第1話 出会い
「さぁ、嬢ちゃん怖がらねぇでオレ達といいことしようぜぇ」
目の前には人相の悪い、世紀末じみた格好をした屈強な男二人が、舌舐めずりをしながらこちらに向かってくる。
体格差や人数でも負けているのに、相手は片やハンマー、片や斧を持っている。しかし、こちらには武器は無いので勝てるはずもない。
比奈乃は後ろを見る。ところが、後ろは行き止まりで他に逃げ道は無かった。
男たちは比奈乃の肢体を舐めわすように見た後、顔を見合わせて下品な笑い声を上げた。
「嬢ちゃんいいカラダしてんねぇ。特に胸が俺好みだ」
「財宝探しに来てみれば、こんなところで女と出くわすとは俺達もツイてるなぁ」
男たちは欲望に満ちた目で比奈乃の豊満な胸を見つめる。
彼らは比奈乃に対してジリジリと距離を詰めてくる。
「あ、あなた達! こ、こんなことをしたらギルドがゆ、許しませんよ!」
比奈乃は動揺を悟られないように話そうとするが、どうしても恐怖で声が震えてしまう。
その様子を見て、男たちは再び顔を見合わせ、腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハハハハハハッ。はぁ……息が苦しい。嬢ちゃん面白いこと言うなぁ!」
「そうだぜ。ここがどこだか分かるか? ダンジョンだぞぉ? 誰も助けなんて来ねぇよ」
「それに嬢ちゃんは生かして帰すつもりはねぇよ。ギルドにバレたらオレ達はお縄になっちまう。俺達とたっぷり楽しんだ後、嬢ちゃんは魔物の腹の中で眠ってもらうぜ」
どうやら男たちは、比奈乃を生きて解放するつもりは毛頭ないようだった。
「先に殺してからおっぱじめるか?」
「それもいいが、生きてるほうが楽しめる。始める前に少し痛めつけることになるが、殺すのは最後にしよう」
「だな」
相談が終わった男たちは、比奈乃に向き直って歩き出した。
あまりの恐怖に比奈乃は目を閉じる。
私はまだこんなところで死ぬわけにもいかない。まだ16なのに、こんなところで暴漢に襲われて死ぬなんて嫌だ。
それに、まだ夢も叶えていないし、あの子も探し出していない。
目を開け、ポケットに手を突っ込む。ポケットの中にはここに来る前に護身用にと持ってきた折りたたみのナイフが入っていた。
これを使えば、あの男達を撃退することが出来るかもしれない。
まだ希望を失ったわけじゃない。
望みは薄いが、それでも可能性に縋らないわけにはいかなかった。
比奈乃は男たちをキッと睨みつけ、意を決してポケットから折りたたみナイフを取り出そうとした。
――が、そのとき男たちの後方から声がした。
「女1人に野郎ども2人でよってかかって虚しくないの?」
声のした方には、比奈乃と同じくらいの背格好の黒髪の少年が立っていた。見たところ歳は比奈乃と同じくらいで顔は童顔、右目は髪の毛に隠れて見えなかった。
少年は黒のシャツの上からベストを羽織っており、その両手には刀身が赤と青一対ずつのナイフ状の武器が握られていた。
男たちは思わぬ来訪者の出現に驚いていたようだが、2人ともまたすぐにニヤニヤとした気色の悪い笑みを浮かべ、ハンマーを持った男は少年の方に歩き出す。だが、少年は動じず、男たちを冷ややかな目で見つめるのみだった。
「誰かと思えばこんなチビが助っ人とはな。俺達は今忙しいんだ。ヒーロごっこは家に帰ってママと一緒にやりまちょーねー」
「坊主も一緒にあのお嬢ちゃんで遊ぶか? よく見るとお前女みたいなかわいい顔してるな。お前も――」
ハンマー持ちの男が少年に触れようとした瞬間、少年の回し蹴りが男の顔面にクリーンヒットした。
蹴りをモロに食らった男は、勢いよく横の壁まで吹き飛び、白目を剥きながら泡を吹いてそのまま地面に倒れた。
「何すんだテメェ!?」
片割れの男は斧を手に持ち、少年に向かって走り出す。
そして斧を思い切り少年に振りかざすが、少年は軽々とそれを回避する。
少年はそのまま後ろに下がり、右手に持っていた青色のナイフを男目掛けて投擲する。
だが、男はすんでのところでそれを回避し、ナイフは天井に刺さった。
「ハハッ、馬鹿め! どこ目掛けて投げて――」
男が言い終わる前に、少年は姿を消した。
「消えただと!? 一体どこへ行った!?」
男は少年から片時も目を離していなかった。それなのにもかかわらず、少年はその場にいなかった。男は気配を感じ、天井の方を向く。
すると、そこには重力に引かれて頭から落下する少年の姿があった。
比奈乃には少年がまるで天井まで瞬間移動したかのように見えた。
少年と男の目が合う。少年は射殺すような冷徹な目で男を見つめていた。
少年はそのまま空中で1回転し、男の脳天に強烈な蹴りを食らわせる。
男は一瞬で気を失い、鼻と口から血を吐いてそのまま気絶した。
少年はそのまま綺麗に着地し、何事もなかったように服についたホコリを手で払いのける。
緊張が溶けたのか、比奈乃はその場に尻もちを付き、信じられないと言った形相で少年を見る。
少年は比奈乃を一瞥した後、比奈乃の方に向かって歩きしゃがんで、尻もちを着いている比奈乃と視線を合わせてから手を差しのべた。
「アンタ大丈夫? てか、なんでこんな物騒なところにいるわけ?」
少年は不思議そうな顔で比奈乃の方を見る。
「あなたは……だれなの?」
「…………オレ? オレはリオ――
これがリオと比奈乃の出会いだった。
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