第4話 丸くてちっちゃい自律型ゴーレムがひたすらかわいい

 イチゴーと一緒に魔獣狩りをすることしばらく、校舎のほうから鐘の音が聞こえてきた。


 集合三〇分前の合図だ。


「早いな。もう二時間経ったのか」


 ――スマホが無いと時間がわからなくて困るな。


 この世界には腕時計が無い。

 なので、リアルタイムがわからないのは当たり前だと思っていたけど、前世の記憶が戻ると急に不便を感じる。


 俺とイチゴーは三〇体以上の魔獣を倒していた。


 丸いゼリー状の体を持つバスケットボール大の魔獣スライムが十七体。

 ツノの生えた中型犬大のウサギ型魔獣ホーンラビットが八体。

 小学校低学年ぐらいの身長で緑色の皮膚と醜い顔が特徴の人型魔獣ゴブリンが六体だ。


 おかげで、俺のレベルは二に上がり、さっき作ったゴーレム、ニゴーもちゃんと動いている。


「二人とも、いったん戻れ」


 倒れた巨大カブトムシの元から、イチゴーがちょこちょこと駆けてくる。


『がんばったのー、ほめてー』

「ありがとうな、イチゴー偉いぞ」

『えへんー』

「ニゴーも大活躍だったぞ」

『とうぜん』


 イチゴーに比べて、ニゴーはクールというか、あまり喋らない印象を受ける。これが自律型ゴーレム生成スキルなのか、ゴーレムによって性格があるのかもしれない。


「じゃあ配合するぞ」


 言って、俺はウィンドウを操作した。

 ゴーレム一覧画面で【配合】を選択。

 たった今イチゴーが倒した魔獣、ブル・ビートルを選んでから、対象をイチゴーにする。


『ブル・ビートルのツノをイチゴーに配合しました。筋力が上がりました』

『ブル・ビートルの甲殻をイチゴーに配合しました。耐久度が上がりました』


 どうやら、ゴーレムは魔獣の素材を配合すると、ステータスが上がるらしい。


 これまでの二人には、ホーンラビットのツノを配合して跳躍力を上げたり、スライムの核を配合して耐水性を上げたり、ゴブリンの骨を配合して機敏さを上げたりした。


 この作業はソシャゲっぽくて、かなり楽しい。

 ただし、素材ごとに配合数には上限がある。

 スライムの核を合成できるのは五個まで。それ以上は選択できなかった。


「じゃあ帰るぞ」


 俺が二人をストレージに戻そうとすると、イチゴーがぴょこんと跳ねた。


『マスター、ぼくこのままもりであそんでいーいー?』

「え?」

『イチゴー、わがままはよくない』


 ゴーレムだけにして大丈夫か不安な一方で、本人の意思を尊重してあげたいという気持ちもある。


「いいけど、あまり森の奥に行ったら駄目だぞ。この森は奥に行くほど魔獣のレベルが高くなって危ないんだから」


『!?』

『わかったー』

『ま、まて、わたしものこる。マスターのおやくにたつのだ』


 ――あ、この子わかりやすい。


 どうやら、ニゴーは真面目な騎士タイプらしい。


「じゃあ二人とも、くれぐれも気を付けろよ。ロボット三原則だ。一つ、自分の身は守ること。二つ、仲間同士仲良くすること。三つ、俺への報告連絡相談をすることだ」


 実際のロボット三原則はまったくの別物だけど、俺はこの三つを推したい。


『しょうち』

『なかよくするー』


 イチゴーはニゴーにぎゅっと抱き着いた。

 ニゴーはちょっと慌てた。かわいい。


『ニゴーもぎゅーしてー』

『は、はなれるのだ』


 ちっちゃくて丸い二人のじゃれ合いは、まるで赤ちゃんパンダ動画を見ているようにいつまでも見ていられる。

 集合時間があるので俺はその場を離れるも、たびたびうしろを振り返ってしまう。


   ◆


 イチゴーとニゴーを森に残してから数分後、俺はちょっと小走りで駆けていた。


 二人との魔獣狩りがゲームみたいで楽しく、調子に乗ってつい森の奥にまで来てしまったせいだ。


 決して、二人のもちもちとしたじゃれ合いを眺めていたからではない。

 もしも遅刻したら、授業初日から減点だ。


 平民科で手柄を立てて貴族復帰を目指す俺には、痛過ぎる。

 けれど、急ぐあまり注意力が散漫になっていたらしい。

 頭上から聞こえる枝葉の揺れる音を聞き流してしまった。


「■■■■」

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