015:DIY製光学迷彩

 蓄光ビニール。


 園芸用目的で開発されたこの特殊な樹脂は、その名の通り光を溜め込む。


 そして、一定の電流、電圧をかけることで自在にその光を放出することが出来るのである。

 

 より正確に言えば、光の波長を記録し、電気としてその身にとどめ、全く同じ波長の光として放つというプロセスを繰り返しているわけだ。

 

 この樹脂の開発により、大気汚染の甚だしい崩壊前の環境であっても農作物の昼夜問わずの安定生産が可能となった。


 崩壊の先延ばしに一役も二役も買ったのである。


 しかし、ある軍需工場の技師が思い付いた。


 これはステルス兵器足り得るのでは、と。


 つまり、周辺の光景を蓄光ビニールに記録させ、リアルタイムで電圧を操作し、全く同じ波長の光を周囲に投射し続けることが出来るのであれば、それは透明と言って過言ではない。


 同じ光を鸚鵡返しし続ける。そういう理屈だ。


 そして、スペンサーが試みたこともまた同様だった。


 蓄光ビニールをアーク溶接の端子に接続し、電圧の調整はスペンサーが行う。


 高度な調整には専用のソフトウェアが無ければ到底不可能だが、生憎ここは重汚染地帯。


 見渡す限りの灰色の世界だ。多少のズレも塗りつぶしてくれる。


 おまけに、狙撃手は黄色の塗装という固定観念にとらわれているはずだ。


 HA―88を隠蔽できる要素は揃っている。


 かくして、夕闇を恐れた相手が攻撃してきた所をやり過ごした。吹き荒れる粉塵の中で耐え忍んだ。


 相手の索敵が外れるタイミングを待ち受け、行動を開始する。

 

 景色の投射がブレないように慎重に、時計塔までにじり寄る。

 スペンサーは電圧を最適化し、ピースはできるだけ姿勢を崩さぬよう、ビニールを波打たせぬよう、廃墟の影を縫うように歩を進める。


 再現性の全く無い綱渡りの様な芸当。それを二人はやってのけたのだ。


 そして、時計塔の足元まで迫った時、次の作戦へと移行した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る