第20話 逆ナンと事故?

頼む!助けてくれ!。と伊吹さんに視線を強く送る。

だが伊吹さんはハーレムおめでとう。とでも言いたそうな視線を返してくる。

全然そんな事ないです!

本当に。

助けて欲しいです。

この感情を目線で送ると、この距離でも分かるほどのため息をして伊吹さんが近づいて来てくれた。


「お兄さん?聞いてます?」

 

「もしかして緊張してるの?」


「大丈夫ですよ。優しくしますから」


あーもう距離感の詰め方がおかしいよこの人たち。

陽キャの人ってみんなこうなの?


「すみません。池田くん返してくれます?」


3人から質問攻めを喰らって周りが見えなくなってると伊吹さんが来てくれていた。

本当に神。


「え?誰この子?」


「もしかして彼女?」


「やっぱりこんなイケメンに彼女いない訳ないかー」


「もう、彼女いるなら言ってくださいよ」

 

何か女の人3人が訳の分からない話をしていて理解が出来ない。

伊吹さんも凄く面倒くさそうな表情になっている。


「彼女じゃないです」


「照れなくて良いよ彼女さん」


「照れてません」


「ごめんね。凄くかっこよかったから声掛けちゃった」


「お兄さんも彼女さんいるなら断ってよー」


何かトントン拍子で話が進んで行く。


「断るとかそんな余裕無いくらいグイグイ来たじゃないですか」 


「あれ?そうだったけ?」


笑いながら答えるお姉さん。


「まぁなんでもいいですけど返してもらいますね」


「えー。しょうがないなー」


やっと俺の腕が開放される。


「彼氏じゃないなら、今度貸してね」


「好きにしてください」


「伊吹さん?」


「じゃあまたね池田くん♡」


甘く呟いたお姉さんがもう2人を連れて離れて行った。




何故か俺に声を掛けてきた3人が居なくなり、伊吹さんと2人きりになる。


「ありがとう。伊吹さん」


まず伊吹さんに感謝を伝えると少し冷たい視線を送られ、トーンの低い声で返してくる。

  

「池田くん?腕組まれて嬉しそうだったね。何が当たってたのかな」


うん?これは怒ってらっしゃる。

確かに腕に柔らかい感触があり、少しニヤけている瞬間を伊吹さんに見られたが、あれは男の性なんだよ。

なんて事は言えず「別に嬉しくなかっです」と強がる。


「ふーん。そう」


伊吹さんはそれだけ言って無言で歩き出してしまう。



焼きそばを買う予定だったが、色々な事が起こり過ぎてそんな事を忘れ元の場所に戻った。


「あれ?伊吹さんと会ったの?てか焼きそばは?」


「いや、食欲が無くなった」


「は?そんな事ある?」


「あるんだよ」


そう俺が和真に答えると近くに菜々美が来て「伊吹さん怒ってない」と聞いてきた。


「そ、そうか?」


こういう細かい所によく気づくよなこいつ。


「何か心当たりがあるなら謝った方がいいからね」


菜々美からそんなアドバイスを貰ったがどう謝るんだよ。

知らない女の人に腕組まれてニヤけてすみませんでした。

とでも言うのか。無理だろ。


「タイミングがあれば、謝る」




ご飯も食べ終わり、桜見てから帰ろうということになったので歩き出す。

歩き出すとやはり桜が綺麗に咲いていて、目の前だと余計綺麗だ。

その桜を見た伊吹さんも少し表情が緩んでいてほっとする。

ライトアップされてる桜も綺麗だが、散っている桜の花びらがエモい。


「和真、こんな桜が綺麗な場所があったんだな」


「俺も最近知ったんだよ。菜々美が教えてくれてな」


「えへへ。流石私だね」


「はいはい」



 

そのまま歩いていくと桜が頭の上を囲う程満開に咲き誇っていて神秘的な気分になる。

やべぇ。綺麗すぎるだろ。

何とも現実離れした雰囲気で圧倒される。


「池田くん?みんな進んでるよ」


伊吹さんに呼ばれて気づいたが、完全に見とれてしまっていた。


「ごめん。行くわ」


そう言って3人の所まで小走りで進む。




桜並木の道は特別長いわけでは無く歩き終わってしまった。

この短い時間だったのに旅行帰りのなんとも言えない気分になる。


「本当に綺麗だったね」


伊吹さんが少し前と違って柔らかい表情で話してくる。


「そうだな。本当に綺麗だった」


「?何かテンション低くない?」


「…いや、感動しちゃって」


またさっきと同じようなトーンで返すと、「なにそれ」と伊吹さんが笑いながら言う。


「また来年も行きたいなー」

 

伊吹さんは後ろを振り返って、桜を眺めながらそんな事を呟く。

特に深い意味の無い発言だと思うが、俺はそれに同調せずスルーして前にいる和真と菜々美の所に向かった。




夜も深くなり人通りも少なくなっている帰り道を4人で歩く。

電車に乗って帰るため祭りから近くの駅に向かっている。

そんな帰り道だが別にたいした会話はしていない。

今日楽しかったとか、桜綺麗だったとか、もうすぐ学校始まるのダルいとかだ。

まぁ菜々美だけは学校行きたい!とか意味のわからない事言ってたけど。

俺と和真は少し後ろに歩いていて、伊吹さんと菜々美が結構仲良くなってるなと思いながら歩く。

そんな事を考えていると参考書?を見ながら小走りをしている女の子が伊吹さんと菜々美の横を通り過ぎる。

2人の横を通り過ぎた瞬間は危ないなぁーと思っただけだが。

後ろって信号だよな。



 

今さっき通った信号のことを思い出すと咄嗟に後ろを振り向く。


「ん?どうした?」


和真が俺に話し掛けている事は気づいているが返す余裕が無い。

振り向くと、女の子は信号が赤になっていることに気づいてなく、全くスピードを緩めていない

俺はすぐに後ろに走りだした。

間に合うか?これ。

今までに無いくらい全力で走り、何とか車のクラクションが鳴った瞬間に女の子の肩を引く。

女の子は「キャア!」と叫び体勢を崩してい後ろに倒れるがそこは支える。


「危ないぞ!馬鹿か?」


女の子を支えて、安堵すると咄嗟にそんな言葉が出る。

だが女の子は今起こった事を理解出来て無く、放心状態になってしまっている。


「大丈夫か?」


すぐに和真も俺の方に駆け寄ってきて、クラクションを聞いた伊吹さんと菜々美も「何が起きたの」「どうしたの?」と疑問を投げ掛けてくる。

伊吹さんと菜々美が駆け寄ってきたタイミングで、放心状態の女の子も何が起きたか理解し始める。


「すみません。すみません」


何が起きたのか理解した瞬間、凄い勢いで謝ってくる。

女の子が怒涛の謝罪をしていると和真が「ん?加藤じゃね?」とよく分からない事を言う。

加藤?誰だそいつ?

伊吹さんも誰?みたいな表情をしているが菜々美は「加藤ちゃん!?」と驚いた声を出す。


「え?誰?」


俺が困惑していると和真がその疑問に答える。


「前少し話しただろ。順位表見てる時こっち見てた女子だよ」 


順位表見てる時の女の子?

……って!あいつか!

記憶を遡ると確かにそんな女子がいたと思い出す。

そんな会話を聞いて加藤さんも同じ学校の人と気づいたのか、少し気まずそうな顔をしている。

 

「本当にすみませんでした」


「まあ今回は何とかなったけど、もう同じ事は絶対するなよ」


「…はい」


自信の無いトーンの返しでこいつ本当に大丈夫か?と思う。

なのでもう一度念を押そうとしたが「命を助けて貰って本当に申し訳ないんですけど、門限は絶対破れないので帰ります」そう言ってそそくさと立ち上がって走っていく。

そんな勢いに呆気を取られ俺たち何も言えず見送った。



 








 










 









 

 

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