第2話
ゲームの世界において。
より正確に言うのならばそう、ソシャゲでよくある事だと思っている事だけど。
ゲームに登場するキャラクターにはレアリティというものが存在する。
そのレアリティというのは主にキャラクターの強さ珍しさに準拠されているが、多分実際には逆でレアリティの高い奴を強い珍しいキャラクターに仕上げているというのが正しいのだろう。
どちらにせよゲームに登場するキャラクターにはそういうラベル、カテゴリというものが存在していて、そして俺はどうもこの概念が苦手だった。
いやまあゲームにおけるそういう概念だってプレイヤーを楽しませるための一工夫だとは思うが、とはいえ個性あるキャラクター達に優劣を製作者側が設定するというのは、なんかこう、もにょる。
ソシャゲだとキャラクターは固定で衣装違いを高レアリティに設定する奴もあって、俺はどちらかというとそういうのが好きだ。
あるいは武器とか、そういうのとか。
さて、俺はスマホを転生した時に貰った訳だが、このスマホでは不本意ながらいろいろな事をする事が出来る。
例えばパーティーメンバーの強化だとか、状況の確認だとか。
多分、普通の人ならば喉から手が出るほど欲しい力がこのスマホには搭載されていて、その事に関しては純粋に喜ぶべきなのだろう。
ただ、一つの能力――あるいはシステム。
俺はそれを【レアリティ確認システム】と呼んでいる訳だが、これは名前の通りこの世に存在するすべての人々のレアリティを確認する事が出来る。
レアリティの高い人は潜在能力が高く、強く育つ事が出来るし。
逆にレアリティが低い人は育ってもそこまで強くはならない。
あるいはその能力値は必ずしも強さに直結している訳ではなく、例えば戦闘はそこまでだけど他の分野の天賦の才を持っている、なんて場合も高レアリティだったりする。
そんな、ソシャゲみたいな要素を見る事が出来るシステム。
正直なところこれがあった事を確認した時点で一度スマホを投げ捨てているのだが、当然手元に戻って来た。
ムカつく仕様である。
ともかく、どうやらこの世界の住民達にはこのスマホによるとレアリティというものが設定されているらしい。
あるいはスマホが勝手にレアリティで区別しているのかもしれないが、そこら辺は重要ではないだろう。
どちらにせよ、俺は人々をレアリティで見る事に対して忌避感が多大にあり、だから基本的にその【レアリティ確認システム】に関しては常にノータッチ――の筈だった。
ただ、一つだけこれには欠点があり……いや、正確に言うと便利システムなのだろうけど。
このスマホ、近くに高レアリティの人がいると勝手にアナウンスをして来るのだ。
それはスマホの電源を切っていたとしても頭の中で喧しく騒ぎ立ててくるのでもはや無視する事も出来ない。
だから道を歩く時は頼むから今日は静かにしていてくれと願いながら歩いているのだったが。
しかし、今回はどうも事情が違うみたいだった。
《おめでとうございます! LRキャラクター【カカリナ】との遭遇に成功しました!!》
「……」
LR。
つまりレジェンダリーレア。
……初めて聞いた、存在は知ってたけど。
何でもこの世界における伝説級の力を持つ存在がこのレアリティになるらしいけど、しかし周囲を見渡してもそのような人物はどこにもいない。
今日、休日。
いつも通りパーティーメンバーのアリサと鈴にはそれぞれ自由に時間を過ごしてもらい、俺は情報を整理及び確認と収集の為に冒険者ギルドへと赴いていた。
するとそこには魔法学園――アンドル魔法学園という一般的な魔法学校の生徒達が見学にやってきていて、そしてその子達の近くを通り抜けようとしたところでそのアナウンスが聞こえて来た、といった感じだった。
そうなると、カカリナという人物はその学園の生徒の中に混ざっているのだろうか?
俺は、流石に伝説級の力を持つ存在がどのような人物なのか気になったためちらりと生徒達の方へと視線を向け、しかしそこには伝説級の力を持っていそうな人物はどこにもいなかった。
ていうかアンドル魔法学園というのは俺達が拠点としている街アンドルに唯一ある平均的な魔法学校だし、そして冒険者ギルドにやってきているという事は将来的に冒険者になるかもしれない、あるいはなりたいという意思があるという事。
基本的に後者の人間はいない。
魔法学校に入学した生徒達は基本的にそのまま研究施設に向かうか、あるいは魔法使いとして就職する事が主である。
最近は生活魔法の研究がトレンドなのだそうだ。
どちらにしても、魔法学校の生徒達が冒険者ギルドにやってくる理由は前者、つまり不本意だけど冒険者になる可能性があるかもしれないからだ。
つまりは――こう言ってはなんだけど落第生徒、「落ちこぼれ」だって事である。
そして、そこにいる生徒達はお世辞にも仲が良さそうには見えなかった。
「ちょっと。貴方がグタグタしていたから集合時間に遅れちゃったじゃない」
一人の生徒が顔を俯かせている緑髪の少女に文句を言っている。
対し、少女は何も言わずただぺこぺこ頭を下げるばかりだった。
……
「カカリナ、ほんっとーに鈍臭くて同じ教室の生徒とは思われたくないわ!」
……ん?
え、その文句言われている方が【カカリナ】なの?
と、思って少し反省。
高過ぎるレアリティで好奇心を働かせていたからか、無意識に少女達をレアリティで見ていたのかもしれない。
どちらにしても、ああ、そのカカリナという本当ならば伝説級の力を持つ少女がいて、そしてその少女は同じ学園の生徒から文句を言われているみたいだ。
どうも少女カカリナが原因でこの冒険者ギルドに集まる時間に遅れてしまったらしい。
「全く、さっさと行くわよ! あんたがどれだけ鈍臭くても将来はいずれやって来るんだから!!」
「う、ぅん――ま、待ってぇユウラちゃん……!」
どすどすと歩いていく少女――ユウラとその後を追うカカリナ。
その背中を見……と、背中を叩かれた。
「……」
「……」
振り向くと、なんかアリサと鈴がいた。
「な、なに?」
「ロリコンは犯罪ですよ?」
なんでやねん。
「いや、そうじゃなくてだな」
「むん。リーダーはもっと『ないすばでー』な女の子に興味を持つべき」
なんでやねん。
……いやまあ、確かにアリサと鈴はメッチャ凄い『ないすばでー』なんだけど。
「学生がいるなんて珍しいなって思って」
「あー、アンドル魔法学園の子達ですか? だとしたらもしかしなくても私の後輩?」
「あれ、アンドル魔法学園出なんだっけ?」
「はい、一応。私はそこの生徒会、会長をやっていました」
「そうなんだ。じゃあもしかしてあの子達、アリサの事を知っているのかも」
「どうでしょうか? 知られていてもおかしくはないですけど、知っていたとしても反応に困りますけど」
「何かアドバイスとかしてきたらどうだ?」
「……自己意思で冒険者になった人間の意見はそこまで参考にならないんじゃないですかね」
と、控えめに言う。
そういえば彼女は魔法学園の生徒であった過去がありながら自分の考えで冒険者になった珍しいタイプの人間だった。
あるいは、だからこそこの冒険者ギルドにやって来た生徒達が「落ちこぼれ」である事を理解しているのかもしれない。
「私、こう見えて才能だけはありましたから」
「むん、それは良く知ってる。いつもありがとう」
「どういたしまして――で、その生徒達のどこら辺が気になったんですか?」
「む、ロリコンだから?」
「違うって」
俺は頭を振って否定する。
「ただ、その――才能がある子っぽかったから」
「……」
「……?」
「まあ、気にしないでくれ」
彼女達には俺のスマホの力はふわっとしか説明していない。
力を分け与えたり、情報を整理し確認する事の出来る不思議な力を宿したオブジェクトであるとしか言っていない。
ただ、そのふあっとした説明だったからこそ何かを察したのかもしれない。
「もしかして、凄い才能がある子、だったり?」
結構察しが良い方のアリサ。
彼女は何やら受付で揉めている生徒達の方を見、それから「んー?」と小首を傾げた。
「……魔力は少なそうですけど、二人とも」
「魔力って基本的に増やせるものだと思ってたけど」
「ええ、ですが潜在的に最終的な魔力量が多い人とそうでない人がいて、多分二人は後者ですね。基本的にほとんどの人達はあのくらいの年齢で魔力量上昇の限界に達すると思いますし」
「そっか、ありがとう教えてくれて」
「むん。勉強になった」
俺と鈴にお礼を言われ、しかしアリサは納得がいっていないようだった。
「魔力量が少ないのならば、その少ない量で出来る事が多い。あるいは特殊な力を有しているとか、でしょうか?」
「いや、なんか才能がある事を前提で話しているけど、分からないからね?」
「リーダーの事は信頼してますから」
「……んー」
まあ、少なくとも俺のスマホの力は本物なのは間違いない。
「ちょっと、やっぱり声を掛けてきましょうか?」
「いや、別に仮にあの子達に才能があったのだとしても、声を掛ける理由はないだろ」
「む、青田買い?」
「言い方よ」
しかし、実際このスマホで出来てしまう事の一番はそれである訳で。
アリサはとはいえ意見を言っただけで本気ではなかったらしく、「まあ、可愛い後輩達がもし困っていたら助言の一言はしますよ」とだけ言うのだった。
「だーかーらー! カカリナ、いい加減にして!」
「おっと」
と、どうやら助言が必要な状況がすぐにやって来たみたいだった。
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