第8話 魔法

 とんでもないスキルによる、驚愕的きょうがくてきなステータス強化きょうか判明はんめいしたその


 サラさんに――住民登録じゅうみんとうろくさい異世界人いせかいじんのみが必要ひつようとなる、くに直属ちょくぞく騎士きしとの顔合かおあわせ――をおこな申請しんせいをしてもらい、僕はその日も彼女の家で、寝泊ねとまりすることとなった。


 サラさんたくにて。

 よるごはんを食べながら、サラさんが口を開ける。


「おそらくですが、明日あすにでも国から、ナオキさんを王宮おうきゅうまでれてくよう、命令めいれいりてくると思います」

「それは……僕と騎士との顔合わせのためにですか?」

「はい。申請を行う際には、申請書しんせいしょ住民登録書じゅうみんとうろくしょ提出ていしゅついたしますので。今頃いまごろ、それらの書類しょるいはこんだ伝書鳩でんしょばとが王宮に到着とうちゃくしているところだと思います。住民登録書には、ナオキさんのヤバいステータスが表記ひょうきされているわけですから、その用紙ようしを手にした秘書官ひしょかんかたがちょうど今くらいにさわてながら、王族おうぞくだれかにナオキさんのことを報告ほうこくし、事情じじょうを耳に入れたその王族の誰かが直属の騎士に対して、緊急きんきゅうでナオキさんと顔合わせを計画するように指示しじしている光景こうけいが、ありありとかびます」

「なるほどですね……僕、もしかしてえらひとから目をつけられるパターンですかね?」

「そのパターンですね」

「ですよね」


 何か、面倒めんどう展開てんかいけている気がしてならないのだった。

 これは、ためいきがつきたくなる気分きぶんだ。

 僕は夜ごはんを食べ終わり、椅子いすから立ち上がって、木製もくせいスプーンと木皿きざら台所だいどころの上に置く。


「サラさんは、もうお風呂ふろに入られていましたよね?」

「ええ。帰ったらまずはお風呂、という習慣しゅうかんがあるものでして」

「自分。今から、入浴にゅうよくしようと思いますので、浴室よくしつをおりしますね」

「分かりました。いだふくは、昨日きのう同様どうように浴室の前に設置せっちしてある、かごの中に入れていてください。あとで私が、魔法まほうを使って洗濯せんたくしておきますので」

「分かりました……」


 …………

 僕は、サラさんに聞いた。


「その、魔法を使った洗濯って、僕にも出来できるものなのでしょうか?」

残念ざんねんながら、出来ないと思います。魔法を自由自在じゆうじざいあやつるには、コツというものをつか必要ひつようがありまして。一朝一夕いっちょういっせきでは、につけられない技術ぎじゅつなんです」

「そうなんですね……」

「はい。だからなのでしょうけど、異世界人にはあまり人気にんきが無いんですよね、魔法。あかちゃんが歩き方を覚えるまでに時間がかかるのと同じで、魔法を使うのにもまた、相応そうおうの時間が必要になるんです。それこそ、歩き方とはにならないほど知識ちしき経験けいけんむ時間が」

「なるほど……ちなみに、ステータスに魔法という項目こうもくがありますが、あれは?」

「ステータスじょう記載きさいされている魔法のあたいは、一度に使える魔法の規模きぼよう魔力まりょくしているんです。魔法のステータスが10しか無いのであれば小さなともすレベルの魔法しか使えませんし、ぎゃくに100もあれば中型火球魔法ちゅうがたかきゅうまほうを何の弊害へいがいもなくはなてれるレベルの魔法が使えるようになります」

やく180まんだと、どれくらいのものが予測よそくできますかね?」

「まず手加減てかげんしないと、死人しにんが出るのは確定かくていですね」

使つかかたには、十分じゅうぶんをつけます」

懸命けんめい判断はんだんです」

「でも……」


 僕は、言った。


「ステータス上で魔法の数値すうちが大きいとしても、使いたい魔法や上級じょうきゅう魔法が練習れんしゅうしに使えるわけではない……ということなんですよね。さっきのサラさんの話は」

「そのとおりです。魔法は、才能さいのうやテクニックが必要となる、難易度なんいどの高い分野ぶんやになりますので」

「すると、僕が魔法を駆使くしして、サラさんみたいに衣類いるいの洗濯ができるのぞみも、しばらくはうすいということでしょうか?」

「異世界人は、みんなそうですよ。逆に、私たちイソニアじんが異世界人にたいして、むねれる要素ようそは、そこしか無いんですけどね」

「…………」


 ステータスがいくらものでも、力を使いこなせなければ意味が無いよな。

 今のところ、異世界に行って何をやろうとか、考えてはいないが……。


 おそらく、簡単かんたんには地球ちきゅうへの帰還きかんかなわない。

 かえ手段しゅだんがそもそも無いのかもしれない。

 だったら、僕は一生いっしょう異世界で、生活せいかつをすることとなる。


 自身じしんの右手を見た。

 せっかく手に入れた力……。

 この力が、たからぐされとならないためにも、うでみがくことは一つの生き方なのかもしれない。


 サラさんが、言葉をはっする。


「しかし、ナオキさんのあのステータスを思い出すと……」


 僕は、首をかしげた。


「何でしょうか?」

「私は、すごい人をひろったんだなと」

「……やっぱり、あのスキルは異常いじょうですか?」

「まあ、異常いじょうえた異常いじょうですよね」

「異常を超えた異常……」


 何だか、パワーワードなのだった。

 まあ、そう表現ひょうげんしたくなるくらいに、僕の所持しょじする睡眠強化すいみんきょうかというスキルが常軌じょうきいっしている、という事なのだろう。


今日きょうは、私もはやようかな、なんて考えています」

「それは……たいへん素晴すばらしいことだと思います」

「こんな衝撃しょうげきあたえられた日まで、仕事しごとなんてしてられませんからね」


 ……それも、そうかもしれない。


「ナオキさんは、寝てる最中さいちゅう、もっと強くなるわけですね」

「……確かに、そうなりますね」


 寝るだけで、強くなる……。

 女神めがみフィロのえがかれた壁画へきがを見ながら、僕は思った。


 かりにあの女神めがみがこの存在そんざいするというならば、神様かみさまは人を平等びょうどうに見ていないだろうな――と。


 じゃないと、僕にだけこんな段違だんちがいなスキルは、与えないはずだ。

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