第2話


 「ぶふっ、……お、伯母さま、そのつけまつげ、もしかしなくても伯父さまと同じ方からですか……!?」

 「っ、は!? まあっ嫌だわこの子ったら、わたくしが後付けのものなんて使うわけがないでしょう、これは全て自前でしてよ!!!」

 真っ赤になってノンブレスでまくし立てる伯母は、連れ合い同様に寄る年波の影響をもろに食らうお年頃だ。目下の悩みはシワとかシミとか、あと自慢のブルーアイを縁取る長いまつげが減ってきたこととか。そんなこんなで現在、夫にナイショでつけまつげを愛用していたりする。

 もうお分かりだとは思うが、そのツケマが絶賛ゲーミング発光中だった。やっぱりきらきらつやつやした上品な輝き方で、部品が部品なだけに新手のオシャレに見えなくもない。が、四十過ぎのマダムがやるにはちょっと新しすぎやしないか。

 (……いや、待てよ? 二人とも、ちょっと反応が鈍すぎない?)

 ようやく引っ掛かって、相変わらずぎゃんぎゃん言っている夫婦の声をスルーして考える。いくら何でも気付くのが遅すぎないか。伯父のヅラはともかく、伯母の方は文字通り目の前で光っているというのに、だ。

 ということは、この光は普通のものではない。息も絶え絶えな有り様のシーナはちゃんと聞かなければ確認できないが、少なくともエレノアくらいにしか見えていないのだ。つまり――

 「……ごほん。ええと、お騒がせしてすみませんでした。ところで伯父さまたち、わたしはお客様にご挨拶なさいということでうかがったんですが、その方は?」

 「ええいもう、取って付けたように誤魔化すでないわ!!

 使者殿、本当にこやつへの用事ということでよろしいのですか!? 見ての通り訳のわからんことばかり言うし、日がな古本にかじりついておるせいで礼儀も作法もなっとらんしで、仮にも貴族の子女としては落第もんですぞ!?」

 「――いいえ、とんでもない。話に聞いていた以上です、実に見識のあるご令嬢だ」

 せっかく謝ったというのに、相変わらずの調子で失礼なことを言ってくれるダドリー伯父。しかしそんな言い草に返ってきた答えは、思いのほかに穏やかで落ち着いた、ついでに意外にもエレノアに対して好意的なものだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る