5.助っ人ハンター影勝(1)

 影勝が探索者となってすでに数日たった。倒したモンスターは七〇を超え、レベルも六になっていた。魔石の納入も合計すれば百万を超えランクアップできる状況になっているのだが、影勝は魔石を納入するのをやめていた。あまりにも早すぎて怪しまれるのと目立ってしまうことを避けたかったのだ。

 通常、新人が四級に上がるまでは平均で半年。最短記録で一か月だ。一週間もかからず四級に上がるのは異例過ぎた。ただ、牙イノシシを倒してゲットした高級肉は賞味期限もあるのでギルドで売った。いつものおじさんではなく、遅刻の罰として工藤がカウンターにいたりしてジト目で見られるなどしたが、おおよそ探索者としては順調だった。

 今日も森を探し回ってモンスターを倒し、薬草毒草や木の実と矢用の枯れ枝などを持ち帰ってギルド前を通り過ぎようとしていた。


「ちょっと待ってくれ!」


 ダンジョン外へのゲートに向かって歩く景勝の背後から声がかかる。自分のことか、と思い振り返った影勝が見たのは、四人組の探索者だった。男女が半々で、剣とハンマーを持っている男女と杖を持っている男女だ。よく見ると、影勝と同じ時に職業を得た新人探索者だった。影勝も、そういえば端末を受け取ったときの四人組のパーティだということに気がつく。


「俺になにか」

「君、俺たちと同じく探索者になったばかりだろ? ちょっと頼みというかお願いがあるんだ」


 剣を持った男子が影勝に話をしてきた。彼がリーダーだろうか。ツーブロックな髪型で清潔感がある、爽やかな青年だ。


「えっと、どんな?」

「俺たちと一緒にダンジョンに潜ってくれないか!」

「俺? なんで俺?」


 いきなりそんな話をされた影勝の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。ひとりで旭川にきた影勝には接点など何もないし、今までひとことも会話をしていない。


「君、昨日もギルドにドロップ肉を納入してたから、強いモンスターを倒したのかってびっくりして」

「あ」


 あれを見られてたのかと陰勝はドキっとした。

 肉をドロップするモンスターは比較的強い。一階では牙イノシシ、二階ではブラッディアカウという血の色をした牛型のモンスターがいる。両者ともに皮が硬く体力が高いという共通点がある。ちなみにブラッディアカウの肉はキロ一万円の高級牛肉だ。


「見たところソロで、しかも弓使いで強いモンスターを倒せる力があるなら、協力をしてほしくて!」


 剣を持った彼はこの通りと頭を下げた。後ろにいた三人もぺこりと頭を下げる。門前町に帰る途中の探索者から「なんだなんだ」「もめごとかー?」と注目を浴び、非常い居心地が悪い。


「勇吾、目立っちゃってる」

「あぁすまない。その、話だけでも聞いてもらいたんだ」


 魔法使いっぽい女の子から窘められ申し訳なさそうに眉を下げる爽やか青年に、影勝はどうするかと思案する。ソロでやっていく方針に変わりはない。が、探索者、しかも同期ともいえる彼らと交友を持つことは有意だ。お互い駆け出しであるし、向こうから情報がもらえる可能性もある。それに自分と同じ時にスタートした探索者が現在どの程度の強さなのかも気になった。

 影勝は「わかった」と言い門前町にあるファーストフード店で話を聞くことにした。適当に飲み物だけ買って五人が席に着く。影勝としては夕食は儀一の店と決めているのでここで食べるわけにはいかない。

 まずは自己紹介だ。


「貴重な時間をすまない。東風こち 勇吾ゆうごで戦士だ。このパーティーのリーダーをやってる」

「あたしは片岡恵美えみ。見ての通りハンマーだよ」

「僕は堀内賢一。黒魔法使いです」

「私は陣内香織で白魔法使い」

「俺は近江影勝、弓使いというか狩人というか、そんな感じだ」


 東風はさわやか青年、ハンマーを持っている片岡はたれ目でほんわかな印象の顔に似合わず戦士系だ。魔法使いの堀内は眼鏡をかけて真面目そうな印象で、白魔法使いの陣内は長身でモデルのようなスタイルだ。バランスが取れているパーティで幌内レッズという名前だ。


「俺たちは札幌の孤児院から来たんだ」

「孤児院か」


 影勝は彼らがなぜここにいるのかを察した。

 孤児院は、ダンジョンで行方不明になった探索者を両親にもつ子供たちを預かる施設だ。国がバックアップしているが、ダンジョンに入ってよい年齢、すなわち十八歳になるとダンジョンに出向き職業を授かるがある。彼らはその決まりでここに来たのだろう。そして探索者として生計を立てるためにも強くならなければいけない。

 影勝も似たようなものだが、彼らよりは選択肢はあった。


「君も孤児院出身なのか?」

「俺も両親が探索者だったけど、父が死んだときに母が引退した」

「ふーん、あたし達よりはましー?」

「ちょっと恵美!」

「いや大丈夫だ。ましなのは事実だし」


 片岡の言葉を諫める陣内。東風が「すなまい」と頭を下げる。

 ハンマー使いがとっつきにくい性格してるしリーダーの東風も大変だ、と影勝は同情する。


「話を進める。俺たちは二階でモンスターを狩っていたんだが、鳥系のモンスターが厄介で苦労していてね」

「鳥系か……」


 影勝は端末を取り出し、モンスターを調べる。二階は草原だが、そこには何種類かの鳥系モンスターがいる。ダチョウを凶悪にしたドーヴァーというモンスター、双頭のカラスのツインクロウあたりが厄介なモンスターであると端末は紹介している。


「ダチョウは叩きゃ行けるんだけどー、カラスに対抗する手段がなくってさー」


 ハンマー使いの片岡が横目で堀内を見ると彼はシュンとなってしまった。黒魔法使いが強くなれば対抗手段もあるということだ。そう考えるとパーティーへの加入ではなく一時的なヘルプと考えてよさそうだ。


「一時的にカラスの対処をしてほしいって理解でいいか?」

「あぁ、訳あってソロでやってるんだろうからね」


 影勝はツインクロウの項目を調べる。写真と大きさの記載もあるので想像しやすい。羽を伸ばすと二メートルほどになる大型の鳥だ。大きさはオオワシに近い。


「……他のモンスターと戦闘中の探索者に横から攻撃してくる。急降下してからの爪が主な攻撃手段、か」

「複数で来るからさらに厄介でね。今日はなんとか逃げられたけど」

「なるほど……」


 影勝は頭でシミュレーションする。

 片岡の口ぶりからすると、厄介なのは飛ぶからであり地面に落としてしまえばどうとでもできそうだ。であるならやりようもある。色々なやり方を覚えるいい機会と見たほうが得だ。

 影勝はそう判断した。


「ん、オッケーだ」


 影勝がそう答えると、東風と陣内はほっとした表情になった。


「あまり期待されても困るけど初見の相手に仲間がいるのは心強い」

「ん? 君も二階に行ったんじゃないのー?」


 片岡が首を傾げた。どうも認識がズレているようだ。


「俺は一階の森に入ってたんだ。デカいねずみに遭遇した」

「ジャイアントラットってやつー? ってか一階じゃーん! あたし達よりよっぽど無謀なことしてんじゃーん」


 片岡がケタケタ笑い出した。わざわざ冊子にも「まずは二階で」と書かれているくらいだ。新人のやることではない。


「俺には森があってるみたいでやりやすかったけどな」

「なるほど、探索者も色々だし。あはは、おもしろーい!」

「ちょっと恵美! 言い方!」

「片岡さんも十分面白いと思うぞ」

「あたしのことは恵美って呼んでー」

「俺のことは、近江でも影勝でも好きに呼んでくれ」

「んじゃ影っちで!」

「……いきなりフランクになったなおい」


 いきなり影っち呼ばわりされた影勝は戸惑い、ぼそっと言い返すくらいしかできなかった。どうやら片岡は人見知り系ギャルのようだ。ミニカートではなくジャージのようなズボンではあるが。


「明日で大丈夫か?」

「日にちをあけるのももったいないし、明日で」


 東風の確認に対し、急ではあるが影勝は彼らの事情も考え返答をする。

 孤児院から来ているのなら資金は心細いはずで、すぐにでも稼ぎたいはずだ。影勝もそうではあるが彼らよりは懐に余裕があるものの金は必要だ。


「じゃあ明日朝八時にギルド前集合で」

「わかった。では用意もあるからこれで失礼する」


 話がまとまったので影勝は席を立つと片岡が「影っちあしたねー」と手を振る。爽やかに手を挙げる東風に無言でぺこりと頭を下げる堀内と陣内。

 人のことは言えないが、なかなか個性的な面子だと影勝は苦笑いだった。

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