3-5.三番待合室シーリングライト大尉

 オーナーの案内によって、賓客はホール横の三番待合室に入っていった。

 スタッフたちもぞろぞろとそれについていく。

 王に追随する召使いのような行進だ。


(賓客が三番待合室に入室したのを確認)

(了解!)

(こちら三番待合室シーリングライト大尉より報告!)

(三番待合室シーリングライト大尉、報告をどうぞ!)

(賓客の三番待合室への入室を確認!)

(了解!)

(賓客は室内ソファーにておくつろぎ中)

(了解!)


(あ――っ。三番待合室シーリングライト大尉応答せよ)


 三番待合室シーリングライト大尉が念話を終了させようとしたところ、ドアノッカー元帥に呼び止められる。


(このまま念話を継続し、賓客の様子を実況しろ)

(了解! 観察実況を続けます!)





 え――こちら、三番待合室シーリングライト大尉であります!


 『黄金に輝く麗しの女神』様と『黄金に輝く美青年』様は仲睦まじいご様子で、三番待合室ソファに着席し、おくつろぎ中であります。


 おやぁ? オーナーがなにやらスタッフたちに向けてサインを送っているようですねぇ。

 残念ながら、こちらからはサインの内容は見えません。

 これは驚きました。控えていた若い男性スタッフたちが、三番待合室から次々と退出していますよ。


 どうやら、美青年様のご希望を、オーナーが汲み取ったようですねぇ。

 う――ん。意外と、美青年様は嫉妬深い御方のようです。

 女神様を若い男性スタッフの前に晒すことすら耐えられないご様子ですね――。

 邪魔者がいなくなり、美青年様は満足そうに頷いていらっしゃいますよ。

 オーナーグッジョブですねぇ。


 おおっと!

 ここで、女神様の視線が壁に飾られている絵画に定まったぁ!

 女神様は、二時の方向より数えて三番目、五番目、八番目、十一番目の空の絵を交互に見比べていらっしゃるっ!


 こ、これは……明らかに、連作の絵が間違えて飾られていることに気づかれた模様!

 さすが女神様だぁっ!

 『ストーンブック』と『ストーンボックス』をトンデモナイ金額で落札された慧眼の持ち主! やはり只者ではないぞ――っ!


 おおっと!

 ここで、美青年様も間違って飾られている連作を、瞬きもせずにご覧になっている!

 女神様同様、絵の違和感にお気づきになられたかっ!


 さらに、二番目と十番目、十五番目の絵を女神様は、首をかしげながらご覧になっている!

 とまどうお姿もめっちゃラブリぃ――っ!


 ザルダーズの優秀なスタッフや、複数の鑑定士をも欺いた贋作に、女神様は気づかれた模様!

 素晴らしい!

 素晴らしすぎます!

 さすが女神様だ!


 麗しの女神様は、三点の絵を見比べながら、右の人差し指を頬にあて、コテリと首をかしげていらっしゃるぞ!


 なんて、キュートなお姿!

 護衛欲をそそられる禁断のちっちゃな口元に、ぷくっとふくらんだホッペ!

 これぞ至宝!

 拝むべき対象!


(ちょ、ちょっと……三番待合室シーリングライト大尉? なにやってるの? 実況の意味間違ってない?)


 元帥閣下が大尉の報告に割って入るが、反応がない。


 実況はさらに続き、聴衆と化した部下たちのにぎやかな喝采が、元帥閣下の脳裏に響く。


 ……なんと! 毅然と構えていらっしゃる美青年様も、このラブリーチャーミーな女神様の仕草には全く抵抗できないご様子!

 即刻撃沈!

 女神様に骨抜きメロメロだあっ!


 おおっと!

 ここで、美青年様が勇気をだされて、女神様のうなじを撫であげる!

 ふわっ!

 女神様! なんという表情を! これは殺人級のテレだ!

 美青年様! 硬直!

 これっぽっちも動けな――い!


 可愛い! 可愛い! めっちゃ可愛いゾ、女神様!


(もしも――し! 三番待合室シーリングライト大尉! なにを実況してるのかな? 美青年様に怒られるよ? やめなさ――い!)


 元帥閣下の念話は、実況に興奮しきっている部下たちの雑念ノイズによって、無惨にもかき消されてしまう。


(お――い! 聞いていますかぁ……? もしも――し!)


 しばらくの間、大尉は女神様の可愛さを褒めちぎった後、実況に戻る。


 おっ!

 体勢を立て直した美青年様の視線がぁ……女神様から壁の絵に向かわれ……固まったぞ!


 なんと! 二番目の贋作を凝視していらっしゃるぅ!

 それから、軽く顔を動かされ、他の絵も鑑賞されている模様。


 おっとおぉ!

 十番目の絵画で、美青年様の肩がピクリと跳ね上がったゾ。

 これはもしかして!


 さらに……十五番目の絵のところで、肩がふるふると震えているぞ。


 間違いない!

 美青年様も、待合室に飾られている贋作に気づかれた!

 しかも、女神様と違って、美青年様はあきらかに気分を害されているご様子!


 当然です。

 女神様をエスコートした先の待合室に贋作が飾られていたら、美青年様の面目は丸つぶれです!


 これは由々しき事態です!

 オーナー大、大、大ピ――ンチ!

 もしかして、一触即発の事態か!

 オーナーの生命は風前の灯火!


(お――い! 三番待合室シーリングライト大尉! それはまずいよ。やめなさ――い)


 ここで、女神様が美青年様を見上げた!

 美青年様が微笑まれる!


 おおおおおおっっ!

 百万ゴールドの微笑みだぁっ!


 み、見事な表情の変化だ――!

 驚くくらい素早い気持ちの切り替え!


 美青年様の微笑に、女神様は頬を赤らめ、一千万ゴールドの笑顔で返されるぅっ!


 このやりとりで、美青年様のご機嫌が上方修正された模様!

 贋作指摘は見送りか?

 美青年様はオーナーに対して、なにも行動を起こされないぞ?


 オーナー! 命拾い! 助かった!

 ザルダーズのオーナーにふさわしい、悪運の強さ!

 これぞ、泣く子も黙るザルダーズのオーナー!

 生まれ持った不運体質を、オーナー補正で回避したぁ!


 と……ここで、問題のオーナー登場!

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