20、依頼文:「ヒヨドリ」が含まれる五行の詩を書いてください・下
お父さんの予想より早く、AIから返答が返ってきました。いつも通り、ふたりの子どもたちの前でできた詩を読み上げます。
“ヒヨドリは高く飛び立つ
青空を高く高く
宇宙まで届きそう
宇宙には星が輝く
ヒヨドリも星になった
小さな光で夜空を照らす”
「あれ、今回も五行じゃないんだ。生成AIって、行数を守るのはむずかしいのかな?」
お父さんのタブレット端末をのぞき込んだゆうとが、首をかしげます。
「そうかもしれないね。ゆうとは、詩を見てどこが気になった?」
いつもの通りお父さんが話を振ると、ゆうとは真剣な顔でじっとタブレット端末を見つめます。横ではれんくんも同じようにしています。お父さんは、こどもたちが画面を見やすいように手を伸ばし、二人の間に端末がくるようにしました。
「これって、前の三行と後ろの三行って同じヒヨドリの話なのかな? いっしょなら、高く飛んだヒヨドリは宇宙まで行って、星になったってことだよね」
「うん。話がつながっているから、同じヒヨドリなんじゃないかな」
ゆうとの疑問に、れんくんは同意します。れんくんは詩を鑑賞する遊びをするのが初めてなので、まずはゆうとの話を聞くつもりのようです。
「難しいなぁ。空に見える星って、ぜんぶ鳥がたかーく飛んでできたものなのかな。だから、このヒヨドリも星になるために、宇宙に飛んで行ったのかも」
「だとしても、ぜんぶの鳥が星になるわけじゃないと思う」
れんくんは、ちらりと窓の外へと目をやりました。
「だって、鳥っていっぱいいるよ。星もいっぱいあるけど、ぜんぶの鳥が星になっていたら、空は星だらけになっちゃう。だから、何か決められた鳥だけが星になるんじゃないかな」
「決められた鳥?」
ゆうとが聞き返すと、れんくんは難しい顔をして考え込んでいます。
「なんだろうね。どういう鳥が星になるんだろう」
「ぜんぶの鳥が星になるわけじゃないっていうのは、ぼくもわかる気がする。じゃないと、ぼくたちが外で見ている鳥がいなくなっちゃうから」
考えすぎて固まってしまったれんくんとしゃべりたくて、ゆうとは必死でことばを出します。少しフォローが必要かと思い、お父さんも声を上げました。
「れんくん。宇宙に飛んでいく鳥って、星になるためにそうするんだとしたらさ。人間に置き換えたらどうだろう。何かをするために行動すること、例えば今日れんくんはうちに来るために、お菓子を持ってきてくれた。これって何かの参考になるかな」
子どもの想像力をじゃませずに、発想の手助けになりそうなことを言うのはとてもむずかしいです。特にれんくんは、ゆうととは違いお父さんと話すことに慣れていません。れんくんにはどういう話し方をしたら発想の枝葉を広げられるのか、お父さんにはわかりません。だからなるべく、れんくんにとって身近な例を出してみました。すると、れんくんはうんうん考えて下を向いていた顔を上げます。
「ぼくがお菓子を持ってきたのは、お母さんにそうしたほうがいいって言われたから。ということは、ヒヨドリが星になるために宇宙に飛んでいくのも、誰か、いやほかの鳥? お母さん鳥? にそうしたほうがいいって言われたからなのかな」
「確かに、友だちの家にいくときにいつも、お菓子を持っていくわけじゃないもんね。ぼくがれんくんの家に遊びに行く時だって、お菓子を持っていくときとそうじゃないときがあるし」
れんくんが会話に戻ってきてくれたのがうれしいのか、ゆうとはれんくんにくっついて言葉を繋げます。れんくんはそれを受けて、再びちょっと考えてからゆうとのほうを見ました。
「うーん。だったら、同じヒヨドリでも星になるときと、そうじゃないときがあるのかな。星になりなさいって言われたときは宇宙まで飛んで行って星になって、そうじゃないときは地面に戻ってきてまた鳥のすがたになる」
「たしかに! だったら、ぼくたちがふだん見ているヒヨドリも、宇宙から戻ってきたばかりなのかもしれないね。それで、今日見たヒヨドリが、明日には宇宙の星になっているのかもしれない。きっと星になってぼくたちを見て、ヒヨドリの姿になったらぼくたちに見られてる。それをずっと繰り返してるんだよ」
色々と考えた結果生み出されたれんくんの考えは、ゆうとにとっては新鮮でした。目を輝かせて、れんくんのほうへと身を乗り出して言葉を続けます。
「だとしたら、ヒヨドリってすごい大変なことをしてるんだね。だって、宇宙はずっと遠くにあるから、飛んでいくのはきっとたいへんだよ。昨日・今日っていう短い間隔じゃなくて、もっと長い単位でそれをやってるんじゃないかな」
「たしかに。だってぼくは、小学校に行くまでにも十分かかるもん。ヒヨドリが飛ぶほうがずっと速いけど、だったとしても宇宙まで一日で行くのはむずかしそうだね」
こくりと首を動かしたれんくんは、再度タブレット端末に視線を移します。お父さんが端末を持つ手が少し痛くなってきましたが、これもふたりが楽しむためです。頻繁にれんくんが家に来るようだったら、タブレットを置く台を買ったほうがいいかもしれません。
「だとするとさ、この詩ってもしかしたら続きがあって、星になったヒヨドリが地面に向かってどんどん飛んできて、こっちに戻ってくるっていうお話が書いてあるのかもしれないね」
「確かに。五行って指定しているのはぼくたちだから、本当はもっと長い詩の一部分なのかも」
ゆうとの想像に、れんくんは納得した様子です。この詩をどんなルールで作っているのかは、お母さん経由でれんくんのお母さんに伝えていました。だから、れんくんもわかっているのです。
それにしても、「AIが表示してくる詩は、長い詩の一部分」などという発想は今までになかったものでした。やはり、複数人で考えると新しい発想が生まれるようです。お父さんは早くも、れんくんと一緒にこの遊びをしてよかったなと思い始めていました。
「ねえ、けっこう面白くない?」
「うん。いろいろ考えられて楽しい」
「もっとやってみようよ、違うお題で!」
どうやられんくんも、言葉を使った遊びはけっこう好きなようです。ゆうとの言葉で、お父さんは待っていましたとばかりにタブレット端末を手元に戻しました。次は、どんなお題が飛び出すのでしょうか。
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