第6話 みんなが死んでいく

Side:ガリ

 僕はガリって呼ばれている。

 本当の名前は忘れた。


 赤ら顔が死んだ。

 朝になったら、冷たくなってたのだ。

 守備兵に知らせると、荷車に無造作に積まれた。


 共同墓地に葬られるらしい。

 後で花を供えに行こう。

 雑草の花だけど。


 テリトリーに別のグループがやって来た。

 仲間が死ぬと、どれぐらいグループが弱くなったのか確かめに来るのだ。


「お前ら、仲間の死に付け込むなんて恥ずかしくないのか」

「生きるためだ。他の理由なんてない。恨みもないよ」


 喧嘩が始まった。

 そして、喧嘩に負けた。

 それに眠そうが頭に投石を食らった。

 いつもより眠そうだ。


 眠そうはねぐらに帰ると大きないびきをかいて寝た。

 その音で良く眠れなかったぐらいだ。

 静かになってから、ぐっすり寝て起きると、眠そうは冷たくなってた。

 荷車に積まれる眠そうを見送る。


「痛た」


 コインはげが、腹を押さえる。


「どうした。大丈夫か」

「おい、凄い汗だぞ」

「寝てろよ」


「そ、そうする」


 コインはげの下痢が止まらない。

 最後には何も出なくなった。


 誰かコインはげを助けてよ。

 医者に行っても無意味だと知っている。

 村だって医者を呼ぶと家の金が全部なくなるぐらいだ。


 コインはげが、腐った食べ物を食べた。

 テリトリーを奪われたから、腐ったものを食べるしかなかったのだ。

 腹を押さえて苦しがっているが、どうしようもない。


「くうっ、ぐっ、ぐがぁ」

「コインはげ、しっかり」

「水飲めるか」

「頑張れ」


 コインはげもあっけなく死んだ。

 荷車に積まれるコインはげを見送る。


「俺、ちょっと行って来る」


 鈍足が一人ねぐらを出る。

 嫌な予感がしたので、後をつけた。


 鈍足は露店のある場所に行ってキョロキョロし始めた。

 駄目だよ。

 叫ぼうかと思った途端、鈍足が店から食べ物を盗んだ。


 店員の腕がにゅっと出て、襟首を掴まれた。


「キョロキョロしている奴は大抵はこういう奴だ」


 そう言って棍棒で鈍足の頭を叩いた。

 一撃で鈍足の目と口と鼻から血が出た。

 あー、何で。

 何でだよ。


 店の物を盗んで、鈍足が大人に叩かれて死んだ。

 守備兵が来て店員が説明すると、鈍足は荷車に積まれた。


「鈍足が死んだ」


 僕は太っちょに告げた。


「俺は街を出る。モンスターを倒すんだ。死ぬ時はモンスターと戦って死にたい」

「うん、止めない」


 残った太っちょは街から出た。

 モンスターに戦いを挑むつもりらしい。

 いくら経っても太っちょは戻って来なかった。


「僕をグループに加えてくれない」

「駄目だ」


 他のグループに行こうかと声を掛けたがどこも断られた。

 落ち目な奴がいると縁起が悪いらしい。


 何としてでも生き残る。

 山菜摘みはお母さんと何回もやった。

 街の空き地でそれを見つけて摘む。

 料理してない山菜は凄く不味い。


 でも生き残るためだ。

 俺が死んだらグループの奴の墓参りに行く奴がいなくなる。

 忘れ去られたら本当に死んでしまう。


 山菜じゃ力が出ない。

 僕は路地で倒れ込んだ。

 そしてスープを飲まされていたのに気づいた。


「ありがと、僕はガリって呼ばれている」

「俺はフロー」

「フローの名前は覚えた。力が戻ってきたよ」


 僕は手を握ったり開いたりしてから、足の様子を確かめ、歩き出した。

 いつかフローにこの恩を返したい。

 そう思いながら。


 共同墓地は街の外れにあり、巨大な墓石があった。

 台があり花が供えられている。


 僕は雑草の花束を供え、祈りを捧げた。


「太っちょ、コインはげに、鈍足、赤ら顔、眠そう、今日も僕は生き残れた。みんなのことは忘れない」


 悲しいけど涙が出ない。


 よし、生き延びるすべを考えるんだ。

 父さんに木のことについて教わった。

 キノコが生えている枝は枯れている。

 それに白い粉みたいなのが付いているのも。

 うん、そうだね。

 僕は、人の庭を回ってそういう木を探した。


 あった。

 少し力を入れると枯れてる枝は折れた。

 そういうのを集める。

 薪として、売るためだ。


 前にテリトリーにしていた定食屋の裏口を叩く。


「なんだ浮浪児か。今の時間、残飯はないぞ」

「薪を買ってほしいんです」


「ほう、うん乾いてるな。よし銅貨3枚で買ってやろう」


 露店に行くとどこも良い匂いがする。

 ひと際香ばしい匂いはパンだ。


「パンを売って」


 さっき貰った銅貨を出した。


「駄目だ。きっと盗んだ金だろう」


 浮浪児に対する人々の視線は冷たい。

 特に露店の店員は浮浪児に盗まれたことが何度もあるのだろう。

 敵を見る目で見てくる。


「薪を売ったんだ」

「ほう、街の外に出たのか」

「ううん、庭に落ちている枯れ枝をコツコツと集めた」


 嘘をついた。

 本当は枯れ枝を折った。


「なるほどな。売ってやるよ。こう見えても人を見る目はあるんだ」

「ありがと」


 話の分かる人で良かった。

 でも売って貰えなかったら、しつこく何軒も回るだけだ。


 パンを水でふやかして食べる。

 仲間に食べさせてやりたかったとか、色々な思いが頭をよぎるが涙は出ない。

 僕が安心して泣ける日が来るのだろうか。

 そんな日が来て欲しい。

 贅沢な願いだろうか。


 これであと1日ぐらいは生き延びられる。

 枯れた枝はもう見つからないと思う。


 次の生きるすべを考えるんだ。

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