第6話 これってAIチャットじゃね?

 校舎に戻ると、他の生徒たちはみんな、レベル二に上がっていた。

 レベルは低いほど上がりやすい。

 一日でレベルが一から二になるのはおかしくない。


 ただし、俺だけは帰る途中で三になった。


 それに、さっきから数分ごとにリザルト画面――俺にしか見えない――が開くし、ストレージには勝手に魔獣の死体や、薬草など森で採れる素材が増えていく。


 もしかしなくても、イチゴーとニゴーがストレージに入れてくれているようだ。


「おいみんな、貴族様の凱旋だぜ」


 俺の姿を見つけるや、生徒の一人が意地悪く笑った。


「一人でシコシコどこで何やっていたんですかぁ?」

「オレらはみんなレベル二になったけど伯爵さまは、おっと元伯爵さまでしたね」

「すいませんねぇ、あたしらだけ先に行っちゃって」


 同級生たちの嘲笑が胸に刺さる。

 これから毎日こんな日が続くのかと思うと憂欝で仕方ない。


 早く貴族科に戻りたい。

 自身の気持ちを代弁するように重たい足を引きずりながら、俺は教室へと帰った。


   ◆


 放課後、俺は誰ともかかわらずに平民科の寮に戻ると、レベル四に上がっていたので三体目、四体目のゴーレムを作った。


 サンゴーとヨンゴーだ。

 ヨンゴーは名前を与えるやいなやメッセージウィンドウを更新。


『おっすおらヨンゴー、こころやさしきかがくのこっす』


 と、某レジェンド作品を彷彿とさせる自己紹介をした。

 先に作ったし名付けたのに、サンゴーはその様子をぬぼーっと眺め終えてから、随分遅れて、


『サンゴーなのだー』


 とメッセージウィンドウを更新した。

 しかも、床にお尻を下ろして。


 ——のんびりだなおい。


 そんなサンゴーの平らな頭の上に飛び乗り、ヨンゴーは俺に向かって勢いよく手を突き出してきた。


『ろけっとぱーんちっす!』

「ついていないぞ」

『ガーンっす。なぜヨンゴーにはついていないっすか? ようしきびなのに!』

「いやどこで覚えたんだよ?」

『でゅくしっす』


 俺が寸止め空手チョップでツッコミを入れると、ヨンゴーはよろけたフリをした。


「それは殴る側の台詞な」


 ——あれか? 俺の記憶を読み込んでいるのか?


 俺が首をひねる間も、ヨンゴーはサンゴーの頭をステージにテンションを上げていた。

 それでもなお、サンゴーは微動だにせず、むしろ丸い目は横線になっていた。


 ——ね、寝ている!?


 図太いを通り越して、貫禄すら感じた。


 イチゴーともニゴーとも違うキャラの濃さに、自律型ゴーレム生成スキルの神髄を見た気がする。


「ていうか友達の頭に乗っちゃ駄目だろ。ほら、降りた降りた」


 わき腹を抱き上げるとヨンゴーは、


『アイキャンフラーイっす』


 と、両手を左右に伸ばした。


 ——うん、絶対地球の記憶継承しているなこれ。


 そうしてヨンゴーを床に降ろすと、俺は二人と一緒にストレージの中の各種素材を物色。


 楽しく品定めをしながらサンゴーとヨンゴーに配合していった。

 その間もリザルト画面は止まらず、寝る前に俺のレベルは五になった。

 すると、ウィンドウに目新しい通知が届いた。


『レベルが5になったことで新しいスキルが開放されました』

『やまびこスキル:イチゴーたちが音声を録音してくれます』

『神託スキル:イチゴーが質問に答えてくれます』


「ようは録音機能とAIチャットみたいなものか。なんかスマホみたいだな」


 付随して、十五年間触っていない自宅の愛機たちを思い出す。

 スマホ、タブレット、AIコンシェルジュ、ルンバ、家庭用3Dプリンタにロボドッグ。

 彼らは元気だろうか。


「でも、イチゴーが答えてくれるって……」


 幼く可愛い動きのイチゴーを思い出しながら、俺は苦笑を漏らした。


「じゃあさっそく何か聞いて……あれ?」


 自律型ゴーレム生成スキル同様、神託スキルを発動させようとするも何も起きなかった。


 妙に感じてウィンドウを操作。

 俺のスキル画面を見ると、【神託スキル】の表示が薄くグレーアウトしていた。

 まるで、最後まで利用規約を読まないと【同意する】が押せないアプリの初期設定画面みたいだった。

 やまびこスキルはちゃんと黒いのに、何故?


「なんだ? 他に何か発動条件でもあるのか?」


 左右からむぎゅっと俺を挟み込み、一緒にウィンドウを覗き込んでくるサンゴーとヨンゴー。


 二人を抱きかかえながら頭をよしよしいいこいいこしながら、俺は首を傾げた。すべすべしていて、なでごこちが良い。


 二人も気持ちよいのか、ますます俺に体を寄せてくる。


 画面の隅々まで視線を走らせるも、詳しい使用条件は書いていない。不親切だなぁと思いつつ、考えるのをやめた。


 この世界にはサポートセンターが無い以上、わかりようがないと寝ることにした。

 着替えて、硬いベッドに入る前にサンゴーとヨンゴーをストレージに戻そうとして、小脇の感触がなくなっていることに気づいた。

 ウィンドウから視線を外して、二人の姿を探す。


「あ……」


 二人とも、勝手にベッドに入っていた。

 その姿は、ママを待つ幼子を思わせる。


「しょうがないな」


 二人を左右の脇腹に抱えて、俺は眠りについた。

 すごく、寝がえりがしにくそうだけどまぁいいだろう。

 むしろ二人がいい抱き枕になったのか、平民科初日の夜は自分でも驚くぐらい早くに意識を失えた。


   ◆


 そして翌朝、目を覚ますと俺はレベル六になっていた。


「え? 俺すごくね?」


 寝惚け眼も吹き飛ぶ画面に、一人で誰かにツッコんだ。

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