第13話 ブタフィの野望

蛇料理をとても美味そうに食べるシチロー達に気を良くしたブタマーンは奥の部屋に行くと、棚にしまってあった何本かの酒瓶を四人の為に抱えて戻って来た。


「よし、今日はこいつで一杯やろう」

「ヤッタァ~~ブタマーンさん、そうこなくちゃ」


そう言って一番最初に喜んだのは、やっぱりひろきだった。


「それでは、トンカーツで出逢ったニッポンからの新しい友人に!」

「親切なブタマーンさんとミミガー君に」

「カンパァ~~イ」


チャリパイが関わる宴会には、やはりアルコールは欠かせないのだ。見かけは悪いが、とびきりの美味な蛇料理にアルコールの酔いも合わさって、ブタマーン家の食事会は一際盛り上がっていた。


だが途中、シチローのある一言がきっかけでその様相は変わった。


「いやぁ~こんなに美味しい料理とお酒までご馳走になるなんて、トンカーツは本当にいい町だなぁ~」


そのシチローの言葉を聞いたとたん、それまで上機嫌だったブタマーンの顔が険しくなった。


「この町がいい町だって?フン!馬鹿を言っちゃいけねえ!この町は最悪な町だよ……それもこれも、みんなあのブタフィ将軍のせいだ!」


そしてブタマーンは、持っていたグラスの酒を一気に喉に流し込み、空のグラスを勢いよくテーブルに置くと吐き捨てるように後を続けた。


「確かに、国王が御健在な時のこの町は活気があって明るくいい町だったさ……しかし、国王がご逝去されブタフィ将軍がこの国の実権を握るようになったら、それはもう酷いもんだ……」


その話ならば、日本にいる時にシチロー達もイベリコから大まかな事は聞いて知っていた。しかし、ブタマーンの話に耳を傾けるうちに、チャリパイの三人は今まで知らなかったブタフィ将軍の新たな野望を知る事となった。


「国王亡き後、この国を治めるのは国王の娘君であるイベリコ姫であるべきなんだ!

それをあのブタフィは、軍事力を盾に王家の意向を無視して、やりたい放題の独裁政治だ!見張りの兵士がいるから、皆おとなしく従ってはいるが、我々国民は誰も奴をこの国の指導者だとは認めてはおらんよ!」


国民の意思を代弁するブタマーンの発言に、子豚に化けているはずのイベリコが思わず言葉を漏らした。


「ありがとう…ブタマーンさん……」

「えっ、何が?」

「えっ?…いや、その……こんなに素敵なおもてなしをしていただいて……」


思わず口をついて出てしまった台詞を、慌てて誤魔化すイベリコ。もしこの場所にいるのが王家の正統な継承者であるイベリコ姫だとブタマーンが知ったら、とんでもない大騒ぎとなる事は火を見るより明らかである。


酔いが回って少し愚痴でもぶちまけたくなったのだろう。酒をあおり、悔しそうにブタリア王国、そしてトンカーツの未来を嘆くブタマーン。


「税金は上がる、物価も上がる、しかし景気も俺達の暮らしも下がりっぱりなしさ……皆から巻き上げた金は全て軍備拡大の為に使われるからだ!」

「まぁ~ブタマーンさん、そんな一時的な政権なんて長くは保たないさ。だって正統な権利は王家にあるんだから」


興奮するブタマーンを宥めようと、シチローはそんな言葉をブタマーンに投げかけた。


ところが……


「俺達国民もそう思って我慢したさ……しかし、もう我慢の限界だ!

ブタフィの野郎、王家と繋がりを持ち名実共に権力を手に入れる為に、らしいんだよ!」

「なんですとおおぉ~!」


ブタマーンから初めて聞かされたブタフィ将軍の新たな野望に、シチロー、てぃーだ、ひろきの三人は驚愕した!


そして一斉にイベリコの顔へと目を向けると、イベリコは黙ったまま下を向いて項垂うなだれているだけだった。




♢♢♢




「ねぇ~イベリコ、あの話ってホントなの?」


食事が終わって、自分達が泊まる部屋へと戻って来ると、すぐさまひろきがイベリコへ問い掛けた。


「本当です……でも私は、ブタフィの花嫁になるつもりはありません。絶対に!」


ブタマーンが言っていた事は本当であった。ブタフィ将軍の幾度もの婚姻の申し出からイベリコを護る為に、王家はイベリコをブタリアから遠く離れた日本へと行かせたのだった。


そして、イベリコは日本でチャリパイと出逢い、イベリコの代わりに子豚が、イベリコを追って日本にやって来たブタフィの親衛隊に拉致されてしまったのが、これまでのいきさつである。


「って事は…今頃宮殿ではコブちゃんがブタフィからの求愛を受けている訳か……」


腕組みをして、子豚を心配す素振りを見せるシチロー。しかし、その表情は心なしかニヤけていた。


すると突然、ひろきが思い出したように顔を上げた。


「そうだ!ブタフィって、もしかしてイケメン?…だったらコブちゃん結婚しちゃうかも!」


と、慌てた様子で騒ぎ出すがそんなひろきにてぃーだが部屋に置いてあった新聞の

一面を見せ、言った。


「その心配は無用のようね……この新聞にブタフィ将軍の写真が載っているわ」


その写真を覗き込むと、ひろきもてぃーだに同調する。


「うわ~~!なんか、ブルドックみたい……」


ブタフィ将軍。名前は『ブタフィ』でも、顔はブルドックであった。











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