第14話 調子に乗っている

 ヴィオラさんの勝負しょうぶ開始かいし合図あいずともに、アランは速攻そっこうで、僕のほうへ走り出した。

 かまえた木刀ぼくとうげ、そして――


「――くらいやがれっ!」


 僕のあたまの上に、木刀が接近せっきんしてくる。


 ――いきなりだな……。


 反射神経はんしゃしんけい皆無かいむである僕は、その木刀の攻撃こうげきちょくけた。


 アランの木刀と、僕の脳天のうてんがぶつかった瞬間しゅんかん衝撃波しょうげきはまれ、すなちゅうう。

 いつのにか、とお場所ばしょはなれていたヴィオラさんがほそめていた。


「今まで、俺の攻撃をまともに受けて、無事ぶじだったものは一人もいないんだなぁ……」


 と、台詞ぜりふじみた言葉ことばをはいてくるアランだが、僕はそんな彼に向かって、言葉をはっした。


「無事ですが……」


 アランは、半眼はんがんで言葉をかえす。


「……うそつけ」

無傷むきずですが……」

「……嘘つけ」

いたみも無いのですが……」

「…………お前には、重度じゅうど虚言癖きょげんへきがあるようだな」


 真実しんじつを言っただけなのに、重度の虚言癖あつかいをされる僕だった。

 アランは、木刀をかたせ、


「強がったところで、結果は変わらないんだよ!」


 とか言ってくるが、別に僕は強がってなどいない。本当に、ノーダメージなのだ。

 彼の勘違かんちがいこそ、重度のものだと感じるのだが……。

 僕は、アランに言った。


「今の攻撃は、その……」

「なんだ?」

「……全力ぜんりょくなのですか?」

「お前は、何が言いたい?」

「今のが全力だったら、拍子抜ひょうしぬけだったなと」

「――はあ!?」


 僕のやす挑発ちょうはつに、簡単かんたんに乗ってくれる騎士様きしさまである。

 挑発というか、何というか……ただの本音ほんねなのだが。

 アランは、血管けっかんがブチれたかのような表情ひょうじょうとなった。


調子ちょうしるのも、ほどほどにしておけよ! この小僧こぞうがっ!」

「……調子に乗っているのは、あなたでは?」

「それは……どういうことだ?」


 かおこわくしてくるアランだが、僕からすれば怖いとは一ミリも感じられない。

 僕は、口を開けた。


「自分の位置いち利用りようして、部下ぶかを自分の道具どうぐかのように使つかって、命令めいれいの言葉はあってもおれいの言葉がない……。そんなあなたは、十分じゅうぶんに調子に乗っていると思うのですが……」

「……俺は、調子に乗っても良い。えらばれし騎士きしだから、問題もんだいいんだ」

「…………」


 僕は、思った。

 このくには、大丈夫だいじょうぶなのだろうか?


 こんな威張いばることしかがなさそうな人間にんげんが、上に立っている……。

 人選じんせんをミスっているとしか、思えない話なのだった。


「だいたい、俺はその方法ほうほうにはっかからないからな」

「……何の話ですか?」

「とぼけるな。お前は今、あえて俺に話をっかけているんだろう? さっき受けたダメージを回復かいふくするための、時間稼じかんかせぎとしてな……!」

「…………」


 ここまでると、そのゆたかな想像力そうぞうりょくは、もはや賞賛しょうさんあたいするものだった。


図星ずぼしだったか?」

「もう、そういうことで良いです」

「やはり図星だったのか」


 話がつうじないことにも、れてきた自分がいる。

 本当に、どうやって騎士までのぼめたんだ? このアランというおとこは。

 そっちの方が気になるのだった。


残念ざんねんだが、ソネ。お前は、これでわりのようだな……」


 そう言い、木刀を真上まうえ垂直すいちょくばすアラン。

 よく見ると、木刀にひかりあつまっていた。

 まるで、発光はっこうするペンライトのように。

 木刀がひかかがやいている。


 アランは、ニヤリとみをかべていた。


わるいが、さっきの俺の攻撃は、たしかに全力じゃない。今からつ攻撃こそが、俺の全力なのだ」

「まあ……最初さいしょの攻撃が全力だったら、あまりに弱すぎますしね」

「まだ、ふざけていられるか! 死ねっ!」


 そうして、アランの全力の一撃いちげきが、僕の脳天を目掛めがけてろされる。


「――くらえええぇっ!!」


 攻撃が、僕の頭に直撃ちょくげきした。

 僕は――


「くくくっ……俺に歯向はむかうやつが悪い……――って、んんっ??」


 僕は、まったくの無傷であった。


「ど、どういうことだ!? 俺は今、この小僧に全力の一撃をたたれたはず……っ!」

「…………」

「――っ! っ! もしや、幽霊ゆうれいか!?」

ちがいます」


 もう医者いしゃてもらった方が良いレベルなのでは無いだろうか?


かりに、コイツが幽霊でないのだとすれば……」

「仮じゃなくて、ガチですけど……」

「こ、こいつは、何者なにものなんだ!?」

「…………」


 僕は、言った。


「ただの、睡眠すいみんきです」


 そして、今から僕の攻撃が開始かいしされる。

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