第7話 ズレてるところも魅力


 僕はエルシアを連れて、都内の防具屋まで来ていた。


 ここは、レザーアーマーとかラウンドシールドとか一般的な装備品だけじゃなく、ワンピースや吊りズボン等、普通の服なんかも一緒に売られているんだ。


 店主は寡黙なおっちゃんで、入ってきた僕たちに軽く会釈してくれた。


「エルシア、好きなメイド服を買っていいよ」


「本当に?」


「うん」


「やった!」


 エルシアがウキウキでメイド服を選び始めた。彼女がどんなのを選んでくるのか楽しみだ。


 ……お、もう決めたみたいで戻ってきた。


「ピッケル、あたい、これがいい!」


「こ、これは……」


 エルシアが持ってきたのは、猫の尻尾、猫耳のカチューシャ、フリルとエプロンのついたドレスという、猫耳メイド服セット一式だった。


 いや、それはいいんだけど、みんな薄汚れているだけでなく、所々破けてしまっていた。


「そんなんでいいの?」


「うん! あたいにはぴったり。ボロでも、あとで直せば使えるから」


「……」


 僕はエルシアの言葉に感動していた。やっぱり彼女を選んで正解だった。


「旦那、そんなもんでいいんですかい……?」


「うん。いくら?」


「30ギルスでやんす」


「じゃあ、これ。100ギルス。お釣りはいらないよ」


「ぬぉっ……⁉ ま、まいどあり!」


「ピッケル⁉ そんな、勿体ないよ!」


「大丈夫、エルシア。この服にはそれくらいの価値があるから」


「え……」


 僕は店を出たあと、時間を戻す回復術でメイド服を新品同然にしてみせた。


「ふう。こんなもんでいいかな」


「……す、凄い……ピッケルって魔法使い……⁉」


「回復術師だよ」


「へえぇ……」


 エルシアがピカピカのメイド服を着て、びっくりしている。よく似合ってるなあ。僕はそのあと雑貨屋でホウキや芝刈り用の鎌、調理用の包丁や食器あたりの生活用品も購入し、屋敷へと向かった。


「ひゃあ……こ、ここがピッケルの家……⁉」


「うん。っていうか、僕とエルシアの家だよ」


「……あ、あたいの家……? 凄いや。広すぎだよ……」


 エルシアが豪邸を見て声を震わせてる。まさに借りてきた猫耳メイド状態だ。


「お、お邪魔しまふ……!」


 メイドの畏まった発言に僕は思わずクスっとなる。そりゃそうなるよなあって。所有者の僕でさえそうだったんだから。


 この豪邸は三階建てで、どの階も広くて個室も多いので、どれでもエルシアの部屋にしてもいいって言うと、彼女はしばらく硬直してしまっていた。


「あ、あたい……嬉しすぎて目が回っちゃうよ……」


「うんうん。僕もエルシアが来てくれて凄く嬉しいから」


「えぇ? ピッケル、それって、ほんと……?」


「本当だよ。エルフでしかも猫耳メイドとか、よく考えたら超欲張りセットだからね」


「ピ、ピッケルって、凄く欲張りなんだ……!」


「……」


 多分、僕の真意はあんまり伝わってない。


「じゃ、じゃあ、ピッケルのために、あたい一肌脱ごうかな……」


「い、いや、そこまでしなくても大丈夫だから……!」


 それは危ない。早速主従の腕輪が発動してしまう。


「そ、それより、エルシア。この家の管理――掃除とか家事とかをしっかりこなしてくれたら、それだけで十分だよ」


「うん。あたい、頑張る……!」


 エルシアはとても物分かりのいい子だ。


 マイペースといっても、それは決して自分勝手なんかじゃなく、彼女の行動にちょっと癖があって、他の子と違うように見えただけなんだろう。


「――それえええぇぇっ!」


「……」


 結論から言うと、僕の予想は当たっていた。いや、当たりすぎていたと言うべきか。


 その形容は大袈裟じゃないくらい、エルシアはその小柄な体を生かしてあちらこちら動き回り、屋敷内を掃除してくれたし、料理だって猛勉強して美味しいものを作ってくれた。


 ただ、皿洗いとか洗濯とか、そういうものに関しては僕が回復術で手伝ったけどね。


 それと、何より驚いたのが、エルシアが目を輝かせて沈みゆく夕陽を指差したことだった。


「ねえねえ、ピッケル、見て。夕陽っ!」


「え……夕陽が珍しいの?」


「うん。あたい、人間不信でずっと施設に引きこもってたでしょ。窓はあったけど、脱走できないように高いところにあったから見られなかったの」


「な、なるほど……」


 よーし、それならなんとかしてやろうってことで、僕はを行使した。


「あれれ? 今日の夕陽、なんだかいつもより長持ちしてる……」


「ぜぇ、ぜぇ……」


「ピッケル? 何かしたの?」


「あ、うん。僕らだけ時間の進み具合をゆっくりにしてみせたんだ」


「ふえぇっ⁉ それも回復術なの……⁉」


「うん。ちょっと……っていうか、普通の回復術と違って、さらに疲れるけどね……って、そうは言ってもただの回復術なんだからそんなに驚かなくても……」


「ほぇ……」


 エルシアがぽかんとしてる。ほんっと、この子はズレてるなあ。そういうところも可愛いんだけど……。

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