22、依頼文:「ツバメ」が含まれる五行の詩を書いてください・上

「ほら、れんくんもゆうとも、お菓子があるから食べていってね。せっかく週末、お母さんと一緒につくったんだから」


 少ししんみりしてしまった空気を和ませるように、お父さんはクッキーとチョコレートが入ったお皿を二人に勧めました。甘いものに目がないゆうとはさっそく、クッキーに手を伸ばしています。


「れんくんとのおしゃべりが楽しくて忘れちゃってた。クッキーおいしいから、れんくんも食べて。あとこっちのチョコは、れんくんがくれたの?」

「うん。お母さんが、持っていきなさいって」

「やった。食べるね」


 ゆうとはクッキーをほおばりつつ、個包装のチョコレートも手元に置いています。欲張りだなぁと思うお父さんでしたが、そういえばゆうとは、お皿にお菓子が盛られている場合はいつも、じぶんが食べるぶんだけ手元にもっていきます。欲張りというよりむしろ、節度を守って食べているのかもしれません。そんなゆうとはチョコレートの包みを開けてひとかけら口に含み、歓声をあげます。


「れんくん、このチョコすごくおいしい! ねえ、れんくんの家にはいつもあるの?」

「うん。お母さんが好きで、だいたい置いてあるかな」

「じゃあれんくんの家に行けば食べられるんだね! お父さん、もう一個食べてもいい?」

「食べ過ぎなければいいよ。夜ご飯が入らなくなったら困るから、そうならないように気を付けなさい」

「わかった!」


 ゆうとは、れんくんが持ってきたチョコレートをとても気に入ったようです。かんたんに手に入るようなら、家でも買おうかと考えたお父さんは、先ほど台所に置いてきたチョコレートの外袋を後で確認するつもりになりました。

 一方でれんくんも、ゆうととお母さんが作ったクッキーを口にほおばり、目を丸くしています。


「クッキー、おいしい。ゆうとくんが作ったの?」

「ほとんどは、お母さんだよ。でもね、生地をこねるのはぼくがやったんだ」

「色もきれいだし。この渦巻きのが、おいしい」


 れんくんは緑色の渦を巻いた模様のクッキーを指差します。ゆうとは得心したように頷きました。


「あ、それね。確か抹茶が入ってるんだよ。れんくん、抹茶好きでしょ?」

「うん。抹茶味のお菓子とか、いつも欲しくなる。なかなか買ってもらえないけど」


 れんくんの食の好みはちょっと渋めなのかもしれません。しかし、最近は抹茶味のお菓子がたくさん売られているので、いまの子どもは抹茶好きが意外と多いのかもしれないと、お父さんは思うのでした。


「あ、じゃあさ、次の詩のお題、ぼくが出すのは『うずまき』にしようかな。なんかさ、さっきもいっこ前も、僕が指定したのが『場所』だったから『鳥がそこにいる』っていう話になったよね。でも『うずまき』は場所じゃないから、全然違う話になりそう」


 チョコレートをもぐもぐほおばりつつも、ゆうとはまだ詩で遊ぶことを考えていたようです。れんくんもクッキーに伸ばしていた手を止めて、ハンカチで指先を拭いてから図鑑を開きました。


「うん、面白いかも。そうしたらぼくのお題は……『ツバメ』でもいい?」

「ツバメ?」


 まだれんくんは、図鑑を開いただけでめくってはいません。しかしお父さんがちらりと見やると、しっかり『ツバメ』のページが開かれていました。


「ぼくの家の隣の家の前に、いつもツバメが巣を作っていて。ヒナが育っていくのを見るのがかわいくて、楽しみなんだ。だから、図鑑もいつもツバメのページばかり見ているんだ。もう、ぱっと開いたらここが開いちゃうくらいになってる」

「そんなにツバメが好きなんだ。知らなかった」

「うん」


 ゆうとは驚いた顔をしていました。れんくんはよくおしゃべりをする友だちですが、ツバメの話は初めて聞いたのです。図鑑に目線を落としながら話すれんくんは、少しはずかしそうです。鳥の図鑑を見てお題を出すという話になった時、真っ先にツバメの名前を挙げなかったも言い出すのがはずかしかったからなのかもしれません。

 逆にいえば、今ツバメの名前を出せたということは、詩の遊びに慣れてきた証拠ともいえるでしょう。お父さんは二人の様子をほほえましく思いながら、ソファの横に置いていたタブレット端末を持ち上げました。


「そうしたら、次のお題は『ツバメ』と『うずまき』でいいのかな?」

「うん!」


 元気に返事をしたゆうとの横で、れんくんも頷いています。ふたりの様子を確認して、お父さんは指示文章を打ち込みました。出てきた「AIが考える詩」を読み上げます。


 “青空高くツバメ飛ぶ

  くるくる回る風見鶏

  春の訪れ告げる

  もうすぐ田植えの季節

  みんなで歌おう春の歌”


「お父さん、カザミドリってなに?」

「そういえば、最近見かけないなぁ」


 久しぶりに、音を聞いてもゆうとが理解できない言葉が出てきました。お父さんはすぐにタブレット端末をネット検索の画面に切り替え、「風見鶏」と打ち込みます。すぐに、ニワトリの形をしたオブジェの画像がたくさん出てきました。お父さんが差し出した画面を、ゆうととれんくんがのぞき込みます。


「風見鶏っていうのはこういう形をした、建物の屋根とかにつけられる飾りだよ。風がどっちの方向から流れてきているのかを知ることができるんだ」

「上が、ニワトリの形をしているんだね。鳥のお題を続けて出したから、AIが鳥っぽい言葉をいれたのかな?」

「なるほどな、そうかもしれない」


 確かに、生成AIは入力された言葉からも学習するというのを、お父さんはなんとなく聞いたことがありました。お父さんは三回連続で「鳥」を含む詩の出力を指示していましたから、それが何らかの影響を与えた可能性はあるかもしれません。ゆうとの考察に頷いていると、今度はれんくんが声をあげます。


「さっきのムクドリの詩も春だったし、今回のツバメも春の話になっているね。これも、たまたまなのかな。確かにツバメが隣の家にくるのは五月くらいだったと思うけれど、ムクドリと春ってあんまり関係ない気がするし。誰か別の人が『春』を含んだ言葉をたくさん書いてもらったから、こっちにも春がたくさん出てくるのかな」

「それもあるかも。てことはさ、他の人がAIにお願いしたことが、ぼくたちのお願いにも関係してるのかな?」

「ありえる話だな。ちょっと調べておくよ」


 れんくんの指摘も、なかなか鋭いなとお父さんは思います。生成AIが、どうやってAIになっているのか……人工知能として成長しているのかを、お父さんはよく知りません。でも、直近でたくさん入力されたり、出力されたりした言葉を出しやすくなるという傾向はあるのかもしれません。この辺りはしっかり調べなくちゃなと思うお父さんでした。

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