第6話 パニック!パニック!パニック!みんなが死んでいる!
夜中、俺は、東京と埼玉を繋ぐ道路の端に路駐した。
都心近くのサービスエリアのような人がいそうな場所は避けるべきだろう。確実にゾンビがいるだろうからな。
そんな訳で、自然あふれる一本道に車を停めたのだ。
そして、ドアにロックをかけて、俺はトレーラーに設置されたダブルベッドで寝る……。
酒は……、やめておくか。
嗜好品は「メンタル」のステータスが回復するが、デメリットが多いからな。
歯を磨いてから口を濯ぎ、枕元にハンドガンを忍ばせて、それからアラームの罠も……。
……起きた。
朝から体調はバツグン。
そろそろ三十歳にもなろうかという年頃なのに、髪も太く、徹夜も平気で、寝るとスッキリ疲れが抜ける。下半身の勃ちも凄まじい。
その辺はやはり、ステータスによるものだろう。
俺には、ステータスに「健康度」というものが見えるのだが、俺はそれが常に1000%だ。
他の人を見た感じ、この健康度は体調と加齢によって減るらしく、子供なら基本100%で、高校生くらいまでなら90%くらい。
しかし、三十代くらいになってくると70%あれば良いもので、五十代くらいだと55%程度。
病院で見た死にかけの老人なんかは10%もなく、寿命が尽きると健康度も0%になっていた。
要するに健康度は、単純に肉体のコンディションの指標なだけではなく、残りの寿命を示すものでもあるっぽい。
ゲーム的に言えば、体力(HP)の最大値に掛けられる係数ってところか。戦闘以外にも、栄養不足や病気でじわじわと体力を失うのが、俺の思うポストアポカリプスだったから、そういう設定にしてあるのだ。
そして俺は、健康度を上げる方法を知っている。ゲーム知識とコンソールの能力でな。
……こんな世界で長生きしてどーすんの?って言われたら閉口するしかねえけども。
まあなんだ、とにかく、体調は最高にノっているので、体力不足や病気で死ぬことはないだろう。
よし、じゃあ早速、北に行こうか。
首都高に乗って、北へ。
都心から離れたとは言え、都市部の方はやっぱ多いな。
ゾンビが多くなったので少し引き返しつつ、細い道路から都市部を避けて秩父の方に行ってみることに。
どうせやることはないんだ、終わった世界を楽しくドライブしようぜ!
思えばそう……、今の俺は、ゾンビサバイバルになることを見越してずっと生きてきた。
だけど、こうして、実際にそうなると……。
マジで何も思い浮かばない。
手段が目的と化していたのだ。
無論、それはそれで楽しかった。
医者になるための勉強も、学べば学ぶだけ身につくので楽しいし、身体を鍛えて大きくなるのもいい。
こんなバカみたいなトレーラーを秘密裏に作ったり、高い金払って海外から防弾ガラスを輸入してみたりするのも面白かった……。
しかし、今。
俺には何の目的も目標もなかった。
今時のオープンワールドゲームだって、もうちょっと指示出ししてくれるぞ?ってくらいに、スペックに反して目的がないのだ。
人間、何でもできると、かえって何をやって良いかわかんなくなるよね!
強いて言えば……、ああ、そうだな。
まず、技能習得とアイテムIDガチャはライフワークなので良いとして……、女だな!
一人きりで生活をしていたとしても、特に気が狂うとかそんなことはなさそうだが、やはり生活に潤いは欲しい!
なあに、治安どころか何もかもが崩壊してるんだ、JKとかと致しても、もう逮捕してくる警察もいねえぜ!
それを言やぁ、今世の青春はマジで死んでたからな!
前世ではちゃんと恋人いたりしたんだが、今世ではステータス上げに全てをかけていたから、マジで何もやってない!
今世は童貞だよ!
それはあまりにも寂しい……寂し過ぎる……。
よし!とりあえず、童貞を捨てることをメインにやっていこうじゃないか!!!
どうすっかな……、やっぱりこう、アレだよな。
美少女と劇的な出会いがあったりするよな!
……現実では自分から行動して努力しなきゃ、彼女どころか友達すらできないんだがな。
今はもう、現実じゃないような世界だ。
力さえあればそれで良いだろうよ。
女は金持ってる男に股を開くもんだが、金なんてケツを拭く紙にもなりゃしねえ今のこの世界ならどうなの、ってなもんよ!ワハハハハ!
さあて、女女〜っと……。
んー、でも、自衛隊とかには今のところは関わりたくないな。
あいつら、武器持ってるからな。
今の俺は、ゾンビに噛まれても死にゃしないし、小口径のピストルくらいなら数十発くらいもらっても多分死なない。ステータス的にな。
けど流石に、自衛隊が持つ戦闘用のライフルは喰らったらちょっとヤバいし、車載兵器のブローニング機関銃なんて喰らえば普通に死ぬだろう。
死ぬのはごめんだ。
だから狙い目は、強過ぎるコミュニティは避けて通ることだな!女を手に入れるなら、やっぱり立場が低い奴を捕まえなきゃ駄目だ。自衛隊の庇護下にあるコミュニティから誘拐なんてのは無理。
孤立している女とかを見つけられると良いんだが……。
そうだ、折角なら話が通じそうなコミュニティと取引とかもしてみようか。
秩父は田舎だし、畑とかあるだろうからな。
秩父って何があるんだ?蕎麦とかか?
……そんなことを考えながら、田舎道をいく。
景色は、東京のゴミゴミした人混み(ゾンビだが)と都会の喧騒から離れて、良い感じの田舎になってきた。
あ、ガチ田舎の出身者としての意見だが、田舎はクソだぞ。都会人共が思い浮かべる「良い感じの田舎」は、我々田舎人からすると田舎って言わねーのよ。田舎舐めんな。
んで、秩父のこの辺りは、良い感じの田舎だな!
住みやすそうな良い街だ。都心から離れているからか、ゾンビ騒ぎもない感じ。
残念ながら、人は出歩いておらず、閑散としているがな。
いや、でも、建物の中に人の気配はあるな。
適当に路駐して、その辺の家のチャイムを鳴らす。
……あ、いや、ダメだなこれ。
電気止まってるわ。
そうか、もう止まったのか。文明の光が消えて、終わりの始まりってところかね。
とりあえず、ドアを叩く。
「すんませーん!誰かいませんかー?!」
お、足音。
扉の向こうから声が聞こえる……。
『消えろ!オメエさんも、都会から来た化け物なんだろう?!』
あっ……。
……そりゃそうか。
田舎だもんな。
閉鎖的にもなるか。
特に、ニュースでキャスターがゾンビにバリバリ食われているシーンが全国のお茶の間にお届けされた訳で。
そりゃあ、こうもなるか。
んー……。
「俺はゾンビじゃないぞ」
『うるせえ!消えろ!』
「ここに籠るだけじゃ何も解決しないだろ?」
『……消えろ!』
「んじゃあ、表にある畑から、野菜でももらっていって良いか?外に出るつもりはないんだろ」
『そんなことしたら許さねえぞ!!!』
うーん、無理っぽいなこりゃ。
とっとと出ていこう。
……おや?
東京ナンバーの車だ。
……あの運転手のおっさん、噛まれてんな?
そんなおっさんは、飢えと渇きに苦しんでいたらしく、頬がこけて目が窪み、しかし瞳だけがギラついている。
そんなおっさんが、その辺の畑から野菜を盗み、生のままバリバリ食べ始めた。
で、それを咎めたこの街の人が出てくるも……、ああ、おっさんがゾンビになった!感染してたんだ!
おっさんが、街の人に噛みついて……。
パンデミックの始まりだ。
あちゃあ、この街も終わりか。
逃げよう。
俺は車に乗り込んだ。
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