第8話 復活

Side:フロー

 荷車に積まれた浮浪児の死体を見た。

 居た堪れない。

 アノードがかなり悲しそうな顔をしている。

 人が死ぬのは悲しい。

 アノードにこんな顔をさせてなるものか。


 俺だって悲しい。

 こんなことぐらいで諦めてたまるか。

 プログラム魔法のチートさを舐めるなよ。


「あの」


 荷車を引く守備兵を引き止める。


「何だ」

「実験したい」


 生き返りとかいうと大騒ぎになるからな。


「お前ら、医者と見習いか」


 話を合わせるのが良いだろうな。


「うん」

「銀貨1枚だ」


 日本円に換算して千円。

 感覚としては合っているだろう。

 安すぎる。

 文句を言いたいがこらえる。


 アノードがお金を払った。

 死体を家に運び込む。

 『dir』、状況把握の魔法で死体の真名を調べる。

 『吸い紙八素医』だな。

 まず、傷がないことから、病死だと思われる。


 プログラム魔法を組み始める。

 ウイルスの類から除去するか。

 そして、完治、魔法のイメージは俺の医学知識全てを込めた。

 癌だって治るはずだ。

 これでなんとかなってほしい。


 魂を呼び戻さないとな。

 そして蘇生。

 できた。


#include <magic.h>

#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

extern void virus_removal(char *real_name);

extern void cure_completely(char *real_name);

extern void revive(char *real_name);

void main(void)

{

 virus_removal("吸い紙八素医.body"); /*ウイルス除去*/

 cure_completely("吸い紙八素医.body"); /*完治*/

 system("move C:\\RecycleBinFolder\\吸い紙八素医.soul C:\\Users\\吸い紙八素医"); /*魂を呼び戻す*/

 revive("吸い紙八素医.body"); /*復活*/

}


 呪符に書いて、実行。


「がはっ、げほっげほっ」


 成功だ。

 生き返ったぞ。

 魔法万能だな。

 生き返りはゲームとかで基本だけどね。


「粥だ。慌てずに食え」

「ああ」


 浮浪児は粥を食い始めた。

 さて聞き取り調査だ。

 死の世界とか色々と聞きたいからな。


「死の世界はどんなだ?」

「分かんないよ。意識がなくなって起きたらいまだった。俺って死んでたのか」

「死んでたな」


「フロー、弟は蘇らせられないのか」


 アノードが真剣な顔つきで俺に詰め寄る。


「ごめん、弟さんの真名が分からないと。それに土に遺体が還っているかも。魂の保管場所に魂があるかも分からない」

「すまん。無理を言った。しかし、素晴らしいと思う反面。これは異端認定されるかもな。いや教会に取り込まれるかも」

「どっちもごめんだ。君はなんて名前」

「赤ら顔で通っている」

「仲間の元に帰りたいだろうけど、しばらく宿で暮らして、経過を観察しないといけない」

「何だか体がまだおかしい」

「生き返った影響だろう。死んだ原因で体がダメージを負っているからな」

「宿で大人しく休むよ」


 赤ら顔を宿に入れた。


Side:赤ら顔


 どうやら俺は死んだらしい。

 生き返ったと聞いた。

 それが本当なら凄いことだ。

 頭の悪い俺にも分かる。


 魔王というのはあんな奴だろうな。

 死すら覆せる。


「ガリに、コインはげ、鈍足、太っちょ、眠そう、あいつら元気かな」


 何日か過ごすとだんだんと体が治っていくのが分かる。

 あと少しの辛抱だ。

 何もしないで生きていける生活。

 あの魔王は俺より幼いと思う。

 何の力もない俺が恥ずかしい。


 俺は、たぶん魔王ほどは上手くできないと思うが、医者になろうと思う。

 浮浪児をただで診てやるんだ。

 それには字を覚えないと。


「体の調子はどう?」

「だいぶ良くなった。本が欲しい。文字を覚えたいんだ」

「それなら俺と一緒に覚えよう」


 魔王フローと一緒に文字の勉強をする。

 何だか不思議だ。

 文字を覚える本は手作り。


 フローの言うことには、書くと早く覚えるらしい。

 それを聞いて宿の庭で座りながら、地面に枝で文字を書く。

 消しては書き、何度もやって体に染み込ませる。


 街の子供が何をしているか見に来た。


「何をしているの?」

「文字の勉強」

「商人の息子なの?」

「いいや、医者の卵だ」

「そう。凄いね」


 浮浪児をやってて褒められる意味で凄いなんて言われたことはない。

 ちょっと、気持ちいい。

 盛り過ぎたかなと思うけど、大きく見せたいじゃん。

 止まらない限り夢に近づく。

 フローに言われた言葉だ。


 だよな。

 俺は止まらない。

 夢が叶うかは分からないが、止まらない限り近づくんだ。


 浮浪児をやっているときはそんなことは考えなかった。

 生きていく希望をフローに与えてもらった気がする。

 誰がなんと言おうが、俺の中ではフローは魔王だ。


 ああいう奴になりたい。

 とにかく進むんだ。

 焦ってもしかたない。

 進んでいるという感覚はある。

 それで十分だ。

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