裏9項 ラストチャンス

 

 これで3回目のループ。


 泣いても笑ってもこれで最後。

 対策を立てるべきかな。


 今までのループを振り返ると……。


 ①ルーク様は、わたしが悪い男を好きと思い込んでいる。

 ②ルーク様は、わたしが太った男性は嫌いだと思っている。


 ……ルーク様の考えるわたしのキャラは、悪い人が好きで、太った人が嫌いなメイド。そして、毒舌で大胆……。


 なんだか、私の方がルーク様より悪役な気がしてきた。女神さまー。主役のキャラがブレブレでエタる予感しかしないですよー?


 コホン……、わたしの目標は、あくまで、ルーク様とずっと一緒にいること。そのためには、ルーク様の死も、わたしの死も避けなければならない。


 自己犠牲の寂寥感せきりょうかんに私自身が耐えられないことは、私自身が一番よく知っている。

 


 ふと、ループ3回目の自分の手を見てみた。

 女神様が言った通り、わたしの手は子供ではない。


 だとすれば、今日はあの日か。

 朝食にピーマンが出て、わたしのお腹にサーベルが刺さった日。


 シェフに呼び出され、配膳用のワゴンを受け取る。

 わたしはクローシュを少し持ち上げて料理の内容を確認した。

 

 ……やはり、ピーマンだ。


 あと1日早ければ、シェフへの引き継ぎ事項でピーマンとは書かなかったんだけれど。


 このままいくと、この前と同じ展開で、わたしはお腹チョンパだ。


 ……いっそ、ピーマンを捨ててしまうか?


 でも、そうしたら、この先の展開が全く予測つかなくなる。ピーマンがなくても、何か別の理由で殺されてしまうのかも知れない。ご主人様は、高水準のクズなので。


 それに、千里眼の記憶を頼りにすれば、ピーマンがターニングポイントなのは事実だ。

 これをうまく乗り切れれば、ルーク様は少し変われるのかも知れない。

 


 

  朝食の時間が来た。


 ピーマンの取り扱いについては、ルーク様の顔色をみて臨機応変に行こうと思う。もう死んだら後がないのだ。


 前回と違うのは一点。


 ルーク様のサーベルを隠した。

 あのサーベルを見るとトラウマで膝が震えたが、ルーク様が離席した隙に窓から投げ捨てた。


 ざまぁみろ。小さなリベンジだ。


 これで、サーベルで刺されるという結末だけはないと思う。あとは、ループで鍛えられたルーク様の成長にかけるのみ!!



 ルーク様の部屋の前に行き、ノックをする。

 「朝食のご準備です。よろしいですか?」

 

 ルーク様の部屋に入り、テーブルメイクをして、配膳する。


 ルーク様の様子は……?

 なんかこっちをジーっと見てる!!


 なにあれ。殺意?


 わたしは冷静を装い配膳を続ける。

 

 3皿目、ピーマンの皿だ。

 前回のトラウマで皿を持つ指が震えてしまう。


 ルーク様は……?


 なんだか潤んだ目でこっちをみてるよ。

 先取り喪失感?


 やばい。


 やっぱり、ピーマンは下げよう。

 無理して、見ず知らずの野良ピーマンと爆死する必要はないのだ。


 皿を下げようとすると、ルーク様に制止される。


 「おい、俺がピーマン死ぬほど嫌いだって知ってるよな? なぜ出した? シェフを呼んでこい」


 めっちゃ怒ってるよ。どうしよう……。

 この際、シェフに全部押し付けちゃうか?


 お腹チョンパは痛いからイヤだ。

 なんとかシェフを活用できないだろうか?


 わたしはシェフを呼びにいく。

 

 とにかく、反論とかもってのほか。

 シェフには謝罪マシンになってもらうしかない。

 「シェフさん。ルーク様は、言い訳する人が嫌いです。嵐が去るまで、とにかくひたすら謝ってください」


 そして、腹チョンパ回避のためには、引き継ぎノートの存在は、なんとか伏せたい。


 シェフを部屋に通す。

 わたしは、さっさと部屋を出ようとしたが、ルーク様に呼びとめられた。


 チッ。

 アホの割に勘はいいな。(あ、また心の毒舌が)


 シェフは土下座をした。

 やめて。

 100%わたしが原因なのだ。

 謝れとは言ったが、そこまでされると、なんとなく良心が咎めてしまう。


 それに、やりすぎるとご主人様はマウントをとりにくる。アホな割にそういう勝負勘だけはいいのだ。


 すると、ルーク様は。

 激昂するかと思ったら、ピーマンを国民に食べさせるようにと言っている。


 あれ?

 なんか、前と違う。


 普通に許された。


 ここにきて、大人になったか?


 こうなると、俄然、さっき捨てたサーベルが問題になってくる。どうしよう。ルーク様はアホだけど、急にサーベルの存在を思い出したら困る。


 わたしが半眼でルーク様の方を見ていると、目があった。


 ……早くこの場を離れたい。

 サーベルのことに気づいても、わたしが居なければ、きっとすぐに忘れるだろう。

 

 すると、ルーク様が変な事をいいだした。

 

 「メイ、外出の準備だ。馬車をまわせ」


 まさか。許されたのはシェフだけだったの?

 サーベル捨てたことバレたかな?


 わたしは、馬車に轢かれてリベンジされるのかもしれない。


 すると、ルーク様は街に行くという。

 わたしは馬車に轢かれるわけではないらしい。


 「いや、街に行くぞ。お前の……随分と長く使っているだろ。それに、下着……も入用だろうしな。買い物に行くぞ」

 

 なんかルーク様早口すぎてよく聞き取れないよ。


 聞き取れた範囲だと、下着を買いに行くとか言ってる。

 とうとう直接に身体を求められる時がきたか。


 ……まんざらでもない自分もいる。

 お年頃だからね。そういう欲求がない訳じゃない。


 まさか、ルーク様のこと好きになっちゃったのかな。


 たしかに、1人で待機してたとき、会いたいと思ったけれど。でも、話し相手が欲しかっただけだと思うんだ。


 いやぁ、でも。

 ルーク様との子供。


 うーん。


 どにらにせよ、まだ早いと思う。

 

 それよりも、やはり今夜、処刑されちゃうのかも知れない。だったら、せめて最後くらいは清潔でいたいな。


 お腹チョンパは痛いから、できれば、他の痛くない方法がいい。


 よしっ。

 伝えるぞ。


 「あの、わたし。昨日お風呂に入れていないので、夜になる前に、入浴の許可をいただけませんか? それとわたし、そういう経験ないので痛くしないでください……」



  ★今回のお話しの表側★

「第9項 ラストチャンス」

https://kakuyomu.jp/works/16818093075519809159/episodes/16818093075520647637

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