ヒロイン役

学生作家志望

ヒロインになんてなれるわけない

廊下の角にある厚いドア、いつもの音楽室。こんなに厚いドアがあるのに、あの子のピアノの音は廊下いっぱいに響いちゃうから意味がない。


まあ私からしたらそれが毎日の癒しなんだけどね…!


私が音楽室の冷たいドアに耳を何度も擦るように当てていると、すぐ近くの階段から足音が聞こえた。


誰か来る…!


音楽室の分厚いドアに耳を当てているところなんて誰かに見られたらたまったもんじゃない。私の学校生活と共に色々砕け散って終わっちゃうよ。


いよいよ足跡が近づいてきて私は何事もなかったように廊下を歩いて階段へと向かった。


廊下の角だから隠れ場所がなかった。私は平然を装い廊下をゆっくりと歩き出した。



足音の正体はすぐにわかった。階段を登ってきていたのは1年後輩の女子生徒だ。学年ごとに色の違うスニーカー、彼女は2年生の赤色を履いていた。


「通り過ぎたしそろそろいいよね、」そう思って再び廊下の角へと戻った時だった。音楽室のドアが少し開いていて中でピアノを弾くあの子が見えたのだ。


変だな、こんなにピアノの音が廊下に響くなんて。あの厚いドアはいつもピアノの音量を極小にして廊下に聞こえないように邪魔をする。


だから私はいつも耳を当ててるの。あの子の演奏が好きで、あの子が好きで。


私の中にいっぱい響くその音を私はいつの間にか廊下に響く音だと勘違いをしていたみたい。


私は再び音楽室の冷たいドアに耳を当ててそのピアノの音を聞こうとした。だが、聞こえてきたのはピアノの音じゃなかった。


聞こえたのはあの子の声と女の子の声だった。


「ねえねえ何弾いてたの?」


「夏の曲!綺麗でしょ?」


「うん!もっと弾いて弾いて!」


「芽依のためだったらいくらでも弾くよ!」


「やったぁ!」


その会話が聞こえて私はそっと耳をドアから離した。あんなに毎日聞き入ってたのに今は何も聞きたくなんてなかった。


私はおかしいのかな、キモいのかな。クラスの誰とも話したことないような私が好きになんてなっちゃダメなのかな…


最初は、ドアが開いたままの音楽室から聞こえたピアノに聞き入ってただけで、好きなんて思ってなかったのに…


私と同じ3年生の青色のスニーカーを履いているのに、なんであの子なんて呼んでるんだろ…名前も知らないくせに好きになんかなるから、、


私は涙を落としながらフラフラと歩いて階段を降りた。





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