第15話 わたしのしんぽ



 わたしの思いつきに端を発する、正直『だめもと』じみた協力依頼だったのだが……われながら予想外なことに、そこそこ期待できそうなお返事をいただくことができた。



 やはりというかテオドシアさんにとっては、大佐たちの反乱計画は初耳だった様子。珍しく切羽詰まったような表情でいろいろと訊ねてきたのだが、申し訳ないけど細かなところはまだ決まっていないと思う。

 ただひとつ確かなことは、今後レッセーノ基地は二面作戦を余儀なくされるということ。もちろん基地の危険度は跳ね上がるわけなのだが……幸いなことにテオドシアさんはまだまだ滞在してくれるそうなので、補給に関してはひとまず安心することができた。


 ……とはいえ、わたしたちの戦いに無関係のテオドシアさんを巻き込んでしまうことになるのだ。

 そこはもちろん申し訳ないというか、こんなわたしでも心苦しく感じてしまうし……なればこそ、この基地の安全は死守しなければならないであろう。



「……なんとなんと。エスペが、帝国にケンカを売るとはネ」


「は、はい。なので、このきち……せんりょく、ふあん、が、あって……」


「…………事情は理解したヨ。確かにワタシタチ『シャウヤ』は、キホン的には戦うを好まナイ。戦うヨウな空気なったら、サッサとオサラバするがつねの対処ネ」


「はうう」


「ンンー…………マァしかしネ、ノール。ココ最近は、ワタシタチも事情がチラチラ変わってるヨ。……ソレに、ほかでもないノールの『おねがい』ネ。ワタシも好きなコにはイイカッコしたいヨ」


「っ、わっ、わたしも! ……わたしも、テオドシアさん、すきなこ、ですっ!」


「カカカ! ソレは嬉しいネ! ……ならワタシも、チョイとは好きなコのためにガンバってみるヨ」


「あ、ありが、っ…………ありがお、ざい、ますっ!」



 テオドシアさん本人は、しきりに『保障はできないよ』と苦笑していたけど、いまのわたしたちは猫の手も借りたいというか、わらをも掴みたいくらいに困っているのだ。少しでも望みがあるのなら、それはとても嬉しいことである。


 とはいえ……まあ正直なところ、彼女たち種族の気性からして、あまりケンカは得意じゃなさそうな気はしている。常日頃から『戦いは避けたい』と言っている彼女なのだ、きっと荒事は苦手で温厚な種族なのだろう。

 実際、テオドシアさんも体つきは小柄だし……そりゃ両腕はヒトのものより大きくて強そうではあるけど、とても機甲兵機やエメトクレイルに勝てるとは思えない。

 それに、わたしがテオドシアさん以外の『シャウヤ』を知らなかったということは、その数においてもヒトよりずっと少ないのだろう。この近辺に『シャウヤ』の国なんて存在しないはずだし、援軍を求めることも難しいと思う。


 可能性があるとすれば……テオドシアさんの知り合いに、都合よく傭兵稼業の真似事をしてくれるようなひとがいることを祈るくらいか。

 いつだったか彼女は、レッセーノ基地に来る前のことについて『あちこち旅していた』みたいなことを言っていた気がする。そのときにもしかしたら、用心棒てきな感じで知り合いになったひとがいるかもしれない。



 わたしたちや大尉どののような『軍属』ではなく、民間人でもエメトクレイルを扱える者は、意外と存在してたりするらしい。

 というのも……まあ軍ごと国ごとで技術的な優劣はあるにしても、エメトクレイルを形作る技術の基幹部分は、多くの国々・人々に対して開かれた情報であるためだ。


 どこぞの国のどこぞの工房では、扱いやすさと拡張性の高さに比重を於いた『民間用モデル』が生産されていたり、それの輸出を国家事業として推し進めていたりもするらしい。

 そういったものを手に入れ、さまざまな作業に用いたり、危険地帯を突っ切る際の護衛を生業としていたり……そんな人々も、この世界には存在しているらしい。


 ……わたしも一度、見たことがある。というかなんなら撃ちそうになったことがある。

 幸いにも大佐が『待った』を掛けてくれたので、ことなきを得たわけだけど……エメトクレイルといえば自軍か敵軍か、という認識しかなかったわたしにとって、民間用というのはなかなか衝撃的だった。



 まあ実際のところ、そんな『民間の用心棒』が都合よく助けてくれる可能性はかなり低いのだろうけど……しかしわたしがあのとき、民間のエメトクレイルを撃ってしまっていたら、その可能性は間違いなくゼロになってしまっていただろう。

 やっぱり大佐はすごい。先々のことを見据えて、わたしが不利益な行動を取らないように戒めてくれたのだ。きょうも眼鏡が輝いてるぞ。


 テオドシアさんが協力者を探してくれれば、そんな大佐に吉報をお届けすることができる。

 とはいえここから先はわたしに出来ることなど無く、もはや祈り願うしかできないのだが……テオドシアさんが「がんばってみるよ」と言ってくれたのだ。

 きっとなんとかなるだろう。彼女を信じて、今は待つのみだ。





 …………と、いうわけで。


 今のわたしにできる、もうひとつの『できること』といったら……やっぱり、になるのだろう。




(やっぱ、エメトクレイル、ていうより……輸送機? いやむしろ、戦艦? いや駆逐艦? 水雷艇? ……んー、わかんないや)



 近くで見上げてみると、やっぱりその巨大さが印象的だ。よく覚えてないけれど、かつての世界の自衛隊輸送機なんかが、こんな感じの胴体だったような気がする。

 腹の部分には格納庫があり、後部下側には大きなハッチが口を開けている。そこからエメトクレイルを4機くらいは積み込めるというのだから、そのサイズ比較がわかりやすい。

 ここに来るときに積み込まれていたシュローモ大尉の専用【フェレクロス】は、既に搬出されて点検中とのこと。今はわたしが扱うために【9Ptネルファムト】を積み込み、組み込んでいるところのようだ。


 わたしが【パンタスマ】を駆るときには、格納庫内の【9Ptネルファムト】に搭乗・接続し、それをコアユニットとして【パンタスマ】を制御することになるらしい。

 もちろん【パンタスマ】のほうにも、操縦席……というか艦橋のようなものは存在するのだが、複数人で操る前提のへわたしがお座りしたところで、この巨体を自在に操れるわけがない。


 わたしがこれまで無人機スレイヴを制御していた、制御子機ハンドルのうちの6基を回収。それを【パンタスマ】機体各所の情報制御端末部分に分散配置することで、制御子機ハンドルを介して機体制御を行う作戦である。

 これまではエメトクレイル6機の制御に充てていた処理能力を一箇所に纏め、それによってこの巨体をわたしひとりで扱おうという作戦であり、それら制御子機ハンドルを操る設備の整った【9Ptネルファムト】を、そのまま操縦室として積み込んでしまうこととなったらしい。


 まあ、格納庫の中だろうと背中の上だろうと、制御子機ハンドルがあれば機体の制御系には繋げられる。

 各部カメラやセンサーの情報も問題なくモニターできることだし……やってみないとわからないが、たぶん戦闘機動にも支障は無いと思う。




(ぱんたすま、ぱんたすま。おててが、大っきいね)



 左右に大きく張り出した武装ユニットと、そこから伸びる巨大な圧砕機クロー

 正面を睨む大口径主砲に、各所に設けられた自翔誘導爆弾の発射器と、上部に積んだ大型投射装置。

 どれもこれも、エメトクレイルをはじめとする敵性兵機を容易く破壊せしめる代物であり……攻撃性能に欠けるわたしと【9Ptネルファムト】が、長らく欲し続けていたものだ。


 ただ……仕方がないとはいえ、制御子機ハンドルの過半を回収してしまった以上、操れる無人機スレイヴの数は大きく減ってしまった。

 無人機小隊【サルヴス・ベータ】および【ガンマ】は解散、直掩の【アルファ】3機のみが、わたしの新しい身体を守る盾となる。

 ……とはいえ、そもそも【パンタスマ】の地力が半端ないのだ。防性力場シールドの出力も桁違いだし、この機体が押し切られることなどそうそうありはしないだろう。

 それに、制御子機ハンドルによる支配を解かれた6機の【アルカトオス】とて、今後きっと合流するであろう搭乗者の力になってくれる。そう考えれば、決してマイナスにはならないのだ。




 戦わなきゃならない敵と、今後集まってくる予定だという味方……戦力差がどれほどのものになるのか、正直わたしには予想がつかない。


 けれど、この【パンタスマ】の性能ちからがあれば。ちゃんと戦う力を手に入れた、戦うことに最適化されたわたしならば。

 きっと、大佐の望む成果を出して……恩返しすることが出来るのだ。



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