第20話 訓練ダンジョン”の3層エリア



 飛び道具って本当に厄介だ、改めて受けて遠距離武器の偉大さとその対応には苦労しそう。今はこっちも魔法の水鉄砲を持っているとは言え、これが効くのはアンデッドのみ。

 他の敵にも効果のある遠距離武器が欲しいなぁと、スケルトン弓兵の射撃を受けてみてそう思う朔也さくやである。いやしかし、矢が当たらなくて本当に良かった。


 妖精のお姫も、その点には同意してくれている模様で。今度ヘンな敵がいたら、容赦なく貰った魔玉をぶつけてやるねとゼスチャーでもってまくし立ててくれている。

 頼もしい相棒なのかはさて置いて、あまり無理はして欲しくないのが本音である。何しろ、妖精のお姫のナリは本当に小っちゃくて心配になるレベル。


 お姫も敵に倒されたら、恐らくカードに戻るだけで消滅はしないのだろうけれど。それでも仲間の倒される場面は、精神が参ってしまうので見たくはない。

 そんな訳で、無茶は決してしないように相棒に言い含めて。それから引き続き、探索を再開する一行である。時刻はもうすぐ1時間が経過、そろそろ3層へのゲートが見えてもおかしく無い頃。


 この層にもぬかるんだ地面が所々あって、そこには泥の手魔物が潜んでいるみたい。注意深く先手を取られないように行動しながら、そいつらも逆に始末して行く。

 それから新手の敵の、人魂と言うか鬼火のような浮遊物が何度か初お目見え。コイツもゴーストの仲間の様で、普通の武器ではダメージが入らない仕様みたい。


 ただし朔也の所有する、光の棍棒や浄化ポーションの入った水鉄砲の効き目は覿面てきめんで何より。ほとんど苦労なく倒せて、ついでにカード化まで成功してしまった。

 ちなみに、泥の手はカード化にかすりもせず。


【滅陰の人魂】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 お馴染みのゾンビも追加で1体カード化に成功して、今日は何だか調子が良い気も。ただまぁ、集まるモンスターは死霊系ばかりってのがアレだけど。

 そしてこの【滅陰の人魂】だが、恐らく通常攻撃の無効化はカード化しても所持している筈。そして攻撃力がE評価と来たら、アタッカーには良さそうである。


 もっとも忠誠がF評価なので、こちらの命令を聞いてくれるかははなはだ怪しい。ただ、ベテラン執事の毛利もうりには、召喚ユニットは使い続ければ自然と忠誠心は上がると聞いた覚えも。

 つまりは、育てると決めた召喚モンスターは、普段から側に置くべきとの忠告なのだろう。貴重な意見は当然実行すべきだが、どうせ使うなら見込みのありそうな奴が良いに決まっている。


 そして手持ちのカードには、残念ながらそこまで良いのがいないと言うこのジレンマ。もっと深い層に、条件の良い奴がいるのを願う方が効率的な気も。

 今や脅かし役となったゴーストを、華麗に水鉄砲で撃破して行く朔也。ドロップした魔石(小)を拾う途中で、別の場所に落ちたアイテムに思わず小声で反応する。

 それは古びた首飾りで、いわゆるロザリオだった。


「おっと、このエリアで初めてまともなドロップ品を回収出来ちゃったよ……お姫さん、これって良いアイテムかなぁ?

 取り敢えず仕舞っておこう、それより3層のゲートはまだかな」


 そんな朔也の呟きに、あっちじゃないかなぁとリアクションを返してくれる素直なチビ妖精。そちらは薄暗さの際立つ一角で、石畳の通路も途切れがちのルートだった。

 あまり積極的に向かいたくは無いけど、他に進むべき道も無いのが現状である。それならば仕方がない、隻腕せきわんの戦士と戦闘コックを引き連れてそっちの方向へ。


 その暗闇のはびこる地帯は、まるでこちらのあかりすら吸収するんじゃないかってレベル。今更ながら怖がるのもアレだけど、やはり急な襲撃や罠の類いは怖いに決まっている。

 慎重に灯りを掲げて、ほぼ突き当りのその墓地通路を捜査してみると。卒塔婆そとばの乱立した向こう側に、ようやくゲートを発見した。


 こんな所に隠されていたのかと、発見の喜びに浸りながら。お姫さんの指示で、何とか通れるように道を作って移動出来るように格闘する事数分。

 それから朔也は、一行を率いて初の3層へと足を踏み入れる事に。



 そこは先程と同じような墓地区画で、薄暗さも似たり寄ったり。お墓は丈の高い茂みに侵食されていて、荒れ果てた雰囲気が演出されている。

 石畳も、途中破壊されたり雑草で見えなくなっていたりとかなり酷い。そんな中、侵入を果たした獲物に反応したのはまずはスライムの群れのよう。


 そいつ等は、プルプルと震えながら墓石の間を通ってこちらへと近付いて来る。昨夜が灯りを向けると、怯んた様子を見せるのでコイツ等も闇属性なのかも。

 寄って来たスライムは、3層だと言うのに弱っちかった。いや、実際に取っ組み合いをすれば取り込まれて酷い目に遭いそうな敵ではあったけど。


 エンの剣術は、軟体生物だろうと関係ナシに一撃で魔石に替えて行ってしまう。朔也も頑張って、光の棍棒で寄って来たスライムを狩る作業。

 その甲斐あって、何と2枚もカード化に成功!


【腐食スライム】総合F級(攻撃F・忠誠F)×2


 どうやらこのスライム、名前から推測するに何かを腐食させる特性でもあるのかも。とは言え、安定の総合F級でデッキに組み込む価値も無さそう。

 それでも合成の素材にはなる筈と、ちょっとテンション上昇しながら先へと進む朔也。次に出て来たのは、ちょっと強そうなゾンビと弓持ちスケルトンだった。


 ゾンビは相変わらず臭いが酷いし、弓矢の遠隔攻撃は厄介だ。こちらも戦闘コックに反撃を命じて、朔也も浄化ポーションの水鉄砲での敵を倒す作業。

 乱戦になりかけたけど、相変わらず隻腕の戦士の無双振りは凄い。その攻撃範囲を微妙に外さないと、こっちがダメージを受けてしまいそう。


 そんな事を思っていたら、不意に墓地横の茂みから何かが突進して来た。思わず棍棒でガードする朔也、生臭い息が敵に組み伏せられている事を知らせて来る。

 それは何と狼男で、瘦せた体躯にしては膂力はなかなかに強かった。それ以上にすぐ近くに見える牙の並びは、噛み付かれたらただでは済みそうにない。

 大慌ての朔也は、咄嗟に自分の部下へと指示を飛ばす。


「戦闘コックさんっ、襲って来たこの敵を追い払って!」


 素直に命令に従うコックさん、そのお陰で棍棒の防御で必死に抗っていた朔也は何とかフリーになれた。それから身を起こして、迎撃態勢を取ろうとした途端に再び人狼にタックルを見舞われてしまう。

 そして一緒に茂みの向こうへと、敵と仲良く転がって行く破目に。朔也はナンチャッテ剣術を探索では扱うが、決して武術の経験者ではない。


 こんな荒事もどちらかと言えば苦手で、とにかくみ付かれないよう必死。しかも茂みの向こうには、雰囲気のある古井戸が打ち捨てられており。

 その井戸の端から、にょっきりと白い手が伸びて来る演出が。


 そんな恐怖を吹き飛ばしたのは、お姫さんに持たせた魔玉(光)だった。ここが使い所と思ったのだろう、お陰で井戸の中からはビックリする程の絶叫がとどろいて来た。

 それから、命令を受けた戦闘コックも人狼を追って戦闘参加。容赦なく背中から包丁を突きさして来て、こちらの人狼も獣染みた絶叫を放つ破目に。


 2度目の組み伏せられた体型から何とか逃れられ、朔也はホッと安堵のため息。それから半死状態の痩せた人狼へと、とどめの一撃を見舞ってやる。

 そいつは呆気なく魔石(小)へとなってくれたけど、残念ながらカード化はせず。そして茂みの向こうの戦闘も、エンの勝利で片付いてくれていた。


「ありがとう、お姫さん……いやぁ、井戸から新手の敵が出て来た時は、本当にビビったよ」


 妖精のお姫は、そんな事よりこれを引っ張り上げろと、井戸の滑車に取り付けられたロープとおけを指差して来た。何事だろうと、朔也は恐る恐る井戸の方へと近付いて行く。

 幸いな事に、井戸の中には追加のモンスターは潜んでいなかった。それに安心して、ロープで吊るされた桶を引っ張り上げてみると。


 引き上げられた桶の中には、何とアイテムがギッシリ詰まっていた。鑑定の書やポーション瓶から始まって、他にも何かの薬品の瓶が2本に魔玉も5個入っている。

 他にも魔結晶(小)が5個に、銅貨も数十枚底の方に散らばっていた。それから巻物も2枚、恐らくは帰還とかの魔方陣が描かれているのだろう。


 この辺は、戻って鑑定してみない事には詳しい事は分からない。とは言え、臨時の報酬にしては一気に結構な量を獲得出来てしまった。

 嬉しい誤算に、朔也は喜んでそれらの品物を赤いリュックへと詰め込み始める。それから地面に散らばっている、魔石(微小)も拾って行かないと。

 そちらはお姫も手伝ってくれて、何とか数分も掛からず完了の運びに。


 とは言え、この墓地エリアもインしてもうすぐ2時間は経過する感じ。思わぬ報酬も獲得出来たし、そろそろ戻るのも悪くは無いだろう。

 何気に最深到達層も達成したし、朔也にとっては良いことづくめであった。強力な仲間カードの確保とはならなかったけど、戻って合成って手もまだある筈だ。


 その辺は、賄賂わいろにと贈ったお酒が良い方向に作用してくれるのを願うしか。管理人のノーム老には、入る間際に合成の技を披露して貰ったけれども。

 あれが自分でも出来るようになれば、今後の探索にも希望が出て来ると言うモノ。




 そんな訳で、完全に酔っ払い状態のアカシア爺さんへ、探索の結果報告と再度のおねだりを敢行する朔也である。ノーム老は差し出された戦利品を眺めて、ご機嫌にアドバイスをくれた。

 やはり酒で酔っぱらわせたのは、それなりに効果があったようだ。合成装置では、同種のカード同士の強化合成も可能だと教わる事が出来てしまった。


 そっちの方が初心者的には優しいけど、失敗した時のカード破損率は高いそうな。慌てて手元のカードをチェックしてみると、意外と複数所持の奴は多い。

 それに勇気付けられて、朔也は手順を教わって早速合成装置を作動させてみる。自身のMPも必要らしく、連続での装置作動はどうやら無理みたい。


 そして最初に装置に掛けた、【一角ネズミ】のカードは見事に破損して消え去ってしまった。しかもご丁寧に2枚とも、稼働用の魔結晶(小)も当然無駄遣いである。

 めげる事なく、続いて入手したばかりの【落胆ゾンビ】を生贄に投入。無駄に4枚もあったカード達は、数分後には1枚も無くなっていた。


 惨敗続きに、さすがに気力も萎えて来そうになりながら。これが最後かなと、こちらも本日入手したばかりの【腐食スライム】を装置に掛けての念を投じて合成開始。

 その瞬間、明らかにさっきと違う輝きのエフェクトが残されたカードから。酔っぱらっていたアカシアも、やったなと言う表情でこちらを見て笑っている。


【腐食スライム(中)】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 どうやら腐食スライムの、サイズが少し大きくなったみたいだ。忠誠が上がらなかったのは残念だが、合成の初成功には舞い上がりそうに喜ぶ朔也であった。

 この調子で、戦力を伸ばして行けば階層攻略も楽になって行く筈。相変わらず使える戦力が増えてないのは置いといて、希望は膨らんで来た気がしないでもない。

 後は出来れば、身体能力も少しは伸ばしたい所ではある。





 ――ナンチャッテ剣術では、さすがに今後の探索は苦労しそう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る