第5話 交渉材料

「神のなんたら...は知らないが、あんた、独断で来てるんじゃないか?」


 俺の問いに、彼は少し動揺したようだ。


「...!違う!」


 まず、この早魔という男についてだ。

他二人が日本語が流暢でない外国人、交渉する態度には見えない少女であるのに対し、彼は恐らく、れっきとした日本人で、元か現役かは知らないがビジネスマンだ。

これは今までの流れで分かる。挨拶ができる人間であり、社外秘として他人に情報を漏らさないようにするリスクヘッジもできる。


 しかしここで疑問だ。

それが来た目的であれば、三人組で来るはずだし、一人で来るとしたら(恐らく)代表のルソーが来るはずだ。それも日本語の流暢さという点で矛盾するが。


 例えば、他二人も同じように誰かを連れて行こうとしに?

答えはNOだろう。脅すならコミュニケーションが必要だ。


 それなら...彼は独断で来ているのか?

...恐らくYES。昼食の時間に、他二人を置いて単独行動。あちらは交渉ではなく脅しのつもりだ。交渉する余裕すらないのかもしれない。


「...他の2人が見えないな。ここには一人で?」


「答える義理はない!」


 なりふり構っていられない様子だ。やはり、何か焦りが見える。

このまま「嫌だ」なんて言おうものなら、そのとやらで何かが起きるのだろう。


「まあ、落ち着け。話によっては一緒に行くつもりだ。」


 彼は答える。


「....俺は一人で来た。」


「こんな時間に他の2人を置いて、ただのサラリーマンの俺に脅しをかけに来る。やっぱり...独断か、それとも他にもターゲットが居るのか?」


「...どうしても来てほしい。彼女の為なんだ。」


「彼女?ディアボロとかいう女の子か?」


「違う。そろそろ空輸されて来るはずだ。彼女の名前は”さき”。俺やお前と同じ代償者だ。」


 知らない単語ばかりだ。聞き出す必要がありそうだな。


「...まず代償者ってのが分からないが、まあいい。俺を連れて行くのとその人になんの関係があるんだ?」


「彼女の能力は”代償者の検知”だ。しかしその代償は...彼女の人間性だ。」


「人間性?」


「人間性を失うにつれて、言葉を忘れ、理性を忘れ...最後にはただの獣のようになる。他にも同じような代償を持つ人間を見た。」


「探知の能力を使うとその代償が発生するから、それを避けたいと。」


「ああ。もしおまえが来ないのなら、ルソー達はその能力でお前を捕らえに来るだろう。だから、その前にお前を捕まえる必要がある。」


「...じゃあ、なぜ俺なんだ?大したことは出来ない。出来ることとしたら、見えない火を付けることぐらいだ。」


「違う。正確に言えば『暗闇を代償に』見えない火を付けることが出来る。だろう。」


 驚いた。おそらく白くなるあの手品のことか?そこまで知られているのか。

せいぜいこのことを自慢していたのは小中学当たりだったのだが、意外と昔の話は今も続くものなんだなぁ。

 

「それで、それが何故必要なんだ?」


 彼は一拍おいて答えた。


「大量停電殺人事件の犯人を捕まえる、それか殺害するためだ。」

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