第4話 人界に生きる悪魔

 私とマダムは夜の街を歩いている。帰りに車を使わないのは「少し腹ごなしをしましょう」とマダムが提案したからだ。二時間ほど歩く事になるが、私としても問題はない。


「この辺り。特に悪想念が強いわね」

「欲望が渦巻く魔の都ですから」

「そうね。私たちは食べ物に困らないし」

「確かにそうですが、これはやはり、私たちを野放しにしている神の思う壺なのでは?」

「そうかもしれませんわね。でも、両者の利害は一致しているから問題はないと思いますよ」

「利害が一致ですか」

「そうね。今夜はリリィちゃんも私も、結構な悪者をやっつけたじゃない。神様も喜んでいるわよ」

「喜んでる?」

「そうです」


 力強く肯定するマダムだった。

 歩きながらマダムが話した内容は驚嘆すべき内容だった。マダムが相手をした仁科はコロナウィルスの変異株対応ワクチンを日本政府に売り込む仕事をしていたらしい。しかし、その変異株を自社で製造し、同時にワクチンも製造していたのだ。そもそも、パンデミックの元となったコロナウイルスを改造して強力な伝染力を持たせたのが同社で、その為の研究が米国内では違法だったため、中国国内の研究所で行っていたのだという。それが漏れて世界中に広がったのだ。


「もうね、アイツら全員地獄行きでもおかしくないわ。近所にいたら片っ端から食い漁ってやりたいくらい真っ黒なの」

「なるほど。人類の闇って事で」

「ええ。深い深い闇。神様も大変でしょうね」


 クスリと笑うマダム・エリーナ。しかし、神の心配など全くしていない。むしろ、この混とんとした状況を歓迎しているのは間違いない。


 私たちは悪魔と呼ばれる人外の存在。しかし神は、私たちの存在を許している。それは、神に背く背徳の精神を好んで食するからだという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いただき女子のリリィちゃん。 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ