誰のママ?授業参観日の衝撃

第1話 授業参観の美女保護者パニック

11月16日木曜日のO市立北小学校。

この日、校舎の四階にある四年五組の教室では五時間目算数の時間に授業参観が開かれ、生徒の保護者たちが教室の後ろに並んで我が子の授業を見守っていた。


この小学校では学期ごとに授業参観日が設けられているため、この年度では二回目となる。

前年度の三年生時からクラスの生徒も担任も持ち上がりで同じであるこの学級では五回目となった恒例行事で、本来そんなに特別な日というわけではない。


だが、この日の授業参観日はそれまでのものとはやや雰囲気が大きく異なっていた。

この日ばかりは生徒も担任も、保護者までもがこれまでの授業参観とは違った感覚を覚えていたのだ。

その原因は今回初めて顔を見せた一人の保護者、この教室内で授業を受けている生徒の母親と思しき女性の存在にあった。


その女性は高い鼻梁、彫りの深いスラブ人女性のような異常に整った顔立ちをしていた。

化粧も厚すぎず薄すぎず、元来の美貌との相乗効果をいかんなく醸し出すほど洗練され、上品な濃紺のフォーマルワンピースで包まれたスタイルも欧米人のファッションモデルそのもの、すらりと伸びた足に黒いエナメルのハイヒールを履いているせいで元々高い背丈がより高く見える。

日本の女優やアイドルの誰に似ているかではなく、ハリウッド女優の誰に似ているかというレベルで、編み込んでアップにした黒髪が茶色か金色に染められていたら日本人には決して見えなかったであろう。


その女性の存在は子供たちにまず影響を与えた。

男子も女子もちらちら後ろを振り返り、授業と親の存在そっちのけで隣とヒソヒソ私語を交わし始めるほどだった。


「あの人きれい。誰のお母さんかな?」

「お姉さんかもよ」

「薫子ちゃんのママかな?それとも美雪?」

「女の子とは限らないよ。ちょっと井上君に似てなくない?」


女子はさっそく誰の母親か気になり始めている。


「いいオンナだな、誰の母ちゃんかな?」

「あんな母さん欲しいな。一緒に風呂とか入りてえ」


マセた会話をしているのは男子の肥田誠一と鶴島翔だ。

席が斜め向かい同士の彼らは授業参観にもかかわらず遠慮がないヒソヒソ話を延々続ける。


「プッ。翔の母ちゃんなんてあのオンナの隣のブタだよな」

「うるせえ、お前の母ちゃんだってケバイじゃねえか。ナニ今どき浜崎あゆみ気取ってんだよ」


彼らは三年生の時から気心が知れた仲でいつもつるんでおり、お互い遠慮なく相手の母親のことをズケズケと言い合う。


もはや授業参観どころではなくなっていたのは、授業を受ける子供たちだけではなかった。


子供たちの後方で並んで授業を参観する保護者たちもだ。

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