第19話 墓地エリアの探索



 1人で宴会モード真っ最中の老ノームに別れを告げ、朔也さくやは探索準備を終えてゲートの前へ。今日の攻略は、昨日の内から墓地エリアだと決めて用意も万端である。

 そして思わぬ形で手に入った光の棍棒を手に、意気揚々とゲートを潜って行く。魔法の水鉄砲にも浄化ポーションはセット済みで、どれだけ敵が出て来ても大丈夫。


 そんな思いで突入した墓地エリアだけど、確認の際に見た時の雰囲気と全く変わらず。薄暗くてジメッとした空気、それから立ち並ぶお墓の列と言う。

 灯りにしても、等間隔で置かれたロウソクや提灯ちょうちんの類いで、あまり光源には適さない有り様。そして朔也が味方の召喚をしている際にも、不気味なうなり声があちこちから響いて来ていた。


 そんなゾンビだか何だかの、歓迎の合唱の出迎えは少々やり過ぎな気が。ただそれも、こちらが灯りを用意すると怯んだように小さくなってくれた。

 どうやらこのエリアの敵は、相当に光属性が苦手らしい。用意して来た甲斐があったと、喜びながら朔也は敵を見定めていく。


「ようっし、狩りの時間だ……者ども、行くぞっ!」


 朔也の号令に返事は無いけど、少なくとも妖精のお姫はモーションでオーッと呼応はしてくれた様子。それから隻腕せきわんの戦士も、近付いて来たゾンビにさっそく剣での一薙ぎを見舞う。

 敵は四方から現れて、さすが墓地エリアと呆れるばかりの盛況振り。そして確かめてみた光の棍棒だけど、殴った敵が明らかに怯んでくれて面白い程。


 魔法の水鉄砲にしても、浄化ポーションを浴びた敵はマジで溶けて行くスプラッターな光景に。これは奥の手にしようと、吐きそうになりながら決意する朔也であった。

 臭いも何気にきついし、妖精のお姫は潔く上空に避難している。出て来る敵は、今の所は湿った臭いのゾンビと、それから乾いた質感のスケルトンの2種だろうか。


 両方とも程よく弱くて、まぁ弱点属性を揃えて来たこちらの作戦勝ちって気も。何しろ、灯り代わりに掲げた魔玉(光)の範囲内に入った敵は、一斉に怯んでくれるのだ。

 そんな感じで5分程度だろうか、少し進んでは戦ってを繰り返していると。明らかに周囲のうめき声も、敵の出現率もガクッと下がって束の間の安寧が訪れてくれた。

 そしてようやく一息つく、突入チームの面々である。


 その合間を縫って、朔也は魔石を拾ったり回収品を確認したりと忙しい。魔石(微小)は、この短期間で何と30個も拾えてしまった。

 カード化にも成功して、ここまでゾンビとスケルトンが1枚ずつの成果。そいつ等は案の定の弱さで、味方として使うにも足止め程度しか思いつかない。


【落胆ゾンビ】総合F級(攻撃F・忠誠F)

【スケルトン雑兵】総合F級(攻撃F・忠誠F)


 カード化した事で、それぞれの名前や性能も一応は分かってくれた。とは言え、特に特筆すべき事も無く、今後の使い道も思い浮かばない。

 せめて特殊能力とか、このカード化で判明すれば良いのだけれど。朔也のレベルが低いせいか、そこまでの恩恵は今の所は無いみたいである。


 それから他のドロップ品だけど、肉片まみれの目玉とか骨の欠片とか触りたくも無い品ばかり。そんな訳で、全てスルーして墓地を進んで来ている次第である。

 それは良いのだけれど、ちゃんと次のゲートが見付かるかこの暗さでは心配だ。これだけ暗いと、うっかり見落としなんて事態もあり得そうで怖い。


 相棒の妖精のお姫は、しかし余裕満面で道案内をしてくれている。まぁ、“夢幻のラビリンス”に較べれば、確かにエリアの面積も広くないので迷う事は無いだろう。

 とは言えダンジョン内には、不測の事態も付きまとうので用心は必要。


 墓地エリアのお墓は、ほとんどが日本式なのだけど時折若干の齟齬そごが見られる。卒塔婆そとばの乱立する小路とか、不意に赤い鳥居が出現したりとか。

 お墓の管理は日本ではお寺で、神社は神様を祀る場所なのでお門違いである。ただまぁ、日本人でもその辺の区別は混乱するので、ダンジョンが混合しても変では無いかも。


 そんな事を考えながら、用心しながら薄暗い道を進んで行くと。何らかの不穏な気配が、背後から近付いて来るのを朔也は敏感に察知した。

 そして振り返った先には、恐ろしい形相をした半透明の顔が宙に浮いていた。小さく悲鳴を上げながら、朔也は咄嗟とっさに水鉄砲を射出する。


 その後の敵の悲鳴は、小さいどころでは無くて思わず引っくり返りそうになってしまった。それでも敵は、見事にその一撃で消滅してくれて、ゴーストの奇襲を返り討ちにする事に成功。

 そして落ちた魔石の大きさは、このエリア初の魔石(小)で満足の行くモノ。カードこそゲットはならなかったけど、大きな弾みにはなったかも。


 これで3種類の敵を、このエリアでは確認が出来た事になる。それぞれ対応策も出来上がって来たし、攻略もずっと楽になって来るだろう。

 後は次の層へのゲートが見付かれば、もう少し奥へと潜ってみるのもアリかも。敵の強さ的には、まだまだ探索を続けて問題は無いように思える。


 もちろん油断は不味いけど、渓谷エリアでも2層には到達出来たのだ。“訓練ダンジョン”のレベルに関しては、それ程には恐れる事も無いだろう。

 ただし、問題は侵入者を引っ掛けるギミックの有無だろうか。そんなのがもしあったなら、難易度は急に上がる可能性も出て来る。

 後は、予期せぬ能力のモンスターだとか。


 とか思って用心していたら、急にぬかるみに足を取られそうに。驚いた朔也は、何とか踏ん張って自分の足元を確認する。暗くて良く分からなかったけど、確かにそこは水溜まりのような状態になっていた。

 突然の地面の変化にいぶかしんでいると、その泥状の足場に変化が。急に泡が立ったかと思ったら、水溜まりからぬっと泥で出来た腕が生えて来たのだ。


 この攻撃には思い切り驚かされた朔也だが、援護は意外な所からやって来た。いや、同じチームなのだから助け合うのは自然な流れではある。

 つまり隻腕の戦士が、横からその泥の手を踏みつけての素早い援護をしてくれたのだ。哀れな泥の手は、ぬかるみの中へと再び沈んで行く破目に。


 転げそうになりながら、その危険地帯を離れて行くあるじには構わずに。隻腕の戦士は、その無礼な歓迎者に止めを刺そうと泥状の地面をめった刺しにしている。

 効率は悪いが、本体がどれか分からないので次善の策だろうか。


 やがてその攻撃に妖精のお姫が割って入り、ここに魔石が落ちてるよと指摘してくれた。つまりは敵の泥の手モンスターは、刃の乱舞にとっくに倒されていたらしい。

 それを拾うお姫は、泥んこ遊びが全く気にならない様子。両者にお礼を言うご主人に、何の事は無いよと明るくゼスチャーを返してくれる。


 ちなみに隻腕の戦士は、それをガン無視して剣の汚れを落としている所。個性は大事だと思うけど、もう少し仲良くしたいなと思う朔也であった。

 そしてこのエリアの仕掛けを体験した一行は、次からはぬかるんだ場所は大回りして避ける作戦に。その甲斐あってか、突入して30分後には第2層へのゲートを発見出来た。


 それは提灯ちょうちんに囲まれた漆喰の壁際に発生していて、見た目はちょっとお洒落ではあった。そこまでの道中で、新たに半ダースのゾンビとスケルトンを倒して魔石もガッポリ。

 そんな訳で、ゲートの前で小休憩……水鉄砲の中身の浄化ポーションを補充したり、妖精のお姫と一緒に軽くお菓子を食べて栄養補給を行ったり。

 ちなみに、墓地で食べるお菓子もなかなかオツなモノではあった。




「さて、それじゃあ続けて第2層に進もうか……一応カーゴ蜘蛛を召喚してるけど、今日は回収する敵からのドロップ品がほとんど無いよね。

 ちょっと寂しいね、出来れば宝箱とか見付けられたら嬉しいんだけど」


 そんな事を呟く朔也に、頑張って見付けようと激励を贈る妖精のお姫である。そんなおチビさんに励まされ、一行はゲートを潜って第2層へ。

 そこは相変わらずの薄暗い墓地エリアで、出て来る敵もゾンビとスケルトンの混合部隊。この敵相手なら、朔也も光の棍棒を手に戦力になるので問題は無い。


 とは言え、やはり臭いやらナニやらと精神的にダメージが来るのは確かである。その分魔石のドロップと、それからゾンビのカードが無駄に2枚も追加でゲット出来てしまった。

 ちっとも嬉しくは無いけど、《カード化》スキルは順調に作用してくれて何より。一番嫌なのは、頑張って大物を倒したのにカード化しなかったってパターンだ。


 そんな事が無いように、カード化の確率は常日頃から万全にしておきたい所である。自身のスキルとは言え、ちっともその能力は把握出来ていないけど。

 その《カード化》スキルの把握も含めて、経験値稼ぎも頑張りたい所。今日の探索も、2時間を目処にダンジョンを彷徨さまよう予定の朔也である。


 順調に行けば、ひょっとして3層まで到達出来そうな感じもする。現在の朔也のレベルで、3層エリアの攻略が可能かまでは判然としないけど。

 とは言え、2層でお試しに戦ってみた結果、敵の強さは体感でそれ程には変わらない気が。妙な仕掛けや罠が無い限り、3層到達はそれ程身構えるイベントでは無さそう。


 それに勇気付けられて、2層を進む事15分余り。相変わらずのお墓や卒塔婆そとばの並びの中を、隻腕の戦士をボディガードに探索して行く。

 さっきみたいな急な変化が怖いので、それだけは注意して対応出来るようにと。幸い、変な分岐は無いようなので道に迷う事も無さそう。


 まぁ、意地悪なダンジョンだと、油断させて酷い目に遭わせるなんて事もして来るかも知れない。教本でダンジョンの勉強を始めたばかりの身としては、その辺の知識は曖昧あいまいだ。

 確かに祖父の考えた通り、探索者専門の学校はあった方が良い気がする。何しろ命に係わる仕事なのだから、先に学校に通って知識を詰め込むのは大いにアリだ。


 その辺の感覚は、朔也にしても一応持ってはいるモノの。味方の召喚モンスターのお陰で、危機感が薄れているのも事実である。それが良い事なのか悪い事なのかは別として、備えは常にしておきたい。

 例えばポーションなどの薬品類とか、防御系のスキルを確保するとか。実力者になれば、自然とレベルアップの恩恵を受けれるようになるらしいので。


 それを含めて、探索をこなす事にはとっても意義がある。毎日のダンジョン通いは良い経験でもあるし、自身の糧にもなっている訳だ。

 例えこんな陰湿な墓地エリアでも、それは同じ事……出て来たゾンビを隻腕の戦士と共に倒しながら、そんな事を考える朔也である。


 などと思考にふけっていたら、不意に頭の後ろを矢弾が通り過ぎて行った。慌てて周囲を確認すると、弓矢を構えた骸骨が墓の後ろに控えていた。

 慌ててソイツに水鉄砲で反撃して、その一撃で倒す事に成功はしたけれど。やっぱりダンジョンは侮れない、少しの油断で大怪我を負うところだった。

 こんな経験も、のちの糧にはなってくれる筈。





 ――まぁそれも、命あっての物種だけど。





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