第21話 最後のサムライ

「なんて卑怯な真似を!」

「なんとでも言うがいい!もう、貴女が私を嫌いだろうが、そんな事はどうでもいい!あの男を助けたければ同意書にサインするんだ!」


ブタフィの理不尽な要求に、怒りで肩を震わせるイベリコ。しかし、署名を拒否すれば最愛の恋人ロースの命は無い……


『イベリコ!署名なんかするなっ!オレは死んだって構わない!だから、そんな奴の言う事に従うんじゃない!』


ブタフィのスマートフォンの向こうでは、自らの命を犠牲にしてもイベリコを護ろうと、ロースが声を限りに叫んでいた。けれども、そんなロースの叫びはイベリコにとって余計にロースの事を愛おしくさせるだけであった。


「ブタフィ将軍……そのスマートフォンの電源を切って下さい……」


瞳を伏せたまま、イベリコはブタフィに静かにそう告げた。せめて、ブタフィとの婚姻の同意書に署名するところだけはロースに見せたくは無かったのだ。


「仰せのとおりに」


 不敵な笑みを浮かべたまま、ブタフィは言う通りにスマートフォンの電源を切った。ブタフィとの婚姻が成立すれば、ブタフィは直ぐにでも王室内の制圧に動き出すであろう。そして、ブタフィ将軍は名実共にブタリアの国王となり、この国の恐怖政治はより酷いものとなっていくに違いない。しかし、それでもなおイベリコには今、目の前の命を見殺しにする事はどうしても出来なかった。

悔しさ、切なさ……そしてやるせなさでイベリコの瞳には、涙が溢れていた。



♢♢♢



その手に握られたペンが、こんなに重く感じた事は無かった。


「ごめんなさい…………」


誰に言うでもなく、イベリコの口からは自然とそんな言葉が呟かれていた。

やがてイベリコは覚悟を決めて、テーブルに置かれた婚姻同意書へと目を向けた。

そして、既に署名されているブタフィの名前の隣に筆先をつけようとした……


その時だった。


突如として部屋のドアが開かれ、1人の兵士が慌てた様子で中に入って来た。


「将軍、大変です!敵が宮殿に攻めて来ました!」

「なんだ!騒々しい!」


あともう少しというところで邪魔が入り、兵士をギロリと睨みつけるブタフィ。

しかし、敵が攻めて来たとなれば、これは穏やかでは無い。相手はブタフィの独裁政治に不満を持つ、貧困層を中心とした反乱軍か?それとも、ブタリア王国の急激な軍備拡大路線に過敏に反応した国連軍の牽制だろうか?思い当たる例は幾つもあるが、敵とは一体何者なのだろう。


「敵は一体何者だ!人数と装備は!」


さすがは軍人。ブタフィは、すぐさま臨戦態勢に入る為に必要な情報の聞き取りを始めた。ところが、それに対する兵士の回答にブタフィは唖然としてしまった。


「それが……だけでして…………」

「なに!たったの四人だと?……」


一国の軍隊を相手に、たったの四人で向かって来る事など非常識にも程がある。

ブタフィの思い描いたどの敵の中にも、そんなバカげた戦法を採用する組織などいるはずが無かった。向かって来る四人組の敵が一体何者なのか皆目見当がつかないブタフィと兵士。


しかし、一緒にいたイベリコには、それが誰なのか直ぐに判った。


「チャーリーズエンゼルパイ……」


その名前が、自然とイベリコの口をついて出た。


『必ず助けに来るから!』


チャリパイとの別れ際に聞いたあの言葉が、再びイベリコの脳裏に蘇る。


彼等は約束を守ったのだ!圧倒的に不利なこの状況で失敗すれば殺されるかもしれないというのに……それでも逃げ出さずに、イベリコを助ける為に戻って来てくれたのだ!


「何者なんです?その、というのは?」


ブタフィの問いかけに、イベリコは瞳を潤ませ、しかし力強い口調で胸を張って答えた!


「彼等は……チャーリーズエンゼルパイは……正義の為には死をも恐れない!遥か遠いニッポンからブタリアを救う為にやって来た…………

彼等こそだと私は断言します!!」




♢♢♢




タッタッタッタッ………(ダチョウの足音)


クゥエエェ~~~~ッ!


「コブちゃんが、みんなの『サムライ衣装』を作るっていうから、のかと思ったら…………なんで四人共『バカ殿』なんだよっ!」

「うるさいわね!よろいなんて難しくて作れなかったんだからしょうがないでしょ!」

「乗っているのも、馬じゃ無くてダチョウだしね……」

「アイ~~ン♪」


お馴染み、真っ白な『バカ殿』メイクに金ピカの衣装でヒゴー、ジモン、リューヘー、そしてハゲタの四羽のダチョウにまたがり宮殿へとやって来たチャリパイの四人。最後のサムライと呼ぶには、何とも頼りない登場のしかたである。


「さぁ~ひろき!ブタフィ軍の奴らに私達の旗印を見せてやるのよっ!」

「わかった~~それ~~っ!」


子豚の号令に従って、ひろきが自ら製作したお手製の旗印をスルスルと広げ、自慢気たっぷりに空へと掲げた!……のだが……………………


「ちょっと!ひろき~~!何よそれ、じゃないのよ!」

「え~~~っ!こうじゃないの?」



『風 鈴 母 さ ん』



「『風鈴母さん』って、!風林火山でしょ!ひろきのバカァ~~!」


子豚とひろきのボケキャラコンビ……ある意味最強かも…………

















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