第17話 特別なプレゼント
「美味しかったです。素敵なお店に連れて来ていただいてありがとうございます」
「美味しそうに食べてくれて、シェフも喜んでいたよ。ここは昔王宮に勤めていた料理人が独立して営んでいるんだ。たまに私もお忍びで食べに来るんだよ」
「それで、親しくお話していたんですね」
「ああ、私が小さい頃、好き嫌いが多くて苦労を掛けた料理人なんだよ」
「ふふ、アルバート様、かわいいですね」
思わずそう呟けば、アルバート様がパッと赤くなった。可愛い、こういう反応は年相応だと思った。いつもは大人びて見えるのに、ギャップ萌えでキュンキュンしてしまう。
「クリスの方が可愛いよ」
突然見つめられ、今度は私が盛大に真っ赤になった。アルバート様が私の手を握って、嬉しそうに街の中を案内してくれる。その間ずっと私の心臓がドキドキと騒がしかった。
好きだと認めたら、この感情は落ち着くと思っていたのに、日々この気持ちが大きくなっていくのを実感している。こんなことで、16歳の時にきっぱりと婚約破棄して、私は隣国に行けるのだろうか?
「そうだ、この先にある魔道具屋に寄ってもいいだろうか?取りに行きたいものがあるんだ」
「はい、魔道具屋があるのですね。見てみたいです」
古びた魔道具屋[魔女の隠れ家]は、大通りから外れた路地の奥にあって、普段なら絶対に近づかないだろうという怪しさ満点の裏通りにひっそりと建っていた。
カランっと可愛い音のドアベルが鳴り、ギイィっと音を立てて扉を開く。中も薄暗く奥のカウンターに老人がちょこんと座っていた。
「やあ、パン爺さん。例のモノが出来たって連絡が来たから取りに来たよ」
「おお、これはこれは殿下自らお越しとは、余程大事な方に贈られるのですな~」
のんびりとした声で、パン爺さんと呼ばれた老人が立ち上がりカウンターの奥の棚から小さな箱を取り出した。
「ご依頼通りのモノが出来ておりますよ。可愛らしいお嬢様と一緒とは、殿下も隅にはおけませんなあ、ほっほっほ」
「私の婚約者のクリスティーヌ嬢だ」
「初めまして、クリスティーヌ・スコットと申します」
「初めまして、クリスティーヌお嬢様。生きている間に、殿下の婚約者様と会えるとは思っておりませんでした。長生きするもんですなぁ」
「まだまだ長生きするだろう?これは代金だ。急がせた詫びに少し色を付けておいた」
「ほっほっほ、いつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます」
アルバート様はポンと革袋を置いたけど、その中身は全部金貨で、かなり重そうだった。さすが王族のお買い物はスケールが違うようだ。ちなみにパン爺さんの頭上には【お金大好き、愛妻家】という文字が見えた。
「さて、何か気に入るものがあったら言って。ついでにプレゼントするよ」
「いえ、そんな、いいです。魔道具は詳しくわかりませんし…」
「おおそうじゃ、お嬢様、丁度試作品で作っていたものがあるんじゃ。先ほどの代金のおまけです。使ってみてくださいな。ついでにお友達にも宣伝しておいて下され」
パン爺さんは、カウンターの下から小さい手のひらサイズの鳥のぬいぐるみを渡してきた。
「これは??」
「子供用に作ったんじゃが、こいつの足を強く引っ張ると…」
そう言ってお爺さんがぬいぐるみの足を引っ張ると、すごい音量で鳥が鳴きだした…これって、防犯ブザーのようなもの?
「よいっしょっと。こうやって足をもう一度引っ張ると鳴き止みますんじゃ。最近は悪い輩が増えて子供が攫われとるみたいでな、お嬢様も可愛いので気をつけた方がいいじゃろう」
「ありがとうございます」
学園用の鞄につければ、確かに防犯に良さそうだ。少し間抜けな表情が可愛いと思うが、令嬢が欲しがるかは未知数だ。かなり強く引っ張らないと鳴かないらしいので、間違って鳴かせる心配はなさそうだ。
お礼を言って店を出ると、アルバート様がカフェに行かないかと誘ってくれた。歩いて喉も乾いていたので、私は行きたいですと返事をした。
表通りの素敵なカフェのテラス席に案内され、私はお店おすすめのケーキセットを頼んだ。アルバート様は飲み物を頼んでいた。先ほどから、店内の女性客がこちらをチラチラと見ている。まさかここに王子様がいるとは思っていないと思うが、それを抜きにしても貴族のお忍びスタイルのアルバート様は、人目を惹きつけるほどカッコよかった。
「どうかした?落ち着かないかな、個室でもよかったんだけど、ここはテラスが景色もいいしおススメだと聞いたんだ」
「あ、いえ、素敵なカフェで、こういうところに来るのも初めてで、少し緊張しているのかもしれません。アルバート様が素敵だから、皆様に見られているようで…」
「それならば、先ほど街を歩いている時に、可愛いクリスのことを男性が見ていたと思うが、気づいてない?」
「え?あの、街の風景を見ていたので…」
街に夢中だったのも本当だが、男性の頭上に見える文字を出来るだけ見ないように、男性が通るたびに視線をずらしていた。慣れてきたとは言っても、やはりまだ男性が怖い。クズ男に触れられたら、最悪気を失うこともあるのだ。その時の恐怖は今でも慣れることはなかった。
「ごめん、クリスは男性が苦手だったね…見られてもいいことなんかないし、私だけを見ていて」
「え、あの、…はい」
何と答えていいか分からず、真っ赤になって俯きながら返事をした。私だけを見ていてなんて、何と答えるのが正解なんだろう……
「そうだ、もうすぐクリスの14歳の誕生日だろ?今日パン爺さんに頼んでいたものがプレゼントだったんだ。私とお揃いでブレスレットを作ってもらったんだ。お守りだと思ってくれたらいい」
アルバート様が小箱を目の前に置いたので、私はお礼を言ってその箱を開けた。中にはバングルタイプのブレスレットが2つ入っていた。ピンクの魔石がついた男性用バングルとアイスブルーの魔石がついている女性用が並んでいた。お互いの瞳の色がついた細工が綺麗なバングル。
「綺麗です。ありがとうございます」
「今日からずっと着けていてくれるかな?私も着けるから」
「え、はい、分かりました」
アルバート様は私の左手首にバングルをはめてくれた。そして男性用のバングルを私に渡したので、私はアルバート様の左手首にバングルをはめた。
「ありがとう。クリスとお揃いで着けられて嬉しいよ。この魔石の色はクリスの瞳と同じ色だから、見る度に君を思い出すよ」
「は、はひ…はい…」
極上の笑顔でそう言われて、私はびっくりして変な声が出た。
「誕生日当日は祝ってあげられなくてすまない。毎年その頃に隣国の使節団が来て、私も対応があるんだ。君の16歳の誕生日は、絶対にクリスを優先するからね」
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