第6話 2日目の“夢幻のラビリンス”探索



名前:百々貫朔也  ランク:――

レベル:02   HP 16/21  MP 10/15  SP 13/13


筋力:13   体力:11   器用:17

敏捷:13   魔力:15   精神:17

幸運:08(+2) 魅力:08(+2)  統率:18(+2)

スキル:《カード化》

武器スキル:――

称号:『能力の系譜』

サポート:【妖精の加護】



 さっそく使った鑑定の書だけど、めでたくレベル2へとアップしていてくれていた。朔也さくやがそれを見て盛り上がっていると、妖精も近くを飛翔しながら祝ってくれて。

 何と言うか、探索時に1人じゃ無いって嬉しい感覚かも知れない。そう思いつつ、昨日と同じく【負傷した戦士】と【錆びた剣】を召喚する。


 これで朔也に残されたMPは、残りたった6……元から減っていたのは、勝手に妖精が出て来て活動しているせいだろう。まぁ、それに関しては仕方が無い。

 その代わりステータスの幸運と魅力、それから統率に+2の効果が付いている。サポートの欄にも【妖精の加護】なんてのが発動しているし、間違いなく彼女の恩恵だろう。


 それに感謝しつつ、今日の布陣も隻腕せきわんの戦士の1トップで行う事に。カードは昨日の探索で2枚増えたのだが、【コボルト雑兵】【洞窟ウルフ】共に身勝手過ぎて使えなかった。

 そこは大いなる誤算、多少は探索が楽になると期待していたのに。まぁ、MPの上限の関係で、1度に何体も維持なんてのはベテランで無ければ無理っぽい。


 その点、“ワンマンアーミー”と呼ばれた祖父は物凄かったらしい。聞いた話では、最大100体以上の召喚モンスターを一度に操れたのだとか。

 本人のレベルは幾つだったのと、まさに呆れる武勇伝ではある。朔也がそのレベルになるには、果たしてどの位の年月が必要になるのか想像もつかない。

 偉大なる先駆者だが、その存在を追う時に既にその人は故人と言う。


 何となく物思いにふけりながら、朔也は初めて祖父の鷹山ようざんの事をしみじみと思い至った。或いは祖父の遺言は、こんな所に本心があったのかも。

 今は亡き祖父の武勇と命を繋いでくれた感謝を心に、探索者としての道を歩んで行く。それは悪い事では無いように思えて、朔也も前向きに探索を頑張れそう。


 そして2度目の“夢幻のラビリンス”内だけど、今回は遺跡のような通路に排出されていた。隣にたたずむ隻腕の戦士は、相変わらず不機嫌そうで何のリアクションも無し。

 妖精はしばらく周囲を飛び回っていたが、こっちの方が面白そうとある方向を指し示して来た。それから買ったばかりの『魔法の巻き糸』を、早速使用しての迷子の防止策。


 それはチビッ子妖精にも扱えるサイズで、巻き糸を伸ばす事でスタート地点に戻って来れるって寸法らしい。なるほど便利だ、何しろ帰還の巻物は1枚5千円もするし。

 こちらは3千円で、しかも使い捨てでなく糸が尽きるまで再利用も可だとの事。ただしダンジョン内は、遺棄物を半日程度で吸収する特性があるそうなので。

 長時間の放置は、物理的に無理みたいで残念な限り。


「よっし、それじゃあ迷子対策はバッチリかな? 今回もそこそこ灯りは用意されてるエリアだね、一応は懐中電灯を手元に持っておくけど。

 これって出力高いから、敵の目潰しにも使えるんだよね」


 朔也の呟きに、どれどれと興味を持った妖精が懐中電灯の明かりへと飛び込んで来て。当然のように視力をやられて、哀れに地面に墜落してしまった。

 トホホな性格の彼女を優しく拾い上げ、取り敢えず探索を始める朔也である。前回と勝手の違う遺跡エリアは、出て来る敵も全く違うみたいで対応が大変そう。


 まずは通路の石畳の隙間から、突然出現する軟体動物系のスライムを発見。コイツは動きも遅いので、先手も取りやすくて倒すのも苦では無い感じ。

 ただし、不意を突かれたら手や足の先を包まれて、消化液で溶かされてたなんて事態も起こり得るから怖い。ある意味有名なこのモンスター、その有名税のせいで引っ掛かる者も少なくなって不遇な存在なのかも。


 それから壁の穴から、大ネズミが集団で襲って来た時は本気でビビった朔也であった。1匹がラグビーボールくらいあって、ちっとも可愛くないこのモンスター。

 げっ歯類しるい特有のその牙は、嚙まれると大変そう……痛いだけで済めば良いが、病気も移されそうで本気で怖い。幸い隻腕の戦士が、冷静に対処してくれて被害は無く済んだ。

 壁の穴や隙間は、そんな訳で要注意のこの遺跡エリアである。


 最後に大ネズミと同じ位の割合で出現するのは、醜い妖魔のゴブリンだろうか。コイツ等は獣人と呼ばれる種族のモンスターで、人間の子供位の体型ながら、姑息な知恵と簡素ながら武器や防具を操って来る。

 その特性もあって、なかなか侮れる相手じゃ無いのは確か。しかも大抵は、同族何匹かで群がって出現して来る。なのでコイツ等を見付けたら、やっぱり先手を取っての駆逐が原則である。

 朔也に関しては、目潰し攻撃で最低1匹は仕留める作戦だ。


 隻腕の戦士は安定して強いが、不用意に敵の群れに突っ込む事は全く無い。どうやら足も悪いようで、彼の戦法は待ちの姿勢が多い気がする。

 なるほど、強い割にはカードの評価が低いなと朔也は思っていたけれど。片方の腕を戦闘で失って、更には過去に戦場で膝に弓を受けていたらしい。


 元は一流の戦士だっただろうに、本当に勿体無い話である。どうやら総合ランクと言うのは、外からの評価と言うより自身の資質の発露の割合と言う意味合いが強いのかも。

 初老の執事の毛利の話によると、召喚カードと言うのはある方法でランクアップさせる事が可能らしい。詳しくは聞けなかったけど、その方法を探り出すのも使命なのかも知れない。


 強くなるための手段なら、その方法は是非とも知りたくはあるけれど。《カード化》スキルの存在を確認して、まだたった2日目の朔也である。

 その理解を深めるのにも至って無いのに、宿題がどんどん増えるのは如何なモノか。とにかくこちらは、まずはレベルアップをしてMP量を増やしたい。

 何をするにも、取り敢えず話はそれからだろう。


 そう言う意味では、この遺跡エリアは敵の数も多くてレベル上げにはピッタリかも。ここは石畳の通路と岩壁の小部屋が連なっていて、迷いやすいエリアなのも確かである。

 ただし、朔也の場合は妖精のフォローもあって、迷って帰り路が分からなくなる事は無さそう。万一迷っても、虎の子の帰還の巻物もあるし時間いっぱいは探索を頑張るつもり。


 それから幾つも連なっている部屋の中には、たまに宝箱も設置してあって否応なくテンションが上がってしまう。もっとも粗末な木箱の宝箱ばかりで、中身もショボいけど。

 大抵はポーションが1本とか、魔石(小)が1個とかそんなモノ。宝箱はゴブリンが抱えられる大きさなのだが、それにしても中身はスカスカである。


 酷い宝箱になると、罠が仕掛けてあって開けると矢が飛び出して来た事も。幸いにも、妖精が気をつけろと事前に忠告してくれて事なきを得た。

 罠の知識など無い朔也にとっては、寿命の縮む経験だったのは確かである。そんな苦労をして開けた宝箱の中身が、鑑定の書がたった2枚とかだったりするのだ。


 何も無いよりはマシだけど、こんな怖い思いは何度もしたくは無い。そっち系が得意な召喚モンスターを、仲間に迎え入れられれば万事解決なのにと朔也は贅沢な悩み。

 今の所、1時間ダンジョン内を彷徨さまよってゲット出来たのは2枚だけ。


【スライム】総合F級(攻撃F・忠誠F)

【大ネズミ】総合F級(攻撃F・忠誠F)


 スライムも大ネズミも、朔也が何とか仕留めた際にカード化が発動してくれた。つまりはスキル発動の条件は、やっぱり術者が倒すのが大きな比重を占めてそう。

 スライムは他にもゼリー状の素材をドロップして、それの回収には結構苦労した。まぁ、これを売ってもそんな大金にはなりそうにも無い。


 その点ゴブリンは、昨日のコボルトと同じくドロップ品は豊富で当たりもありそうな気配。大半は古銭みたいな価値の無い物だけど、たまに武器や防具を落としてくれる。

 大ネズミに関しては、牙素材と皮素材が半々といった感じ。ただし、コウモリの牙は買い取り金額も安かったので、こちらも期待薄である。


 そう言えば、昨日のドロップ回収品で一番の高値だったのは何故かワーム肉だった。あんなの美味しいのかなと思った朔也だが、魔石(微小)よりは確実に高値で売れてくれた。

 ちなみに、コボルトのドロップした武器や防具は、重くて昨日は持って帰るのを諦めてしまっていた。今日も恐らくそうなりそう、何しろカード化で召喚したコボルトは、荷物持ちすら拒否する有り様である。


 完全にMPの無駄遣いで、もう2度と呼び出してやるものかと朔也も思わず悪態をついてしまった。そんな訳で、《カード化》スキルも決して万全では無いなと思い知る破目に。

 大先輩の祖父は、その点を一体どうやって克服していたのだろう?


 ちなみに昨日の失敗を踏まえて、今日ゲットした【スライム】と【大ネズミ】は召喚すらしていない。スライムに関しては、足並みが揃わないし召喚するだけ無駄だろう。

 それは大ネズミに関しても同じ事、集団ならともかく大ネズミ1匹など戦力と呼ぶのもおこがましい。例え相手がゴブリンでも、1匹では焼け石に水である。


 そして探索も1時間を過ぎた頃、ゴブリン部屋に少々変化が。弓持ちやら、魔術師系の手強いゴブが集団に必ず混じるようになって来たのだ。

 数も多くて4匹程度だったのが、5~7匹の集団に増えて来て。これは無理をすべきでないなと判断した朔也は、潔く回れ右して戻る事を決定する。


 それも何とか先手を取れて、部屋の中をそっと覗けた成果ではある。目潰し状態から回復した妖精は、偵察に関しては優秀で本当に助けになる存在だった。

 1度など、魔玉の投下で戦闘にも参加してくれて。なるほど、買えと朔也に強請ねだったのは、こんな事態を想定しての事だった模様である。


 その時は、ゴブリンも4匹いてかなり押され気味で危なかったのも確か。殺傷力の低い脅かし武器だと聞かされていたけど、いきなり足元で爆発が上がったらそれなりの脅威ではある。

 しかも爆発したのは雷属性だったようで、スタン効果もあった模様。お陰で朔也も、不意を突いてゴブリンを1匹倒す事が出来たのだった。

 敵がカード化しなかったのは、まぁ時の運なので仕方が無い。


 そもそもゴブリンのカードなど、コボルトと同じで使い道も無さそう。そしてドロップした小剣は、朔也の所持する【錆びた剣】より質が良いようで悲しくなってしまった。

 そんな訳で、リーチは減るけど武器を持ち替えての探索の続行に。やっぱり切れ味は錆びた剣より良くて、追加で大ネズミ2匹を始末する事に成功した。


 コイツ等もカード化せずで、結局2日目の成果はカード2枚と魔石(微小)が31個。それに加えて素材が袋に詰めれるだけ、プラスゴブリンの小剣が1本。

 宝箱の中身に関しては、魔石(小)1個が一番高く売れそう。確かショップで聞いた時には、1万円で買い取ってくれるって話だったような。


 他はポーションっぽい瓶が3本と鑑定の書が2枚、魔玉っぽいのが2個に古い指輪が1つ。ショップで見た商品と照らし合わせて、朔也がそう思って回収したのだが価値が高ければ幸いである。

 戻ってちゃんと鑑定しようと思う、ただし鑑定の書は1枚千円するので下手に使えば赤字である。その辺は、何か救済措置があってくれれば良いのだけれど。

 戻ったら、執事の毛利にでも相談してみようか。





 ――こうして2日目の探索も、何とか無事に終了の運びに。








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