第4話 ドラゴンなんているわけない

 トーキョー二十三区、上空。

 人類最強のヒーロー・ジャスティスは、黒焦げになって自由落下していた。無論、最強の彼には飛行能力はあるし、これまで一度だって黒焦げになったことなどない。

 遡ること五分前。日課のパトロールをしていたジャスティスは、自らが所属するヒーロー団体であるG.O.Tゴット(ガーディアンズ・オブ・トーキョー)との通信で、不可解な会話をしていた。


「なぁ、おい。今のなんだ?」


 大きなノイズと共に、その音声は始まっている。映像はジャスティスの肩に装着された小型カメラのもので、進行方向がよく見える。


「さあ、ただの電波障害だろ」


 通信相手であるG.O.Tの職員が何気なくそう返す。しかし、納得のいかないジャスティスは続けた。


「いや、絶対何かがおかしい。ここら一体の空気感が変わったって言うか、俺のヒーローセンスが警告を発しているというか――って、なんだあれ」


「え? どれ?」


 職員はカメラを確認したが、ジャスティスが指さす方向には何も見えない。


「あれは……人工物か……? この距離であの大きさじゃ、バカみたいにでかいぞ」


「ジャスティス、カメラには何も……」


「はは、すまなかった、このオンボロカメラでは俺の超絶視力でやっと見えるものなど映りっこないな!」


 ジャスティスの視力は一般人の数百倍ある。このとき、彼は恐らく二〇〇〇キロメートル先のものを見ていたと後の試算で出ている。


「とにかく、見えたものの特徴を教えてくれ、記録する」


 そうして残された記録には、

・明らかに人工物

・黒っぽい色

・飛行している

・UFOに似ている?

 などと書かれている。


「ありがとうジャスティス。これが何かは分からないが――」


 職員が言い終わる前に、ジャスティスからの音声が大きく乱れた。遅れて、カメラの映像も大きくブレる。


「な、なんだ!? こいつ……ッ!?」


 ジャスティスが彼らしからぬ、焦った声色で叫んだ。カメラは安定せず、何を映しているのか定かではないが、何かに遭遇したようである。


「!? ジャスティス! どうした!?」


「どうもこうも――」


 刹那、何やら咆哮のような音で彼の声は掻き消された。


「――ドラゴンか!?」


 やっと聞こえたその言葉に、職員は混乱しながらも返答した。


「何言ってる! ドラゴンなんているわけないだろ!」


 それが、この通信記録に残った最後の会話だった。

 ジャスティスは、黒焦げで自由落下している。肩のカメラは、機能が完全に停止する直前、上空に映る真っ赤な両翼を持った何かを映していた。カメラの端に黒煙を捉えながら、それはどんどん遠ざかる。そして、ぷつりと映像が途切れた。


 同じ映像がエンドレスで映る複数のモニターを前に、護国寺長官と秘書、そしてロキは顔を合わせた。


「なるほど、これは信じるに値する証拠かもしれないな」


 護国寺の言葉に、秘書も頷く。ロキは肩をすくめ、護国寺に目配せをした。護国寺は目を逸らし、軽く咳払いをする。


「で、以前から目をつけていたヒーローの方はどうだ?」


 ええ、と秘書がモニターを切り替える。映像は、トーキョーのシブヤ。今まさに、不知宰吾が、キマイラキングに毒殺される瞬間であった。


「不知宰吾。仮にヒーローネームを“イモータル”としましょうか。今回の作戦に適任だと思います」


 モニター内で、彼は明らかに絶命している状況であった。しかし数秒後、彼はゆらりと立ち上がったのだった。

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