいたします」

「そうか、あと2年…その後君は隣国に行くんだよね?」

「はい、その予定です。先に知り合った方が行くみたいなので、現地に知人が先にいるのは心強いです」

 ミリアンナ様はもう少しで16歳だと言っていた。最近ギルフォード殿下と一緒にいるところは見ていないので、本格的に逃亡計画に移行しているようだ。是非バッドエンドを回避して、隣国で幸せになって欲しいと思っている。隣国に行く前に、もう一度会って相談したいとも思っていた。

「知人?それは男性?」

「いえ、女性です。共通点があって最近仲良くなった人です」

「そうなんだ。学園にも慣れて、友人は出来たのかい?」

「はい、キャサリン様がいてくれますし、光魔法のクラスの1年生の方ともお友達になりました」

「今はまだバレていないんだよね、例の魔法は」

「え、はい、大丈夫です。ジョーンズ先生も気づいていないようです」

「ジョーンズ…もしかしてマリア・ジョーンズ、子爵家の?」

「はい、そうです」

「そうか、光魔法のクラスは接触がないから、いることに気がつかなかったな…彼女に何かされたりしてない?」

「何か?ですか…特には何もないです。1年生はまだ見学と教本が中心で、あまり先生と直接何かをする段階ではなくって」

 アルバート様は何かを考えているようだったけど、私がそう言うとホッとしたようにこちらを見た。

「そうか、今のところは大丈夫なんだね。でも、これからも何かあったら言って欲しい。彼女とは少し因縁があって、君に逆恨みしないとも限らないんだ…」

 深刻な表情でそうお願いされたら、理由が聞きづらくなって、私は黙って頷いた。


「クリスティーヌ、おかえり。殿下と街に行っていたんだろ?どうだった」

「アレン兄様もおかえりなさい。楽しかったですよ。誕生日のプレゼントにこれをもらいました」

 左手首につけたバングルを見せると、兄様はピタリと動きを止めた。

「もしかして、これ、魔女の隠れ家の作品じゃ?」

「はい、今日その店で受け取って、そのままいただきました」

「そうか、かなり高価な、効果の強い、え~っといいモノをもらったね…」

 若干引きつり気味にアレン兄様は微笑んでくれたが、効果の強いとは??魔道具に詳しい兄様ならこれがどういう魔道具なのか知っていそうだ。じっと見つめたが、兄様はフイッと目を逸らして苦笑いを浮かべた。

「僕の口から、これの説明をするのは、殿下が不機嫌…いや、贈り物の意味を本人以外が説明するのは、野暮、そう、野暮だと思う。知りたいなら、クリスティーヌが直接聞くのがいいと思う、じゃあ、僕は勉強するから」

 言い訳するように言って、慌てて二階の部屋に上がっていってしまった。魔道具屋の作った魔石付きのバングル…冷静に考えれば普通の装飾品のわけがない…それに…

「これ、外れないようになっているのよね…」

 馬車の中で、バングルを触っていたのだが、留め金がどこにも無く外そうにも外れなかった。アルバート様に外し方を聞こうとしたら、一度装着したら特別なカギがないと外れないと言われた。

「大丈夫だよ。学園には申請をすれば装飾品として魔道具は認められているし、ずっと着けていて欲しいと言ったよね?」

 にっこりと微笑まれ、そう言われてしまいそれ以上言えなかった。


 光魔法の授業の後、ミリアンナ様に相談したいことがあって、私は放課後会う約束をした。

「ねえ、授業中から気になっていたんだけど、そのバングル、ゲームに出てくるマジックアイテムよね?」

 約束の時間、ミリアンナ様は来て早々にバングルを指さした。

「そうなんですか?これはアルバート様に誕生日プレゼントに頂いたんです」

「そうなんだ、さすがヤンデレ王子。重いわ…」

「ヤンデレ王子って…聞かれたら不敬罪で捕まってしまいますよ…」

「大丈夫よ、今はばっちり防音魔法使っているもの」

 前世の話を堂々とは出来ないので、会う度にまず防音魔法をかけることにしていた。

「あの、これって何のマジックアイテムですか?」

「確か身の安全を守るためだったような、それもかなり高価な商品で、これを贈られるのってかなり好感度が上がってからだったと思うんだけど…順調なの?」

「順調かどうかわからないのですが、最近可愛い、綺麗だと言われることが多くて、戸惑っています」

「え、なに、今私クリスにマウント取られてる?一応、私の推し、アルバート殿下なんだけど?」

「ええ、違います。前にちらっと言いましたが、私たちはあくまで仮初でして、そんなものではないはずなんです。でも最近戸惑うことが多くて…」

「その仮初って言うのがねぇ、アルバート殿下のキャラ設定、確か婚約者には誠実でしょ?腹黒いとこもあるけど、ヒロインには親切で甘々なのよ。仮初でそこまでするかしら?そのアイテムだって、本気じゃないと渡さないんじゃないの?」

「それは、違うと思います。アルバート様は優しいから、仮初でも一応婚約者の私に誠実にしてくれるのだと…」

「ふーん、まあ、いいけどね。私はあと1か月でここを発つわ。やっと教授の推薦状も2通手に入ったし、両親にも許可を取ったの」

「そうでしたか。気になっていたので、決まって良かったです」

「そうなのよ、ついこの間まで推薦状も両親も全然だめだったのに、急に推薦状2通と反対していた両親が賛成してくれたのよ。ちょっと気味が悪いくらいよ。でも、これでギルフォード殿下と卒業記念舞踏会に参加して断罪されなくて済むわ」

「卒業記念舞踏会…ミリアンナ様が出ないとなると、パートナーは婚約者のジョセフィーヌ様でしょうか?」

「そうね、彼女悪役令嬢ではないけれど、全然ギルフォード殿下と絡んでなくて、婚約者って感じではないのよね。ヒロイン役の私が早々に隣国に行ったら、全く違うストーリーになるでしょう?全然予測がつかないわ」

「そうですね、ヒロインがいなくなった後の展開なんて、最早乙女ゲームとしては成り立ちませんね」

「だからこそ、クリスは気をつけてね。ゲームを無視しても、聖女はあなたなんだから、変な強制力でイベントが起こらないとは限らないし…住所が決まったら連絡するから、困ったことがあったらいつでも言ってきてね。それと…」

 手紙のやり取りは二ホン語でしましょう。誰かに読まれてもこれなら内容がバレることはない。そう言い残して、1か月後、ミリアンナ様は隣国へ旅立って行った。丁度魔法学園の前期が終わった頃で、1か月後にはアルバート様の生誕記念舞踏会が迫っていた。

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