恐怖!!リスポーンシャークの罠!!!

宮塚恵一

第1話 ドシャーク

「相馬博士、こちらです」


 静岡県駿東郡、その地下に大きくあいた大穴の中。鉄骨で螺旋状に組まれた階段と、それに付随して地下深くまで降ろされた昇降機エレベーター

 その先にある施設の元へと、相馬博士と呼ばれた女性は案内されていた。

 頭頂部以外に一切髪を残さないモヒカン刈り、半袖のワイシャツを着て露わになった左腕に幾重にも重なる×印の刺青タトゥー。彼女こそ、帝光大学理学部純粋概念生物研究室准教授、相馬悠貴子そうまゆきこ博士その人である。


「ふむ。案内結構」


 大穴の底。人読んでと呼ばれる地下3,700m深くにあるのは巨大なベルトコンベアだ。ベルトコンベアは動くことなく沈黙しているが、人工的な光LEDライトで照らされるそれは、血に塗れていた。


「博士、これを」


 相馬博士は施設職員に防護服を渡される。彼女はそれを受け取ると、慣れた手付きで身につける。


「この先です」


 相馬博士はベルトコンベアに沿って、大穴の奥へ奥へと誘われる。そして大穴の行き止まりに到着する。

 四方を鉄で囲まれている巨大な檻がそこにある。一辺100mの巨大な檻の中は空である。

 しかし──。


「概念生物顕現周波確認。職員は直ちに持ち場で待機せよ。繰り返す。概念生物顕現周波確認。職員は直ちに持ち場で待機せよ」


 大穴の中で響く機械的な音声。その指示に従い、慌ただしく大穴の中にいる施設職員が怒号をあげ、お互いの存在を確認する。その全ての視線が巨大な檻の中に注がれた。


「RS周波確認。ドシャーク、顕現します」


 アナウンスと共に、箱の中が光り輝く。フラッシュを焚いたような明るさ。事前にゴーグルをつけていなければ目が焼けていただろうその光と共に、さっきまで空だった檻の中、急激にあるモノが現れた。


 それは巨大な鮫だ。


 100m四方の檻の中で尚、はみ出そうな程に巨大な鮫。ホホジロザメをそのまま巨大にしたかのような巨体が、箱の中におさまっている。


「パイルバンカ、起動」


 再び大穴に機械音声が響く。

 その瞬間、地面が大きく揺れる。

 ザクリ、という何かを劈く音。その音と共に巨大鮫の腹が出血した。


 巨大な杭が、巨大鮫を腹から突き刺したのだ。巨大な杭は巨大鮫を突き刺した後に引っ込む。

 ザクリッ──ザクリッ──ザクリッ──。

 続けて背鰭から、左胸鰭から、右胸鰭から同じように杭が鮫に突き刺さる。


「ドシャーク、沈黙を確認」


 巨大鮫は四方から杭に突き刺された後、そのまま動かない。

 ギギギギギイというけたたましい金属音を鳴らしながら、鉄の檻の前方が開く。同時にベルトコンベアが起動して、巨大鮫が運ばれていった。

 相馬博士の目の前を、ベルトコンベアに運ばれた巨大鮫が通り過ぎた。


「圧巻だ」


 相馬博士が思わず感嘆の声をあげると、案内役の職員が「恐縮です」と頭を下げた。


「これがリスポーンシャーク。この逆さ地獄富士の話は聞いてはいたが、あの巨大鮫が現れて殺されるまでを目の当たりにできるとは」

「我々は、彼奴めが大暴れした当時のまま、ドシャークと呼称しております」


 リスポーンシャーク。

 またの名を弩級巨大鮫ドシャーク


 かつて西日本全域を蹂躙した怪物の成れの果て。その処分場。それが此処、逆さ地獄富士である。


「運ばれたドシャークはこの後、機械によって解体されます。最後にはドジャークの刺身やフカヒレは商品としてパッケージされ、日本全国の食卓に並ぶという次第です」

「リスポーンシャークの食用化によって、日本の継続的な食糧の輸出にも繋がった。一時期の怪物もこうして利用されてしまえば、救世主というわけだ」


 かつて静岡と愛知県を中心に西日本を暴れ回ったドシャークは、幾度に渡って討伐作成によって駆除された。だが、問題なのはドシャークを何度殺そうとも、また暫くたてば新たなドシャークが現れて被害をもたらすということだ。


 当時の首相、鮫島臨太郎は総力を上げて土司ャーク被害の再発を防ぐべく特別チームを発足。そして遂には静岡県駿東郡の地下に、那シャークの死後一定期間を経て大鮫の顕現する復活リスポーン地点を見つけ出したのであった。

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