第11話 ブタリア王国

ラッカーエアラインの飛行機では散々な目にあったが、子豚救出の目標を掲げ、ともかく無事ブタリアの地へと辿り着く事に成功したシチロー、てぃーだ、ひろき、そしてイベリコの四人。


さて、一方ブタフィ親衛隊に捕らえられブタリアに連れて来られた子豚は今頃どうしているのだろう?



♢♢♢




……その頃、子豚はブタリア宮殿の王家専用の特別室に居た。あんな形で無理矢理ブタリアへとさらわれて来た子豚であるが、ブタフィ将軍側は子豚を次期王女最有力候補のイベリコだと完全に誤解している。


彼女が丁重な待遇を受けているのは、至極当然と言える。


但し、宮殿からは一歩も外へ出られず仲間もいない、籠の中の豚…いや、籠の中の鳥状態の子豚にとっては、この場所は退屈以外の何物でもなかった。


宮殿の窓枠に手をついて、遠く離れた異国の空をぼんやりとした表情で仰ぎながら、日本を想いポツリと呟く子豚……


「……お寿司が食べたいわ…………」




♢♢♢




「え~と、オイラ達の泊まるホテルは、この場所からだと……」


パラシュート着地点から歩く事30分。

シチロー達四人は、ブタリア宮殿から比較的近い『トンカーツ』という名の町の中を歩いていた。


食料品の市場が建ち並ぶトンカーツのメインストリートには、周辺の町からも数日分の食料を調達する為に、多くの人々が訪れる。元々賑やかな町であったトンカーツだったが、国王死去の後ブタフィ将軍による国の支配が始まると、この町にも様々な変化が見られた。ブタリア軍の軍備増強の為にブタフィ将軍が執った強引な増税、そしてインフレ政策の為にブタリアの物価は急上昇し、この町の経済を切迫させていた。


そして町には、反ブタフィのデモを警戒して多くの銃を持った兵がそこかしこに立ち、不穏な空気を漂わせている。つまり……簡単に言うと、平和な日本に比べると

ここはかなり物騒でヤバイ雰囲気だという事だ。


「ねぇ~、まだ着かないの~あたし達が泊まるホテル?もう歩くの疲れちゃったよシチロー!」


そんな事を言いながら、ひろきが立ち止まり自分の荷物を足下に着けた


その時だった!


突然、人混みの中から四人の方に向かって走ってきた一人の子供が、ひろきの荷物を引ったくるようにして抱え、そのまま走り抜けて行った!


「あっ!!あたしのバッグ!!」


あまりに突然の出来事に一瞬呆然とするシチロー達の横で、ひろきが大声で喚き出した。


「どうしよう!あれ、パスポートとかも入ってるのに!」


ひろきの慌てぶりを見て我に返ったシチロー達は、急いでその子供の後を追いかけたのだが……


「こら待て!ドロボ~~~っ!」

「バッグ返せぇぇ~~っ!」


バッグを抱えながらも、子供の足はかなり速かった。


シチロー達四人も必死になって追いかけるが、子供は小さい体を利用し人混みの中を巧みにすり抜けて、追いかける四人との距離を徐々に広げていった。


「待てぇぇ~~っ!」

「誰かその子供捕まえてえぇぇ~~っ!」

「クソッ!あの小僧、足速過ぎ!」


必死に追いかけても全く差は縮まる事なく、むしろ広がる一方の状況に、シチローは半分諦めの表情で悔しそうに子供の背中を目で追う。


一方、走りながら後ろを振り返り、その様子を見た子供は勝ち誇った顔で笑みを漏らした。


(やった!)


ところが、喜んだのも束の間その子供は路地から飛び出して来た一人の男の強烈な

平手打ちによって、地面に吹っ飛ばされてしまった。


「いってえぇぇ~~っ!何すんだよっ!!」

「馬鹿野郎~っ!人様の物を盗めなんていったい誰が教えた!」

「ちきしょう!ジャマしやがって!」


子供に逃げ切られると思って半ば諦めていたシチロー達は、目の前で大人に掴み掛かっている子供の所へ今がチャンスと急いで近づいて行った。何をさておいても、まず道端に転がっているバッグに飛びつくひろき。


「あたしのバッグ戻ってきた~よかった~~」


そして、四人であの子供と彼を殴った男の様子に注目する。


「ほらっ!この人達にちゃんとお詫びせんか!」


四人が来た事に気付いた男は、子供の耳を引っ張り無理やりひろきの前に向かい合わせた。


「イテテテ!いて~よ、と~ちゃん!」

「と~ちゃん?」


子供の発した言葉に思わず顔を見合わせる四人に、男は片方の手の指で鼻の頭をさすりながら苦笑いをした。


「いや、本当に面目無い。こいつは俺の息子で『ミミガー』と言います……手癖が悪くてどうしようもないガキでさあ……」

「だからいきなり殴ったのか……こっちもちょっとビックリしちゃったけど……」

「殴らないとわからねぇんですよ!このクソガキはっ!」


そう言って、父親が再びミミガーの頭をこずくと、ミミガーは下を向いて悔しそうに目に涙を溜めた。


「だって、しょうがないじゃないかよ……、おいら達はずっと貧乏のままなんだから!」

「だからって人様の物に手をつけるヤツがあるかっ!」

「だって…だって!もうこんな貧乏いやなんだよっ!!」


ミミガーのした行為は、生活の為に働き詰めである父親の事を想ってした盗みであった。だから尚更の事、父親に殴られ説教されたのが悔しくて仕方なかったのだ。


そして、そんな親子の様子に最も胸を痛めていたのは、サングラスやマスクで正体を隠してその場にいたイベリコであった。


(ブタフィ将軍の軍事政権は、こんな子供達の心まで……)


チャリパイの三人も、バッグを引ったくられた怒りなど、もう既にどこかへと吹き飛んでしまっていた。ひろきが親子に向かって言う。


「もういいよ…バッグ戻ってきたし……それにこの中、お金とかちょっとしか入ってないしさ~欲しいものは全部シチローが出してくれるから」

「おい。ひろき!か、今?」

「えっ?だって、おみやげとか全部シチロー持ちじゃないの?」

「なんでそ~なるんだよっ!」

「え~~~~っ!違うのおぉ~~?」


ひろきとてぃーだの声がハモった。


「ティダまで………」


説教ならば、ミミガーよりもむしろこの二人にして欲しい……と、本気で思ってしまうシチローであった。


「だいたい、飛行機代とかホテルの宿泊費とか、今回は結構経費がかさんでるっていうのに……」

「なによ!飛行機なんて一番安いやつだったじゃん!おかげで墜落しそうになったんだからね!」

「うっ……それを言われると…………」


確かに、ひろきにあのラッカーエアラインの事を持ち出されるとシチローも返す言葉が無い。


「と、とにかく!今回は経費がかかり過ぎなの!おみやげ代なんて、とんでもない!」

「なによ!ケチィ~!」

「何とでも言ってくれ!この後もホテルの宿泊費だってかかるんだからな!」

「ふん!どうせ安いホテルに決まってるんだから!」


ミミガーの引ったくりの件がすっかり話題が逸れて、事務所の経費の話で揉め始めたチャリパイの三人。


すると、そんな三人の様子を見かねたのか、ミミガーの父親からある提案が持ち出された。


「アンタ達、それだったらウチに泊まったらいい。それなら金はかからんぞ」


















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