第13話 対戦前

 僕は更衣室こういしつで、ヴィオラさんよりわたされた防具ぼうぐへ、着替きがえる。

 彼女の言葉を、思い出した。


『こちらの防具は、くに所属しょぞくする兵士へいし戦闘時せんとうじ着用ちゃくようする、高品質こうひんしつの防具となります。こちらをにまとうだけで、防御力ぼうぎょりょくが1500もアップすることが、実戦じっせんにて証明しょうめいされています』


「…………」


 僕は、かがみ自身じしん姿すがた確認かくにんした。

 黒髪くろかみで、だるげな目が特徴的とくちょうてきな、しかし平凡へいぼん男子高校生だんしこうこうせいである。

 現在げんざいは、見るからにガチガチな鋼鉄こうてつよろいを身につけていた。

 うん、われながら違和感いわかんしかない。

 それに、だ。


「これをたとしても、防御ぼうぎょは1500しかアップしないのか……」


 この国の住民じゅうみんからすれば、あおりとしか受け取れない言葉だろうが、それが僕の正直しょうじき感想かんそうなのだった。


 何せ、1分の睡眠すいみんにつき、ぜんステータスが3000上昇じょうしょうするスキルを持っているのだ。

 防御力も、当然とうぜんその対象たいしょうふくまれる。

 1500など、微々びびたる数字すうじとしか感じ取れなかった。


「まあ、着用しろと言われたから、とりあえず着用はするが……」


 やはり、高校こうこう制服せいふくほうがしっくりるものだなと思った。


 派手はで格好かっこうは、おそらく僕とは親和性しんわせいうすい。

 このようなゴツイ防具は、身にまとっているだけで、居心地いごこちわるいのだ。


 僕は、更衣室を退室たいしつし、アランとの勝負しょうぶ舞台ぶたいに足を乗せる。

 円周状えんしゅうじょうに広がる、野球やきゅうドームを彷彿ほうふつとさせるかたち場所ばしょだった。

 戦闘せんとうエリアは、サラサラしつすなしかなく、ギミックとうは何も無さそうである。

 周囲しゅうい見渡みわたせば、観戦席かんせんせきがたくさん設置せっちされていた。

 何かのもよおしがあるさいは、ここに多数たすう人間にんげんあつまるであろうことが、容易ようい想像そうぞうできる。


「おや? げずにれたようだな」


 真正面まっしょうめんにいる、騎士きしアランがそう言ってきた。


 ――ん?


 よく見ると、彼の着用している防具は、僕とはことなるものだった。

 何といえばいいか……メッキの本物感ほんものかんが、アランの着ているものにはあって、僕のには無い。

 彼の防具の方が、機能性きのうせいすぐれていそうな見た目をしていた。


「どうしたんだ? 人の防具をうらやましそうに見つめやがってよ」

「羨ましいとは思っていませんが、僕の受け取った防具より、品質ひんしつさそうだなと思いまして」

「そうか。おまえには分かったか。この俺専用せんようの、スーパー防具の魅力みりょくが!」


 スーパー防具という、絶妙ぜつみょうなネーミングセンスの呼称こしょうはさておいてだ。

 やはり――と、ドヤがお披露ひろうしているアランを目にして、思った。

 防具は、あちらの方が良いものを使っているんだな。

 騎士きしアラン……小物感こものかんつよさは相変あいかわらずだった。


「ちなみにだが……」


 とアランが、口を開ける。


「何ですか?」

「この俺様おれさまの防具は、防御力2000にひとしいかたさをほこっている」

「防御力2000……?」

「ああ、今頃いまごろビビってもおそいぞ」

「ビビっているというか、その……」

「何だ?」

「その防具、いらなくないですか?」


 ――瞬間しゅんかん

 アランは、顔をゆがませた。


「どういうことだ? 小僧こぞう

「だって、防御力2000って、ひかえめに言って


 僕がそう言うと、観戦席にいたアランの部下ぶかたちが一斉いっせいに声を上げた。


「防御力2000が、しょぼいだと!?」

爆弾発言ばくだんはつげんだ……!」

「防御力400の俺は、いったい何なんだ? むしけらか!? あるいは、それ以下いかか!?」


 と、様々さまざま反応はんのうをいただき、僕は今更いまさら反省はんせいをした。


 ――自分基準じぶんきじゅんで、物事ものごと価値観かちかんかたるのは良くないな……。色々いろいろな人に失礼しつれいだ。今後こんごをつけよう。


 その防具いらなくないですか? と言ったとう本人ほんにんが、それよりも低品質ていひんしつの防具を着用しているし。

 まあ、着用させられている――というのが、正確せいかく表現ひょうげんなのだが。


「お前のふざけた口、ふうめてやる……!」


 そして、アランのいかりのほのおは、ごうごうとがっていたのだった。


「……ナオキさま


 そうこえけてきたのは、みじかりそろえられた茶髪ちゃぱつに、黒縁眼鏡くろぶちめがね印象的いんしょうてきなヴィオラさんである。


「こちら、今からの勝負で使用可能しようかのう木刀ぼくとうでございます」


 そう言って、彼女は木製もくせいかたなを僕に手渡てわたす。


「ありがとうございます」


 彼女は、アランにもおなじものを手渡した。

 ヴィオラさんは、僕とアランのあいだ位置いちする場所に立ち、言葉を口にする。


「勝負のルールになりますが……」

「はい」

単純明快たんじゅんめいかい。何でもありの、どちらかがたおれるか、もしくは降参こうさん意思いししめすまで、戦闘を続ける実戦形式じっせんけいしきの勝負となります。なお、私の方でこれ以上の戦闘が危険きけんであると判断はんだんした場合には、勝負を中断ちゅうだんし、その両者りょうしゃ状態じょうたい比較ひかくして、勝敗をジャッジさせていただきます。勝負は、一試合いちしあいのみとなります。何か、ご質問しつもんはありますか?」

ころしてもかまわないか?」

「ダメです」

「殺してしまわないように努力どりょくします」

確実かくじつに努力してください」


 アランは、木刀を構えていた。

 ヴィオラさんが、言う。


「では、勝負――はじめっ!」

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