13.閉鎖環境試験ふたたび

 旧家を過ぎると、閉鎖環境試験の試験場へとたどり着いた。そこには、ドヴォルザークとベートーヴェンがいた。何か作業をしている。

「やあ、ケンジさん。お久しぶりです」

「おや、こんなところ見られてしまった。まあ、気にしないでください」

 二人は気さくに答えた。二人は黙々と作業をしている。ドヴォルザークは空気循環装置の点検口を開け、部品の交換を行っている。ベートーヴェンは、什器類をアルコール消毒している。

「おや、やはり二酸化炭素吸着フィルタが逆向きだ。でも、発熱とは関係なさそうだ」

 ドヴォルザークが空気循環装置の点検を終え、点検口を元に戻した。

「きっと、どこかでウイルスが付着してしまったのだと思います」

 ベートーヴェンは洗浄作業を続けていた。

 その時、ケンジの胸ポケットから、手のひら程度のサイズになったベータが出てきた。

「私の命運もここまでのようです。ケンジさん、一緒に旅ができてよかった。ありがとう」

「ベータさん。あなた・・・」

 ケンジが声を掛けようとしたと同時に、ベータは消滅した。

 ベートーヴェンは静かにケンジに声をかけた。

「これで、ベータ型の新型ウイルスに感染することもなくなるでしょう」

 ベートーヴェンとドヴォルザークはケンジのところに歩み寄った。

「これは、試験対策のメモです。プランをここにあるように変更すれば、おそらく大丈夫です」

 ケンジは尋ねた。

「なぜ、この試験にそんなにこだわる?」

 ドヴォルザークが答えた。

「未来につながる一歩だからですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る